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第一章 ~死ねない・君~ 9

「失礼しましたー」

 ほっと一息をつく、俺。なんとかギリギリセーフで課題を受け取ってもらった。うむ。先生はやはりこれぐらい寛大でないと。

 日ももうすぐで暮れてしまうので早く帰ろう。そう思いながら教室へと向かうため、階段を上がっていく。俺の教室は三階にあり、職員室は二階なのでそう遠くはない。

 誰もいない階段を上がりきり、誰もいない廊下をわたって、俺のクラスへと着く。

 まぁ教室にも誰もいないのだろう。部活の人はまだ外で練習に励んでいるし、その他の人はこんな時間まで残る必要性がないしな。そんなことを思いながら、俺がそのドアを開けると。

 予想もしていなかった人物が窓際に立っていた。

「……紅染?」

 思わず彼女の名前を呼んでしまう。

 そう。そこにいたのは紅染リオンだった。もうすぐで日が落ちるその朱の斜光が入ってくる窓によりかかり、彼女は外を見ていた。

 そして、俺に気づいて、こちらへ振り返る。

「貴方、誰?」

 と、いきなりそんなことを言われた。思い返すと、これが彼女との初めての会話である。

「このクラスの人間だよ。ちょっと課題を出し忘れて荷物をここに置いたまま提出しに行ったんだ。今から帰るところだけど」

「そう」

 俺の話を興味なさそうに空返事で流す。いや、俺自身に興味がないのだろう。紅染はまた外を見始める。

「お前は何してるんだ、こんなところで。学校の探索とか部活の見学とかでもしてたのか?」

「いいえ。もう学校の施設の配置は覚えたし、別に部活も興味ないわ」

 淡々と質問を答えていく。別に紅染と楽しい会話をしたいと思ったわけではないが、これだとあまりにも無機的だとも思えた。

「じゃあなんだ、何してたんだ?」

 なので負けじとさらに質問をする。紅染は俺の質問に対して鬱陶しそうな顔もしない。そしてまた、嬉しそうな顔もしない。

「特に何も。ただこの夕焼けが綺麗だったから見ていただけ」

 しかしその返答はおそろしく真っ直ぐなものだった。ただ景色が綺麗という理由でそこにいたとは、なかなか普通の人はそんなことは言わないだろう。

「へぇ。だけど俺はそんなに好きじゃないな。夕焼け空って」

 だから俺も正直な気持ちを彼女に言ってみる。

「え?」

 すると紅染は驚いたようにまた俺の方へと振り向いた。

「だって、終わりをイメージさせるじゃないか。子供のころは遊んでたら日が暮れてきて、この夕焼け空を見ると、「ああ、もう終わりなんだなって」思うだろ?」

 俺は子供の時、よく外で遊ぶ方だった。なので鬼ごっことか、かくれんぼとか、缶けりとかをよく公園などでやっていたのだ。でも、ずっと楽しくていつまでも続けていたいと思うのに、無情にも太陽は落ちて行ってしまう。だから夕焼け空は嫌いだった。時間の有限さを子供ながらに思い知らされたのだ。

「時間は限りがあるんだなって、これを見ていつも思っちまうんだ。楽しい時間も何気ない時間も必ず過ぎていく。まあ変な考えだと思うかもしれないけど、わりと本気にそう思うんだよ」

 苦笑いをして、俺はそう言った。紅染はそれを聞いて、目を見開いて驚いた表情をしている。無理もない。こんな恥ずかしい話、誰もが呆れてしまうだろう。

「じゃあな。悪かった、変なこと言って。とりあえず、紅染も早く帰れよ」

 そう言いながら鞄を持ち、教室を去ろうとする。だが、

「待ちなさい」

 突然、俺は紅染に止められてしまう。

「な、何?」

 首だけを後ろに回し、彼女の方を見る。すると紅染は腕を組んで、俺を見ながら少し奇妙に笑っていた。

「少し、貴方に興味を持ったわ」

 そんなことを言って、彼女は寄りかかっていた窓から離れ、俺の方へと少し近づいてくる。

 それに対し、俺は踵を返し、彼女の方に体を向けた。

「興味?」

「ええ。ねぇ貴方。名前は?」

 丁度黒板の端と端で、俺と紅染は対峙する。

「え……九重カイトだけど」

「そう、カイト。私が興味を持った貴方に一つだけ、忠告しておくわ」

 彼女は夕暮れの光を背に、その顔を隠していた。しかし、その口元だけははっきりと見える。それは悪戯をする悪魔のような笑み。

 それを見て、俺はゾクリとした。

 何かが俺の中に入っていき、埋めていくような、そんな気分。

 紅染は徐々に近づいてくる。一歩、また一歩と。

 俺は何もできずに、立ち尽くすのみ。ただ、そこにいるだけのカカシと同じ。

 そして、彼女は俺の横を通り過ぎる瞬間。

「気おつけたほうがいい。貴方も、その周りも狙われてる」

 そんなことを耳元で囁いて、その転校生は教室を去って行った。

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