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第32話 男には、魂の洗濯が必要じゃん???

「やぁメンチくん。戻ってきてるって聞いて飛んできたよ」


『お。田井中さん』



 ひなちゃんのストーカー事件から端を発した、練間院長と宗教テロ組織「万物の声」による一連の事件は無事に収束――するわけもなく。『AmamiyaNEWS』には連日、進退窮まった「万物の声」による無差別テロ未遂事件などが報じられている。もちろん地上波ではほとんど流されず黙殺されているが、流石に教団の本部がある東京のとある駅前で「万物の声」の実行部隊と警察が衝突し民間人にも被害が出た件を黙殺したのは不味かったのだろう。


 普段はテレビしか見ないような年代の人たちですらなにかがおかしいと気づき始めているのだから、恐らくその内メディアに対するバッシングが始まるだろう、というのが仕掛け人の『かすが』の見立てである。お前、傭兵隊長って言ってたけど絶対に前歴フィクサーとかだろ。



『いや、私は率いる者ではあったが現場主義でね。そういう黒幕というのは私よりも、そうだな。我々の中ならリリーベル嬢が向いている』


『経験あるぞ? 私の稼業は睨まれる事も多いからね。他者の不幸を願う者にとって、それを見通して助言する私は邪魔になる。自分の身を守るためには、ねぇ?』



 俺の頭の中で怖い会話を繰り広げていたこの二人だが、この会話以降なにやら結託して、例の件で一躍名を挙げた『雨宮かすが』に繋ぎを求めてくる政治家や政治家志望の方々と時折お話をするようになったのだがその辺は割愛しておく。いい年したオッサンが見た目10代前半の小柄な『かすが』や『リリーベル』の足にキスするシーンなんて誰トクだって話だしな。


 まぁ、そんな事は今はどうでもよろしい。



『不動産屋の方は良いんですか?』


「良い、良い。どうせ誰も店には来ないしねぇ」



 いつもの調子でニチャアっと笑顔を浮かべて、田井中さんは途中で買ってきたのだろう東京バサラとかいうコレジャナイ感が凄いクッキーを手土産にうちのマンションにやってきた。なんでもアキコさんとこのマンションの引継ぎについて色々申し送りをしていた時に『メンチ』が東京にいるという事を聞きだしたらしい。


 まぁ『ドッペルゲンガーのセシル』をレンタルするようになってからは週2くらいで『メンチ』になってるからアキコさんがそう思っていてもおかしくはない。なんで『メンチ』になる事が多いかというと、まぁ、あれだ。うん。


――男には、魂の洗濯が必要じゃん???


『スケベ』


――なんとでもいえ。風俗サイコー!!!



 なんて心の中で『さやか』と遊んでいると、挨拶もそこそこに田井中さんは手持ちの仕事鞄からいそいそと古びたファイルを取り出しはじめた。彼が経営する矢場杉不動産で取り扱っている事故物件の資料が収められているそのファイルは若干禍々しいオーラを放っており、下手な霊能者なんかだとこのファイルを見るだけで気分が悪くなるかもしれない。



「いやぁ、今世間を騒がせてる「万物の声」の件で、例の家が鎮められた件が広まっちゃいましてねぇ。あれ、ここ20年で一番の代物だったんで全国的に知られてたんですよぉ。それを払ったメンチくんに是非依頼したいって声がうちの会社のメールにバンバン来ててですねぇ。いえ、お金になるから良いんですけどぉ。うち、東京周辺の不動産を扱う会社なんですがねぇ」


『嬉しい悲鳴って奴です?』


「まぁ…………あれ。これ、嬉しいのかな……?」



 田井中さんは唐突に真顔になって自分について見つめなおすように天を仰いだ。田井中さんと付き合ってると稀によくある光景だ。





「え!!!!!? 4泊5日で沖縄に旅行!!!!!?!?!?!?!?」


『仕事だけどね?』



 今まで聞いた事が無いくらいに大きな声で驚いたアキコさんに、『メンチ』は苦笑しながらそう訂正を入れた。仕事という単語にアキコさんは一瞬だけ難しい顔をしたが、4泊5日の沖縄行きという点は変わらない事に気付いたのかまたテンションを上げて喜び始める。



