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第60話 おかしいなぁ、人が居る筈なのにインターホンに出ないぞぉ?

 ピンポーン。おそらく日本人ならば誰でも聞いた事があるような音を立ててインターホンが鳴り響く。玄関の向こう側では室内ドアが激しく開け閉めする音や室内で慌てて動き回る音のようなものが響くが、インターホンを慣らして20秒ほどしても誰も出てくることはない。


 まぁ、当然だろう。この状況に気付いたのなら出てくるわけがない。それは織り込み済みだ。『かすが』がニコニコしながら口を開いた。



『突然場面が切り替わって驚いてしまったかな? 視聴者の皆さん。ここから先はまさにNOWな映像をお届けするよ。ん、クマくんどうしたんだい。表現が古い? これはすまない。私は少し価値観の古い人間でね。人を騙して夢を食い漁り私腹を肥やすような連中が大嫌いな昔ながらの女なんだよ、私は。ああ、どちらかというと同族嫌悪って奴かな。悪い事をした奴をさらけ出すという私の趣味も彼らの夢を食い漁っているようなものだからね。だが、誓って言うがここに来るまで私は御法に触れるようなことは何もしてない。それが私と彼らの違いだろう』



 嘘である。『あきら』を使ってバリバリハッキングとか市街地のカメラとかで情報を抜いているのでそれらがバレたら大問題だ。だが、まぁ、表向きにはそんな思い切りブラックな手法を使わずにここまでたどり着いた事になっているためわざわざいう必要はないだろう。



『まず、この玄関ドアの向こうに誰が居るのかを話そうか。いまこの部屋の中には先ほどまで黒井社長との会話に出ていた例の社員と詐欺の実行役。つまり、直接被害者たちを騙した営業役が数名いるようだ。詐欺に引っかからなかった人の話を統合してみるとどうも営業役は全部で7~8人居たみたいだから内部犯の犯人と判明している営業役の半分くらいがこの部屋の奥に居るわけだ。おかしいなぁ、人が居る筈なのにインターホンに出ないぞぉ?』



 わざとらしく語尾を伸ばしながら『かすが』はもう一度ピンポーンとインターホンを押し、その後にカメラに向かって語り掛ける。



『ちなみにだが、この場に私が居るという事はすでに例の社員がカダー社のPCに仕掛けたバックドア。つまり外部からの侵入口を残した証拠も見つけているし、営業役の男の顔写真を詐欺にあった被害者に見せて確認も取れているし、彼らがこの建物の近隣で共に飲み食いしたりこの建物のこの部屋に入っていく姿もバッチリカメラで収めている。それらはすでに警察に送付済みだからこの近隣の○○警察署の人員や検察が大慌てで準備しているのも確認してある。少し絵柄が退屈だが、この場に居るだけで事態は大きく進むのは確約されているんだが、玄関ドアの向こうの人たちはその辺りが分かってないから出てこないんだろうね。令状を取った警察が到着すれば玄関ドアを突き破って確保になるはずだから、それをのんびりと眺めるというのも楽しいかもしれないね。さて、中々出てこないなぁ。間を持たせるために調べたネタがなくなっちゃうかもなぁ』



 そう口にして、『かすが』はもう一度インターホンに手を伸ばす。これがある種のメッセージだという事に向こう側に居る連中が中々気付かないため、『かすが』は大ヒントだと言わんばかりにそう口にする。


 その言葉の後、10秒内部で物音がしなくなる。誰かが怒鳴り合う声は聞こえるため、完全に無音という訳ではないが。


 それらを確認した後、『かすが』はふぅー、とため息を吐き、カメラに向き直る。



『ちなみに私は今、大阪市の○○という建物にお邪魔しています。ここに来る前に食べた肉まんがとても美味しかったので帰りは食レポでもしようかと思っている所です』



 玄関ドアの向こう側で悲鳴のような声が聞こえてくる。そして同時に、現在いる建物の他の部屋のドアが幾つか、ガチャガチャと音を立てて開かれる。同じ階の隣の部屋その一つだったため、カメラのモードを切り替えて登録されていない人物は黒子として表示されるように変更する。


 ドアを開けて出てきた人物、黒子として表記されている人物は女性だったらしく、玄関ドアを開けてこちらを見た後、少し甲高い声を上げた。



「うっそ、マジじゃん! かすがちゃんとクマがいる! 3D!」


『これはお騒がせして申し訳ない。少しこちらの御宅に用事があるのでお邪魔しております。暫く騒がしいと思いますがご容赦願えますか?』


「もちもちオッケー! うわぁ、うちの隣でそんなのあるなんてヤバッ。ねね、写真とっていい?」


『3Dの映像になってしまいますがどうぞご自由に。一緒に写ります? あ、でも今そちらは黒子になっちゃってるんですが。管理人さんから他の住民の映像は取らないでと言われてますんで』


「え、今うち黒子なの? うっわマジだウケる~」


「上の階や! ほんまに雨宮かすがが居る!」


「すげぇ! うちのマンションでやっとる!」


「雨宮セキュリティーの社員が一杯おるやん!」



 スマホを取り出して自分が黒子になっているのを確認したのか、出てきたお隣さんがゲラゲラと笑っていると別の階層で一連の流れを見ていたのだろうこの建物に住む視聴者の声が聞こえてくる。あ、反対側のお隣さんも出てきたな。結構見られてるな『かすが』の配信。


 どんどん騒がしくなってくるが、まぁ、各階層にはちゃんと雨宮セキュリティーの人間を配置しているためこの階層に降りてくることはないだろう。


 ……この状況だと、ベランダ沿いに隣家に逃げようとするかもしれないな。丁度両隣のお隣さんも居る事だしそちらに人を回させてもらおう。もしやけっぱちになって5階から飛び降りとかされても困るからすぐに制圧できるようにしないとね。


 幸い、出てきた両隣の住民さんは現状を楽しんでいるらしく、屈強な警備員二人が室内に入る事を許可してくれたため両隣の部屋のベランダにもうちの警備員が立つことになる。これ、完全包囲網になるんだがこの状況を中の奴らはどうする気なんだろうね。多分、出来ることは二つしかないわけだが。


 『かすが』はため息を一つ吐き、インターホンに手を伸ばす。両隣の住民には距離を取ってもらい、雨宮セキュリティーの警備員を傍に置いている。多分、そろそろだと思ったからだ。



『これでもまだ出てきてくれない。いやはや、あまり部屋に引きこもるのは体に良くないんですがね。じゃあ次は彼らのご家族とお話しした時の事でも――』



 そこまで口にした時、ようやく内部に変化が生まれた、激しく室内のドアが開かれる音。ドッドッドッと重量のある動物が走る音。そしてドンッとドアに何かが当たり、ガチャガチャとドアノブをいじくりまわす音。カチンと音を立ててドアの鍵が解除される音。


 そうやって開かれたドアから現れた20代だろう男は、手に持った包丁を振り上げ、『雨宮かすが』に向かって振り下ろした。


山里一也(男)25歳



視聴履歴

『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)

『煉獄列島』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)

『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』(料金30000円)

『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『天災科学者』(料金:ひなちゃん家のご飯)

『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『未来を知る者』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)

『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『もう一人の俺』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)

『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『生真面目系殺伐女子高生』(料金:組織)

『魂羽織』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『至高の人形師』(料金:人形作成・開発費)


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