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ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→  作者: ぱちぱち


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105/134

第105話 ちゃんとカメラで映せよ

 真っすぐに突っ込んでくるチゲェダの勢いを利用してローブに向かって投げ飛ばす。殴ろうとしてくれると手を掴めるから投げが楽になるのだ。自分の身体の重さ、チゲェダの重さ、そして慣性を利用して方向を変えられたチゲェダはろくに抵抗も出来ずにリングロープに投げつけられる。プロレス用のリングロープはボクシングのものよりも固く頑丈で、叩きつけられたチゲェダは『ぐぅ』と小さなうめき声をあげた。


 そのチゲェダの両手を掴み、俗にいうチキンウイング。相手の腕を鳥の手羽のように捻り上げる関節技の形で捉え、更に背中に腰を下ろす。両足を使って体を固定すれば、相手はロープによって倒れる事すら出来ず不自由な状態で両腕を極められ続ける事になる。


 純情仮面式パロスペシャル。純情仮面がその師である先代社長、マウンテン婆に教え込まれた49の関節技の一つを自分なりに発展させた必殺技だ。



“決まったぁぁぁ! まさか! まさかこのリングで! 総合格闘技のリングでこの技が見れるとはパロスペシャル! 往年の名レスラー、パロディ・ダイスケによって開発されたこの技がまさか! クマコーの手でキックボクサーに決められたぁ!”


“決まっている! 完ぺきに決まっているぞパロスペシャル! チゲェダの顔が歪む! 効いている! 効いているぞパロスペシャル! このリングにはKOかギブアップしか存在しません! まさかこのまま決まってしまうのか!”



 実況の人が説明してくれて助かる。へぇ、この技こっちの世界でもパロスペシャルって言うんだ。まぁアニメなんだし元ネタになった名前は存在するか。



『パロディ・ダイスケというレスラーは知らんが、他の技の名前も似てたりするかもしれんな』


――その辺確かめるのも面白いかもしれんな。リングに立つのはあんまりやりたくないけど。



 メキッ、メキッとチゲェダの両腕の根元が音を立てている。チゲェダの力は、明らかになにか薬品使ってパワーを底上げしてる感じがするが、ワセリン塗れの状態でも拘束をほどかれるほどのパワーじゃない。新幹線を真正面から受け止めてぶん投げるくらいのパワーがないと闘人と力比べは出来んのだ。


 とはいえ流石にこれで決まるとどっちらけにも程があるし、何よりもアキコさんのラウンドガール姿が見られない。それを見るためにこの試合を組んだと言っても過言ではないというのに1ラウンドで終わらせるなんてもったいなさ過ぎる。3ラウンド目は……まぁ、どうでもいいか。



『ギ……ギブア』


「おっと手が滑った」



 つるんっとワセリンまみれの腕から手が離れたため、そのまま両足を解除してチゲェダの背中から滑り降りるようにリングに戻る。拘束から解かれたチゲェダがリングに倒れこんだためレフェリーがカウントを始めようとするが、その背中を羽交い絞めにしてレフェリーを妨害。まだ早いでしょ、試合終わっちゃうから!


 俺の行動に会場がまたもどよめく中。レフェリーが怪訝そうな顔を見せたので「せめて2ラウンド目まで持たせたいんだよ! 会場の皆さんのために!」とお目目をキラキラさせながら口にすると、レフェリーは興行主のカイザーと倒れたチゲェダ、そして俺を見た後、『流石に不味いと思ったら止めるぞ!?』と叫んで続行を宣言した。


 うん、それでいいんだ。意外とノリが分かるレフェリーさんだな、気に入った。3ラウンド目まで続いたら『さやか』のファンになっても良いぞ。いやそれは意味わからんな、俺もアドレナリンが出まくっててテンションが爆上がりしてるせいか普段よりも頭がおかしくなってる気がする。



『それがプロレスだ! 一也、良いぞ。その調子で場の空気とノリを支配するんだ! 強く当たったら後は流れで会場を全てお前の色に染め上げろ!』


――やるだけやってみるさ!



 チゲェダはふらつきながらも立ち上がった。目は血走り、口からは泡を吹き、俺を殺したいと叫びだしそうな形相だ。気の弱い子はこの形相を見るだけでおしっこちびっちゃうんじゃないかな?


 その根性は買う。アドレナリンとかで頭パーになってるだけかもしれないが、負けそうな時に立ち上がれる者こそ戦士として讃えられなければいけない。それが闘人の矜持なのだ。


 この試合、初めて構えを見せる。両手は熊手のように指を曲げ、少し足を開いて前傾姿勢を取る。今にも獲物に襲い掛かる熊のような構えを見せると、チゲェダが唸り声を上げた。



 カーンカーンカーン!



 一触即発という状況の中、ゴングが鳴り響く。残念。決着は次のラウンドに……あっぶねぇ。2ラウンド目までいかないとアキコさんのラウンドガール姿が全世界にお披露目できないじゃないか!