『社長、最近は働きづめでしたから、この機会にまとまったお休みを取ってください』


「そうですね。まつりちゃんやみらいちゃんも学校のテスト期間ですし、配信は控える方向でご家族とも調整してます」


「うーん、そうねぇ。それならみんなでお休み取っちゃいましょうか! まつりちゃんたちがお休みだったら一緒に旅行に連れてったんだけどなぁ~」


『そういうのは夏休みとか大型の休みの時にしましょう。鹿谷くんや猪上くんにも纏まったお休みとボーナス渡すから、期待しててくれ』


「マジっすか! やったぜ!」


「僕はあきらさんの傍に居られればそれで良いんですが……ありがたく」



 幸か不幸か、いや。ひなちゃんや蝶子ちゃんには不幸だろうけど、学生組は期末試験の時期になるため暫く配信が出来ない状況だ。特にひなちゃんは中間テストの結果がかなり悪かったみたいで、ご両親からも勉強に集中しなさいと言われてるらしい。


 ひなちゃんの中間テストの結果に関しては例の事件が明らかに尾を引いているんだけどね。むしろ同級生が逮捕されるくらいにストーキングしてきてもなんとか学校に行けてた点は、正直凄いと思う。


 期末テストが終われば夏休みだし、その辺りでなにか大きなイベントを用意して皆で楽しもうかな。なんて思いながら『メンチ』の姿でいるため微妙に喜びの輪に入りづらい状況をスルーしつつ、日常を過ごし。



「それじゃあ私は彼ピッピとお仕事! で南国に行ってくるから来週また会おうね! みんな日射病に気を付けて!」


『私もアキコちゃん復帰まで実験室に籠るからまたらいしゅー!』



コメ:鬼! 悪魔! BBA!

コメ:脳が、脳が破壊される

コメ:(英語)あきらの配信を一週間も見れないなんて残酷だ

コメ:削除されました

コメ:なんでこんな風俗ババアの配信に俺たちはいつも……無駄な時間を……

コメ:癖になってんだ。脳が破壊されるのが

コメ:(ドイツ)むしろご褒美じゃないか

コメ:(フランス)九十九博士が1週間籠る実験の方が気になるぞ





 お休みを取るという事は事前に通達していたため、お休み前のアキコさんの配信はいつも通りリスナーの脳を破壊するだけでおさまり、無事に準備は整った。今回は紹介者である田井中さんも同行するため本当に仕事での沖縄行きなんだが、まぁ、アキコさんのよく訓練されたリスナーにとってはこれも餌みたいなものだからいいか(鬼畜クマ成分)



「それで、田井中さんが迎えに来てくれるんだよね?」


『ああ。チケットも取ってくれてるみたいだから、俺たちは自分の荷物だけでいいらしい』


「そっかぁ。あ、ところで一也くんは本当に来ないの?」


『誘ったんだけどなぁ。この機会に遠出するつもりらしい。まぁ、一応仕事だから遠慮してくれたんだろ』


「えー。一也くん、やっぱり真面目くんだね」



 アキコさんは暑い地域に行くからだろう、ノースリーブに薄手のカーディガンを羽織った格好でワクワクとした表情で話しかけてくる。ちなみに会話に出てきた一也ってのはドッペルゲンガーの『セシル』の事だから全然真面目じゃないぞ。多分あいつ、どこぞの競馬場か競輪場に通い詰めるんだろうから。


 アキコさんと雑談を交わしていると、田井中さんが到着したらしくアキコさんの携帯に連絡が入ってきた。すまん、アキコさん。『メンチ』名義の携帯は諸事情により持ってないんだ。作れるんだけど持ってると色々、ね?


 誰も聞いてない言い訳をしながらアキコさんと自分の荷物を持ちエレベーターにのってエントランスへと降りると、田井中さんはいつものような胡散臭い笑顔をサングラスで隠し、アロハシャツを着てエントランスホールに立っていた。


 …………旅行じゃなくて仕事だよな?



山里一也(男)25歳



視聴履歴

『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)

『煉獄列島』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)

『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』(料金30000円)

『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『天災科学者』(料金:ひなちゃん家のご飯)

『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『未来を知る者』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)

『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『もう一人の俺』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)

『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『生真面目系殺伐女子高生』(料金:組織)


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