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ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→  作者: ぱちぱち


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第70話 社長が悪いんだろ

「久しぶりだなぁ、山里」


「……ああ。顔を合わせるのは一年ぶりか」



 昔働いていたブラック企業の近所にある夫婦で経営する喫茶店で、竹永と顔を合わせる。昼ランチが500円で食べられる上にスープ飲み放題という神のような店だったため、前職では1週間のうち定休日の日曜以外は毎日通っていた記憶がある。


 今日はどうする? そりゃ昼ランチでしょ。1年前まではそんなやり取りを、目の前の男と毎日していた。少し懐かしさを感じながら、当時と違ってスーツではなくカジュアルな服を着て竹永と向かい合う。


 没交渉という訳ではない。イトデンワというコミュニケーションアプリで前職の職場の皆とはやり取りをしており、彼らの近況は俺も大体聞いたりしているからだ。竹永は会社が潰れた後、埼玉の実家に戻って次の仕事を探していた筈だ。営業も経理も同時に経験しました、なんて言ったら相手の企業の反応が結構良いとグループメッセージで語っていたのは、つい先月の事だ。


 それからやり取りをしていなかったが、それも特に連絡をするような事が無いからだと思っていた。やり取りが途切れて少し経つくらいは、以前にもあったから。



「……どうした」



 だから目の下にクマをつくりやつれた様子の竹永の姿に。思わず、そう口に出してしまった。俺の言葉に竹永はコーヒーカップを傾けた後、少し間を空けて俺に視線を向ける。



「どうしたって?」


「顔色悪いし、目の下のクマが凄い。体調悪いんなら言ってくれれば」


「ああ。最近眠れてなかったんだ。体調はまぁ、寝不足だけど悪くはない。忙しくてね」



 俺の言葉にそう応えた後、竹永はコーヒーに砂糖を足してグルグルとかき混ぜた。



「そっちだって忙しいんだろ? 前に言ってたスタートアップ、見事に成功したじゃないか。SNSを見てたらお前んとこの会社の名前、いっつもどこかにあるぜ」


「まぁ、色々話題があるからな」


「景気が良いねぇ、羨ましいこった」



 そう言ってケラケラ笑った後、竹永は砂糖を足したコーヒーをくっと一気に呷る。飲み干したコーヒーカップを置いた後、竹永はふぅ、と一つため息を吐いた。



「そんな景気の良い山里に、頼みがある。動画を見たけどお前んところの会社、雨宮セキュリティーと繋がってんだろ? 雨宮社長を紹介して貰えないか」


「あそこに入社するのだけは止めとけ。死ぬほどシゴかれるぞ」


「ははっ。それも良いかもしれないな。何事にも体力は必要だし、良く寝れそうだ」



 俺の軽口に竹永は笑い声を上げた後。小さく首を横に振った。首を横に振って、そして、口を開いた。



「母さんが他界したんだ。だから、実家を出る事になった」


「……いつだ。葬式は」


「先月だ。葬式やらなにやらは内々で終わらせてある」


「そうか……お悔やみ申し上げます」


「ありがとう」



 竹永の言葉にぺこりと頭を下げると、竹永は一言そう言って応え、言葉を続ける。



「俺も他の兄弟も家を出てたからさ。父さんが亡くなってから、母さんずっと家に1人だったんだ。俺も会社が潰れてやることが無くなったし、実家に戻って暫く親孝行でもするかなって思ってたんだ。母さんからは余計な心配すんなって、私は一人で大丈夫だから働けって怒られちゃったけど」


「そうか」


「ひき逃げだったんだ。無免許の外国人で。一度引いた後、止めを刺すためにもう一回バックして母さんを踏みつぶしたらしい。証拠隠滅のつもりだったんだろうけど、すぐに捕まってね。そいつが先週、不起訴になって出てきたんだ。日本語が分からないと主張して取り調べが出来ずに、拘留期間が超過したとかだったかな。警察も通訳が少なくて取り調べが出来ないんだって言われたけど、最初は担当の警官がなんて言ってるのか分からなかったよ。俺の方が日本語を分からなくなったみたいでさ。耳から入ってくる言葉の意味が分かんないんだ。そんなの経験したことある?」


「……いいや、ない」


「まあそうだろうね。それが良いよ。こんな事、経験しない方が良いに決まってる。決まってるんだ」



 言いながら感情が高ぶってしまったのか。竹永の瞳に、光るものが見えた。



「なぁ、山里。頼むよ。雨宮社長を紹介してくれ。俺が知ってる事、全部話す。俺をネタにしても実名を出しても良いって伝えてくれ。だから、頼む。頼むよ、山里」



 そう言ってゴンッと机に頭をぶつけるほど勢いよく、竹永は頭を下げる。そして、顔を伏せたまま、ヒキヒクとすすり泣く音が聞こえてきた。







 相談してみるから、一度持ち帰らせてくれ。そう言って竹永を帰らせた後、俺は雨宮セキュリティーの本社ビルへ向かった。



「という訳なんですがね」


『ふむ。竹永というお前の友人は自衛団(ヴィジランテ)を名乗っているのだよね? そちらの話題は出なかったのか』


「そっちの話は少しも出なかったな」



 ボスと書かれた名札を置いた高そうな机に両肘をついて、『かすが』は顔の前で手を組み思案するような表情を浮かべる。机が大きすぎて小柄な『かすが』だとごっこ遊びに見えるが、それは言わないでおこう。こいつの機嫌を損ねると勝手に貸しだとか言って無茶ぶりのネタにしてくるからだ。



『良いぞ、会おう。時期的にもまぁ、そろそろ新しいフェーズに移った頃合いだ。『雨宮かすが』としても動きを見せた方が良いだろう。ああ、なんならうちに所属させても良いな、お前の友人は。お前の同僚で、お前と同じくらいに仕事が出来るんだって?』


「まぁ、うちの部署の連中は大体俺と同じことは出来る筈だぞ。営業、経理、総務。全部うちの部署で見てたから」


『そんだけ人材抱えててなんで潰れたんだろうな、お前の前職の会社』


「社長が悪いんだろ」



 不思議そうな表情を浮かべる『かすが』にそう応えてスマホを取り出す。ああ、日にちも一緒に伝えておかないとな。あの感じだとすぐ行くとか言い出しそうだったから。



山里一也(男)26歳



視聴履歴

『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)

『煉獄列島』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)

『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』(料金30000円)

『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『天災科学者』(料金:ひなちゃん家のご飯)

『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『未来を知る者』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)

『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『もう一人の俺』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)

『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『生真面目系殺伐女子高生』(料金:組織)

『魂羽織』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『至高の人形師』(料金:人形作成・開発費)

『拳創成期』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『無双女帝』(料金:気持ちよく昼寝できる環境)


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