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第36話 田井中さんにブーブー文句を言われなくて済みそうだな

 ワンカップ酒を一つ開け、グビっと一口分を口に含む。飲み込むわけではない。口の中で霊力と酒を混ぜ合わせて、プロレスの毒霧のように周囲に向かって吹きかける。『メンチ』の霊力と酒という属性が合わさり、周辺が神域のように浄化されていく。


 大体同じくらいのタイミングで、今いる入り口とは反対側の方で田井中さんが楔を打ち込んだのが感じられた。これで今いるガマの入り口と反対側に結界の基が置かれたことになり、中に居る怨霊は反対側に逃げることは出来なくなったわけだ。



『まぁ、反対側に穴が開いてるとかでもなきゃ入り口からしか出れないはずだけどな。出入り口ってのはそういうもんなんだ』


――ほー


『初めて除霊に行った一軒家があったろ、新興宗教に惨殺された一家の。あそこも窓とかがあったけど出入りは玄関しか出来ないようになってた。霊も人もな。封じ手が結界を張る時はそういう概念を強化することによって結界を強化したり、出入り口を固定したりするんだ。まぁ、それでも除霊とかの際に散り散りになった怨霊が周囲に散る事があるから、田井中さんが今やってるのはそれの防止策だな』



 つらつらと説明する『メンチ』に、心の中で相槌を返す。『メンチ』は霊能初心者の俺にも分かりやすく説明してくれてるが、これまでに全く触ってこなかった概念だから中々理解しきれない。ただ、『メンチ』がそう言っているし田井中さんもそれに沿って行動してるわけだから、多分これが今回の場合正しい動きなのだろう。


 さて、『メンチ』によって尖兵を失い、更に出入り口を浄化されたこの状況は相手方にとってもかなり痛い状況の筈だ。恐らく唯一の出入り口が敵の手に渡り、しかも浄化されてるためデバフを受ける事になる。『メンチ』曰く、この浄化は余り長続きしないらしいが、効果を失いそうになったらもう一回すれば良いだけだし田井中さんが周囲に結界を張り終えれば単純にこちらの戦力が増えるんだから時間はこっちの味方だ。


 相手側の怨霊がそれを理解できる知能をまだ有していれば、何かしらのアクションがあるはず。まぁ焦る場面でもないし気長に状況を固めていこうというのが『メンチ』の見立てだったのだが、どうやら相手側にもこの状況は不味いという認識が出来る個体が居たらしい。


 ガマの中からパァン、と先ほどと同じように乾いた音が響く。だが、今度は避けるまでもなく、ガマの入り口から外に飛び出した銃弾らしき物体は外気に触れた瞬間に黒い霧のような形になって霧散していく。



――おい、今のは?


『別に鉛で出来てるわけじゃないんだよ、あの銃弾。浄化された場に出てきたら霊力がほどけて霧散しちまうんだ』



 俺の質問にそう答えて、『メンチ』は開けっ放しになっているワンカップ瓶を一つ、ガマの入り口に投げ込んだ。直後、つんざくような悲鳴の声が上がり、耐えきれないとばかりに数人、と言うべきなのか。先ほど見た別の骸骨より上質な軍服を着た骸骨と、そして全身を真っ黒に染め上げた女学生用の服を着た人型の何かがガマの入り口から飛び出してきた。



 ギャアアアアアアアアアッ!



 耳障りな叫び声を上げながら苦しみ出した骸骨はその場で崩れ落ちるように倒れ、黒い霧を全身から噴き出していく。浄化された空間に耐えられず、ほどけているのだ。


 だが、もう一体。女学生の服を着た人型の存在は、多少の黒霧を全身から漏らしながらもこちらに殺意を向けてくる。その様子に『メンチ』がほー、と一言漏らした。


 新しいワンカップを取り出した『メンチ』に向かって、女学生風の怨霊が右手を向ける。すると、手の先から次の手が、更に次の手がという風にどんどんと手がこちらに向かって伸びてきたため、『メンチ』は体勢を崩さずに右に一歩飛び、取り出したワンカップ酒の蓋を開いて周囲にばら撒いた。


 弧を描く様にばら撒かれたワンカップ酒の範囲に手が入った瞬間、女学生風の怨霊が苦しそうな悲鳴を上げる。ばら撒かれた酒の範囲に突っ込まれた手は、消えるように無くなっている。


 怨霊が怯んだ瞬間に『メンチ』はワンカップ酒をもう一つ取り出し、その中に右手の人差し指と中指を突っ込んで引き抜くと、指先に酒がくっつく様に引き抜かれていき、水の刃が出来上がる。



『オン・エンマヤ・ソワカ』



 一言。『メンチ』がそう呪文を唱え、そして右手を振るう。女学生風の怨霊はその真言を耳にした瞬間、体がブレ、幾つもの骸骨に分かれてガマに向かって逃げ出そうと走るが、『メンチ』の指先の刃は振るった瞬間に刀身が伸び、全ての骸骨を一度に、一纏めにして切り裂いた。


 切り裂かれた瞬間。一人一人の骸骨が、生前の姿を取り戻す。振り返り『メンチ』を見る彼女たちに、沖縄戦で集団自決に巻き込まれ、命を落とし怨霊となったユタたちにメンチは手で印を切り、そして小さく頭を下げる。



『長い間、お疲れ様。地獄の閻魔によろしくな』



 小さく、そう言って、メンチは再度真言を口にする。


 言葉が、彼女たちに届いたかは分からない。頭を上げた瞬間にはもう、彼女たちの姿は無くなっていたからだ。



――今の言葉、届いたかな?


『分かんね。まぁ……そう思いたい』



 俺と『メンチ』が雑談をしている間に、ズンッとまた楔が打ち込まれる感覚がする。おっと、呆けるのはまだ早い。恐らく怨霊の中で一番強かったユタ達の怨霊と旧日本兵の怨霊は祓ったが、ガマの中にはまだ怨霊が存在するはずだ。


 まぁ、その辺りの力が弱い怨霊は下手に祓うと外に散っちゃうかもしれないから、田井中さんが四方に楔を打ち込むまではこのまま待機になる。それもそう時間はかからないだろうし、その後は二人掛かりで内部を祓い清めて終わり。どうやら予定通り今日で終われそうだな。田井中さんにブーブー文句を言われなくて済みそうだな。



山里一也(男)25歳



視聴履歴

『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)

『煉獄列島』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)

『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』(料金30000円)

『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『天災科学者』(料金:ひなちゃん家のご飯)

『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『未来を知る者』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)

『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『もう一人の俺』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)

『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『生真面目系殺伐女子高生』(料金:組織)


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