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十年間、王都の魔力汚染を密かに抑えていた農夫を『毒草使いの無能』と追放した結果→王都、崩壊寸前。僕は毒の神子と辺境を黄金の楽園にしてるので、今さら戻れと言われても手遅れです  作者: ジュライ
毒草使いは、世界の価値を書き換える

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第25話:侵食の兆しと、ロルフの決断

 紫の霧が晴れた翌朝。豊村ゆたかむらの空気は、ロルフの処置によってかつての清涼さを取り戻していた。しかし、ロルフ本人はのんびりと朝食を摂るどころか、裏庭で妙な作業に没頭していた。


 彼は昨日、水神の祠で叩き壊した「結界の核」の残骸……黒い護符の破片を、古い木桶の中に入れて棒で丹念にかき混ぜていた。


「ロルフ様、それは……昨日、村を苦しめた毒の元ですよね? なぜ、そのようなものを混ぜ合わせているのですか?」


 シオンが、不安そうに眉をひそめて覗き込む。


「これかい? ……やれやれ。わざわざ『次は直接行く』なんて挑戦状を置いていってくれたんだ。その親切に応えてあげなきゃと思ってね。この破片には、あいつの魔力の『波長』がしっかりと染み込んでいるんだよ。……シオン、ちょっと手を貸して」


 ロルフが促すと、シオンは恐る恐る指先を桶に近づけた。ロルフはシオンの肩を叩き、その内側に眠る「破壊の毒」を、職人らしい繊細な手つきでほんの僅かに引き出す。


「あいつの不純な魔力と、君の純粋な毒。この二つをぶつければ、磁石みたいに引き寄せ合う。……よし、見つけたよ」


 桶の中の破片が、羅針盤の針のように特定の方角へと激しく震えだした。ロルフはそれを確認すると、クワを肩に担いで立ち上がった。


「シオン、一緒においで。……本物の『雑草抜き』ってやつを教えてあげる。芽が出るのを待つより、根っこを直接引き抜く方が、農家としては一番効率がいいんだ」



 王都の郊外。かつては貴族の別荘だったという、豪奢な石造りの館。

 その最上階の部屋で、儀式師は優雅にワイングラスを揺らしていた。


「ククク……。今夜あたり、再び霧を放つとしようか。あの神子の少年が、恐怖で顔を歪めるのが目に浮かぶようだ……」


 儀式師がほくそ笑んだ、その瞬間だった。

 ――ドォォォォォンッ!

 館の正面玄関が、巨大な植物の根によって内側から爆破されるような音を立てて粉砕された。


「なっ、何事だ!? 私の多層結界を抜けて侵入したというのか……!?」


 埃が舞う中、崩れた壁の隙間から、クワを無造作に肩に担いだロルフと、静かに従うシオンが歩いてくる。


「……やれやれ。立派な館だね。でも、換気が悪いし、何より魔力の使い方が『不潔』だ。いい庭師を雇わなかった報いかな」


「貴様……! あの村の庭師か! なぜここが分かった!」


「君の魔力の残り香を、この子の毒で辿らせてもらったよ。……さて、掃除を始めようか」



「ふざけるな! 田舎の庭師ごときが、この私の魔術を――死ね!」


 儀式師が逆上し、黒檀の杖を掲げた。部屋の中に濃厚な紫の雷が荒れ狂う。それは並の魔導師なら一瞬で灰にする、致死の呪詛だ。


「シオン、力を貸して。君の『毒』を少しだけ、僕のクワに乗せるんだ。怖がらなくていい、僕が全部御してみせるから」


「……はい、ロルフ様!」


 シオンがロルフの肩に手を置く。すると、シオンの体から溢れ出した漆黒の魔力が、川のようにロルフの腕を伝い、愛用のクワへと吸い込まれていった。

 クワの刃が、不気味なほど美しく黒い光を帯びる。


「……交換だよ。この圧倒的な『毒』のエネルギーを対価に、君の術式を――『無価値な種』に書き換える」


 ロルフがクワを一閃させた。

 すると、迫りくる紫の雷はロルフに触れる直前で、バチリと弾けて「一握りのただの種」へと姿を変え、床にハラハラと落ちた。


「な……!? 私の死霊魔術が……ただの種に……!? バカな、神子の力をそのまま変換の触媒に使ったというのか!」


「君の魔術は複雑で強固だけど、シオンの毒はそれ以上に純粋で破壊的だ。この強大なエネルギーを燃料にすれば、【等価交換】の天秤を無理やり傾けることなんて造作もない。……さて、次はこれだ」


 ロルフがクワを軽く振ると、床に落ちた種が爆発的に芽吹き、儀式師が手にしていた黒檀の杖に絡みついた。


「な、なんだ!? 杖が……私の杖が!」


「シオンの毒の一部を、この苗の『成長エネルギー』に変換した。……残念だけど、その杖の魔力じゃ、この毒から育った植物の勢いには勝てないよ」


 ミキミキと音を立てて、儀式師の自慢の魔杖が蔦に飲み込まれ、ただのひび割れた木片へと変わり果てた。儀式師の攻撃手段を、シオンの力を燃料にして完璧に叩き潰したのだ。


「ひ、ひぃぃっ……! バケモノめ……!」


 武器を失い、戦意を喪失した儀式師は、腰を抜かして後退った。

 ロルフは深追いすることなく、地面に転がった儀式師の懐から、一冊の古い手帳と、奇妙な紋章が刻まれたブローチをクワの先で器用に引き寄せた。


「……やれやれ。ようやく静かになった。君の命までは取らない。どこへでも逃げるといい。でも、二度と村には近づかないで。次は……シオンの毒を、もっと『派手な形』で交換することになるからね」


 ロルフの静かな、けれど冷徹な警告に、儀式師は震えながら頷き、這うようにして部屋から逃げ出した。


「ロルフ様……。僕の毒が、あんな風に役に立つなんて。……誰かを傷つけるんじゃなくて、誰かを守るための力に、あなたが変えてくれた」


「そうだね。どんなに強い毒でも、使い手次第で最高の道具になる。……さあ、帰ろう。夕食はリゼットが腕によりをかけて準備してるはずだよ」


 背後で、館が植物の重みに耐えかねて静かに軋む音が響いた。

 ロルフは一度も振り返ることなく、夕暮れの道を歩き出す。


 回収した手帳に刻まれた、王都の闇を象徴する組織の紋章。

 ロルフはそれを一瞥し、ポケットに無造作に突っ込んだ。


「……ま、どんな大物が相手でも、雑草なら抜くだけなんだけどね」

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