 アドレナリンで頭がパーになってたのは俺もだったか。頭の中で『頭は冷静でいろ!』と勇作の声が響くが、ぐうの音も出せないぞ。ぐぅ。構えを解きコーナーポストに戻ろうとすると、レフェリーが慌てたように走り出したのが横目で見える。振り返ると、チゲェダの血走った目と俺とチゲェダの間に割り込もうとして殴り飛ばされるレフェリーの姿が目に入った。



「相手が」



 振り被られたチゲェダの拳が迫る。このタイミングでは避けられない。いいや、避ける必要もない。少し頭を下げ、力強く向かってくるチゲェダの右拳に額を合わせる。ダイヤモンドすら砕く闘人の頭突きがチゲェダの右拳を再起不能なまでに砕いた。チゲェダの顔が歪む。



「違うだろ」



 右腕を取り、一本背負いのように勢いをつけて地面ではなく上空にチゲェダをぶん投げる。俺の身体を軸に一回転したチゲェダは抵抗も出来ずに上空に投げ飛ばされ、驚愕の表情を浮かべた。リングロープを蹴って空中に飛び、チゲェダの身体を上空で掴む。両足首を掴み、肩でチゲェダの肩を引っかけてロックする。エビぞりになったチゲェダからめきめきと軋むような音が聞こえた。



「この――ハゲぇぇぇ!!!」



 チゲェダをホールドしたまま、俺の身体はリングに墜落。その衝撃を全身で受けたチゲェダが血反吐を吐いて白目をむいた。


 純情スパインバスター。純情仮面の必殺技の中でも最も多く使われた強力な決め技だ。本来はエビぞりになるほどに強烈な圧力をかけたままリングに叩きつける殺傷能力の高い技なのだが、今回はそこまですればチゲェダが破裂すると考えてリングには落とさない手加減純情スパインバスターになる。


 咄嗟の行動であったが、ちゃんと手加減は出来た。もしも今日の相棒が『日華』だったら、多分殺してしまっていただろうなぁ。


 殴り飛ばされたレフェリーがふらつきながら立ち上がる。見上げたプロ意識だ。まぁ格闘技のレフェリーってのは元々格闘選手だった人が多いらしいし、今日のレフェリーさんも年は取っているが体格の良い人だからな。昔は戦う側だったのかもしれない。


 そのレフェリーさんはチゲェダの意識を確認。そして命に別条がないかボディチェックをしていき、下半身あたりで『うっ』と顔をしかめた。


 ああ。大分お薬やってたっぽいし、色々ガバってるんだろうなぁ。速めに運んでやらないとチゲェダの尊厳が危ない。ゲラゲラ。笑いどころじゃねぇ、これ運ぶ人が大変なんだよ。まだアドレナリンが脳みそがばがばにしてるな、俺も。ネット配信の有料配信もかなり好調って言ってたし、ここまで無様晒した奴を見て挑戦してくる馬鹿は少ないだろ、多分。



「一也くん!」


「アキコさん!」



 『くせぇっ!』と叫びながらスタッフがチゲェダを運んでいく中、ちょっと清掃が必要になったリングから降りるとラウンドガール姿のアキコさんが駆け寄って……駆け寄……大事な事を、忘れていた。



「お疲れ様。すごくカッコよかったよ!」


「いやぁそれほどでもないですがはっはっは」


『出番がないんだけど』


「それはマジですまん」



 ラウンドガール姿のアキコさんを全世界にお披露目するはずが、1ラウンドで片を付けてしまった。いや、最後の絵面的にはプロレス的に凄く美味しい感じの終わりだったんだけど。そうじゃない、そうじゃないんだ今回は。コールガールとかアキコさんをバカにしてた連中にアキコさんの美しさを広めるという崇高な目的があったんだよ。それに比べたらあんなハゲボコボコにするのは余禄も余禄だ。比べ物にならない。


 駆け寄ってきて最高の試合だったと称賛するカイザーになんとか2ラウンド目が出来ないかと交渉すると、出来る訳ないだろと一笑された。くそぅ。ただ、賞金が書かれたデッカイボードを渡す係にアキコさんと『さやか』が選ばれたからまぁ、良しとする。ちゃんとカメラで映せよ。一番重要な所だぞ。


山里一也(男)26歳



視聴履歴

『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女 赤神さやか』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)

『煉獄列島』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人 坂東メンチ』(料金1000円)

『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー マネージャー』(料金30000円)

『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『天災科学者 九十九あきら』(料金:ひなちゃん家のご飯)

『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『未来を知る者 リリーベル・リ・ラスティーネ』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)

『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『もう一人の俺 セシル・ファラウェイ』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)

『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『生真面目系殺伐女子高生 雨宮かすが』(料金:組織)

『魂羽織』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『至高の人形師 人形残夢』(料金:人形作成・開発費)

『拳創成期』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『無双女帝 日華』(料金:気持ちよく昼寝できる環境)

『テレポーター三沢ひばりは平穏に過ごしたい』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『ハードラックテレポーター 三沢ひばり』を獲得しました(料金:休日)

『プロレスラーに明日はない!』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『炎の経営者 純情仮面(本名:間藤勇作)』(料金:良き闘い)



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― 新着の感想 ―
アグネス仮面なのかボンバイエの人なのかキン肉マンなのか、キン肉マンだったわw こっちの世界ではウォーズマン式が正統パロスペシャルなのねw(現実だと逆向きが正)
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