第一話 選抜クラス、結婚相手候補一覧
恋愛を題材にした異世界コメディです。
糖度は高くありませんが、愛情はあります。
*一部、婚活のためのちょっと危ない策略が登場します。
まだひんやりとした風が吹く朝、アカデミーの掲示板の前には人だかりができていた。
人波をぬうようにして掲示板に近づいた少女は、上から下へとざっと目を走らせた。
『リゼット・モロー』
自分の名前を見つけた瞬間、リゼットは小さく拳を握りしめた。
「やったわ……」
最終学年、外交・政治・法務など、卒業後に国家機関や名門家で働く即戦力を身につけるための14人からなる選抜クラス。各コースの成績優秀、人格面でも問題のないと認められた一握りの生徒だけが名を連ねる狭き門だ。
上昇志向の強い者は特別講師陣の豪華さや、国のトップたちとのコネクションを求めてこのクラスを目指す。
そこに選ばれるために、リゼットも今までありとあらゆる努力を惜しまなかった。
「リゼ、やったわね!」
「おめでとう!」
同じコースの生徒たちが一人、また一人とリゼットの肩を叩いて祝福する。
「ありがとう、ありがとう」
リゼットも一人一人にとびきり可憐な笑顔を向ける。
さあ、これからは……本格的な婚活よ!
トルカスタ地方、と聞くと王国のほとんどの人は「ああ、あの自然が豊かな……」と言う。リゼットはその辺境出身の平民だ。両親を早くに亡くしたものの、彼女の優秀さは初等教育の頃から抜きん出ていたため、教師と領主の推薦で、奨学生としてこの王立アカデミーで学ぶことができた。
「推薦をいただけたことには本当に感謝しているけれど……」
赤みがかった肩までのウェーブヘアを揺らしてリゼットはつぶやいた。
「このまま卒業して、タルカス様のところへお嫁に行くなんて、冗談じゃないわ」
領主の息子のタルカスは、リゼットを気にいっていて、何かにつけて彼女を呼び出し、高価なプレゼントを贈ってくれたが、正直好みではなかった。
玉の輿じゃない!と皆に揶揄われたり羨ましがられたりもしたが、だいたい彼は人の話を聞かないのだ。言葉には出さないものの当然自分との結婚なんて光栄だろう?という態度が透けて見えた。
自分の未来は自分で選ぶ。一生を田舎の領主の妻で終わらせるつもりはない。
だからこそ、このアカデミーで最高峰の結婚相手をゲットするのだ。
リゼットは、掲示されている選抜クラスのメンバーの名前を上からもう一度目を通していく。
頭の中にある貴族名鑑と照らし合わせながら。
14人中男性が10人。うち二人はすでに婚約を公表している。
有名な商会長の息子、財力は申し分ないが、成金感がある。
彼は子爵家の跡継ぎ、父親は発明家として有名ね。将来性は、はっきり言ってギャンブルかしら。
エドガー・バレンティン、彼は公爵家……三男。
うーん。
ちょうど斜め前で、長身の淡い金髪の男性が友人達から祝福を受けていた。
「さすがですわね、エドガー様!」
「いや、運がよかっただけだよ」
「運だけで入れるところじゃないだろ」
ちょっと垂れ目で愛嬌はある顔立ちだが……普通。
三男だし、家督はなし。うん……完全に名前負けよね、無し。
一瞬でエドガーをターゲット候補から除外したリゼットの視線は、リストの最上部に躍り出た『本命』へと吸い寄せられた。
やっぱり、彼かしら?
アレクシス・モンフォール。
名門伯爵家の跡継ぎ。父親は王室の信頼も厚い、有名なイケメン外交官だ。
周囲の生徒たちの興奮した囁き声が、自然と耳に入ってくる。
「アレクシス様、お母様の海外療養からようやくお戻りになったのね」
「向こうの学校を早期卒業しての編入なんですって。お父様譲りの、息を呑むほどの美男子らしいわよ」
「滅多に人前に姿を現さないから、実物を拝めた人はまだ少ないみたいだけど……」
決まりね!
リゼットは心の中でガッツポーズを繰り返した。
あと一年。まずは「クラスメイト」として近づき、お友達から始めて、何が何でもあの玉の輿に乗ってみせる!




