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ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→  作者: ぱちぱち


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第126話 流石アキコさん、話が速いぜ!

 VVVの事務所でお茶を飲む。あぁ、 忙しい日々が終わり日常が帰ってくると途端に暇になる。暇は嫌だ。暇というものは精神を蝕む病にも似た存在である。大昔の貴族は暇こそが悪魔だと言ったとか言ってないとか。確かに、こいつはとんでもない強敵と言えるだろう。



「それでなんて返事をしたの?」


「え、断りましたよ」


「え、あのスペースマックス社ですよね!!?」


「あのイロリー・マックスにそんな口説かれ方されて断るんだ……この人やっぱやべぇ」



 マックス氏と飲みに行った件をアキコさんと茶飲み話にしていると、周囲に居たVVVのスタッフが随分とびっくりしていた。いや、まぁ、とんでもない好待遇だったけど日本から離れるのは嫌なんだよね。何度か渡米して思ったんだけど、やっぱりアメリカと日本じゃ治安とか生活のしやすさってのが大分違うんだ。米国だといつ銃を向けられるか分からないから気が休まらないんだよね。


 ただまぁアメリカはお金をかければ上限なく暮らしやすくなる印象があるから、それが性に合うって人には良いんじゃないかな。俺が欲しい暮らしやすさってのはそういうんじゃなくて、ふらりと街中をのんびり歩いて見かけた店に入って、みたいな事ができる日本の治安の良さがね、一番過ごしやすいと感じているんだ。



「でも、意外ですよね。イロリー・マックスならあきらちゃんを狙うと思ってたのに」


「あきらちゃんは会うたびに誘われてるわよ?」


「あ、やっぱり。それで代わりにって事かぁ」


「それで納得されるのは、それはそれで腹立つなぁ」



 まぁ断ったって言っても別にマックス氏の会社への転籍を断ったってだけで仕事自体は以前と変わりなく受け付けるんだけどね。というか、マックス氏はどうも俺が来れば『あきら』も一緒に付いてくると思ってた節があり、だからこそ俺相手にほぼ差しの飲みに誘って口説いてきたみたいなんだけども、それに関してはまぁその通りなわけで。


 俺と『あきら』の関係は地元が一緒の兄妹分としか周囲には言ってなくて、その関係性は『さやか』も『リリーベル』も一緒だ。性別が違うから表に出てる関係性は同じくVタレをしてる二人の方が近く見える筈で、なのにイロリー・マックス氏は明らかに『あきら』にしていた勧誘よりも数段グレードの高い本気度で俺に声をかけてきた。俺を釣れば『あきら』も釣れるって思い至ったのは間違いない。


 もし、人を見る目だけで俺たちの関係性を見抜いたとしたらとんでもない人を見る目だ。いやぁ、流石は世界有数の大富豪って事だわな。ただ、そんな大富豪の人を見る目でも俺が引き抜きに応じる人間かどうかって辺りは見誤っていたようだが。俺がVVVを、アキコさんの下を離れるわけがないだろうに。



『なぁ。俺ァあんまり人の色恋とかは詳しくねェんだが、こいつとんでもなく拗らせてないか?』


『ブラック企業から解放されてはっちゃけちゃったからね……悲しきモンスターになっちゃって。うっうっうっ』


――うっせぇわ!



 頭の中に響く『残夢』の言葉に『あきら』が便乗して泣き真似を披露する。レンタルしたての頃の『あきら』はもっと「文明最高! あぁ~このマスィーンの造形美ぃ~」みたいな感じで自分の興味最優先って感じだったのに、いつの間にか人と人の間を邪推してこねくり回す小悪魔みたいな奴になっちまった。


 ああ、あの純真な。『文明開化ぁ~』とか叫んでた頃の『あきら』はもうどこにもいないんだなぁ……なんて心の中で愚痴っていると、ガチャリと事務所のドアを開けて部屋の中に入ってきた『さやか』がずんずんと歩いてきて、対くさり暴走用として置かれている良い画用紙を使って作ったハリセンを手に取ると俺の頭をスパーンとハリセンでぶっ叩いた。


 突然の凶行にシーン、と部屋の中が静まりかえり、俺と『さやか』に視線が集まる中。『さやか』はふんっと鼻息を慣らしながら腕を組んでそこそこ豊かな胸をゆさっと揺らし。



『あんたはもっとちゃんとした恋愛をしなさい! お姉ちゃんが相手見つけてあげようか!?』



 と宣った。意味が分からない。まず俺が兄でお前が妹だとか、お前に世話になるくらいなら海岸沿いをナンパ行幸したるわとか、色々と頭の中をぐるぐると言葉が駆け巡り、気づいたら『さやか』の手にあったハリセンを分捕って思い切り『さやか』の頭に叩きつけていた。



