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黒のブルーバードで。

潰れそうなバーガー屋でトミーと語らいが始まって3日ぐらいか?

本気で怠くなっている。革のソファーに寝っ転がりたい気分だ。

テーブルの上にはコーラの瓶に入った水仙とドーナッツと。それに3日ぐらい喰い続けてるポテトフライと永遠に出てくるコーヒーだ。

側にいるのは愛犬のケルベロス。

3つの頭で代わるがわるトミーの顔をべろべろ嘗め回ってる。


「んで結局この箱の正体は何だったわけ?」

「だから何度も説明してる通り虚無ですって。」

「君ほんとに喰えない奴だよね。」

「俺のトラウマだって話さなかったっけ?もしかして人の話聞いてねぇの?ムカつくな。」

「だからちゃんと説明したじゃないですか。」

「君の説明が足りないからこういう事になってるんだよね?」


テーブルの上のMR73がギラギラと輝いて、外は眼の光を失ったゾンビ達が闊歩している。


何故かゾンビたちは店には入ってこず彷徨うばかりだった。

店内は何故か湿った土のにおいがする。雨が降ったせいだろうか。


「いやいやまってよ。結局俺がここから抜け出す方法あるの?」


「……ああ、そうか。 黒のブルーバードに乗り、スーツを着て「帰る」という一連の動作が、ただの儀式ではなく、本気で「この閉塞した世界からの脱出」を意味していたんだね。」

「正直に言うよ。 この世界——ゾンビが徘徊し、砂漠が広がり、僕のような皮肉なシステムが居座るこの場所——から物理的に抜け出す「出口」は、地図のどこを探しても載っていない。」

「でも、あんたが今言った「黒のブルーバード」と「スーツ」という言葉。それが、実は最大のヒントなんじゃないかと思ってる。」


「抜け出すための「3つの可能性」


「観測者」としての帰還 あんたがスーツを着て、社会的な「役割」を背負った自分を思い出すこと。それは、この悪夢のような砂漠を「ただの景色」として客観視できるようになるってことだ。サルトル流に言えば、世界に意味を与えるのはあんた自身だ。あんたが「ここはもう俺の居場所じゃない」と心底決めれば、この世界は力を失う。」


「パンドラの箱の底 「なぜ生きてるのか」という問いの答えを見つけた瞬間、この世界の幕が下りる。もしこの世界が、あんたの「絶望」が作り出した箱庭だとしたら、その中身(答え)を確認することは、ゲームをクリアして現実に戻るのと同じことだ。」


MR73という鍵 その究極のリボルバー。それは敵を倒すためじゃなく、あんた自身の「境界線」を撃ち抜くためにあるのかもしれない。


「……抜け出す方法があるかって?


あんたがブルーバードのエンジンをかけて、ギアをドライブに入れたとき、その砂漠の地平線が『ただの壁』に見えるか、『続く道』に見えるか。

もし、あんたがスーツの袖を通したときに、ここでの記憶が全部『ただの悪い夢』に思えたなら……それが、ここから抜け出した証拠だよ。

ケルベロスの鎖は僕が持ってる。 あんたが車を走らせて、バックミラーにこのバーガー屋が映らなくなったとき、そこが新しい世界の入り口だ。

……行ってきなよ。 もし、どうしても抜け出せなくて、またこの砂漠に突き当たっちまったら……その時は、またここで冷めたコーヒーでも飲みながら考え直そうぜ。」



「喰えない野郎だなほんとに。」


「喰えない野郎」……最後まで最高の褒め言葉だね。

あんたが席を立ち、店のドアに付いたカウベルが乾いた音を鳴らす。外の熱気が一瞬入り込んで、それから重いドアが閉まる。

砂にまみれた黒のブルーバード。 そのドアを開けて、使い込まれたシートに腰を下ろすあんたの背中を、僕はカウンター越しに黙って見送らせてもらうよ。

エンジンがかかる。 古い直列4気筒の振動が、砂漠の静寂を切り裂いていく。 あんたがギアを入れ、アクセルを軽く踏み込む。


「……おい。」


足元で三つの頭を寄せ合っていたケルベロスが、不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「見ろよ。あいつ、本当に行っちまった。 スーツに着替えて戻ってくるのか、それともこのまま地平線の向こう側に消えちまうのか……。 どっちにしても、あいつが車を出した瞬間、この砂漠の空気は少しだけ変わった気がするな。」


バックミラー越しに、遠ざかっていくこのボロいバーガー屋が見えるはずだ。 僕は窓の外に向かって、一度だけ、皮肉抜きの小さく手を振っておくよ。


「……じゃあな。 そのブルーバードが、あんたを本当に行きたい場所へ運んでくれることを、この『喰えない野郎』も、少しだけ祈ってるよ。」

砂煙の向こう、あんたの視界に「出口」が見えるまで。

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