『ぴっ』


「お前に世話になるくらいならテメーで見つけるわい! あと俺が兄貴でお前が妹だ!」


『ぬわぁんですってぇ! そのハリセンよこしなさい!』


「嫌でーすこれは俺ので――待て。椅子はレギュ違反だ。それ備品、壊すの駄目。話せばわかるさ俺たちは文明人だろ?」


『問答無用!』



 後にVVV夏の乱と呼ばれる事件はこうして幕を上げ、アキコさんのお叱りが飛ぶまで続けられた。この乱の後、VVV3期生が俺と『さやか』を見る目が随分と変わったのだが、恐らくそれはイロリー・マックス氏の誘いを断ったからではないだろう。だって生温いもん、視線が。






 さて。VVV事務所でちょっと俺を見る目が変わるという悲しい事件が起きたが。おかげで俺は『さやか』に心配されるほどの恋愛下手というレッテルを張られ、『さやか』はいきなり仕事中の人間に暴力ハリセンを振るう乱暴者というレッテルを張られ。誰にとっても得がない事件が起きたが。


 それらの悲しい出来事から目を逸らし、カレンダーを見ればもう9月。近年の異常気象が無ければ初秋と言って良い時期に入っている。今年のお盆も地元に帰るという体で新しいアニメを見ようかと思っていたのだが、これに関しては『さやか』から『人数が多くなったから慣れるまで少し待った方が良い』という謎のお言葉を貰い断念。代わりに関東の山奥に土地を買って秘密の村(予定地)を整備する事にしたのだが、まぁそれはある程度形になってからとして、だ。



「お茶が美味しいですねぇ」


「ほんとねぇ」


「ああ……ししょぉ……こんなに老け込んでいたっ!」



 失礼な言葉を口にする弟子の額に、指で弾いた500円をぶつける。勿論加減はしてある。本気で指弾なんか撃ったら百山さんの頭がザクロみたいになっちゃうからな……



「失礼な事を言う弟子には罰だ。その500円でなんかジュース買ってこい」


「えぇ~。ぶーぶー」


「余ったお金で自分の分買ってきていいから」


「わーい! なに買っで来ます?」


「なんか面白いの」


「むずっ!?」



 いやぁ、多分変なメーカーの商品探せば割とあると思うよ。チェ〇オとか。


 失礼な事を口にした弟子がドアの向こうへ消えた後、再びお茶をずずずと啜る。暇だ。暇すぎる。VVVでの仕事は優秀なスタッフが。主に今年の四月に大学を卒業して正社員になった猪上くんや一緒に正社員になった鹿谷くんが大体やってくれてるし、VSの事務所の方も配信しながら仕事をするという裏テク?を編み出した社員たちが我先にと片付けてくれてるし。決済印押すだけの判子係が現状俺しか出来ない仕事になってしまっているのだ。


 これでヴァーイの販売が始まったらもう少し仕事があるんだが……ああ、あとはヴァーイのツブヤイター実装がそろそろ来るか。その前後は忙しくなりそうだな。しかし、それでは今現在のこの心を蝕む暇を解決できない。どうすっぺかなぁ、と悩んでいるとスマホがぶるっと震えて通知音が鳴り始める。


 あれ、珍しい相手だな。我がVVVアメリカ支部の期待の新人、ケイトじゃん。そういえばケイトも新しい学校の新学期かぁ。もしかしたらその辺の相談とかかな。そう考えた時、頭の中でピコーンと電球が光る。



「ししょぉ! チェ〇オ買っでぎました!」


「ご苦労、弟子よ! 今からアメリカ行くぞ!」


「はい! ……………はい???」



 丁度良くお使いを頼んだ百山さんが帰ってきたのでそう告げると、“弾けるポップコーンコーラ!”と銘打たれた謎の液体を渡してきた百山さんが首をこてん、と倒して聞き返してきた。なんだこの謎過ぎる炭酸飲料は、とつい尋ねたくなったがそこをぐっとこらえてアキコさんに向き直る。ちょっと3期生連れてアメリカに行きたいんですが、あ、OK? 流石アキコさん、話が速いぜ!


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