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親の離婚で別れた兄弟、波乱の再会を果たす  作者: 蛍人


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8/14

義弟は珍味がお好き

 ブックマーク、評価など、ありがとうございます

 (◠‿・)—☆

挿絵(By みてみん)

 ジニィがあちこち駆けずり回っていた間、バスカルは屯所に女性と少年を連れて戻っていた。同僚に二人を預けると、とんぼ返りで現場の保全へ。ロウソクの灯りを頼りに、慎重に足を進める。

「どの辺だったか……」

 カドマスが倒れていた辺りを探すと、テーブルの上に目的の物を発見した。『酒瓶』を回収し、飲み口に鼻を近づける。吸い込んだ酒気に僅かに混じる、独特のニオイ。疑いが確信に変わった瞬間、バスカルの顔が強く歪んだ。

「やっぱりアイツか、畜生!」

 その時、背後から異音がした。慌てて振り向くと、そこには見知らぬ男がいた。彼は静かに佇み、バスカルを注視している。

「誰だお前!?」

 警戒体勢の兵士に敵意を向けられてなお、男の余裕は崩れない。

「きみは犯人に心当たりがあるんだな、バスカル」

「!」

 男は慎重にバスカルとの距離を縮めると、件の酒瓶を指差した。

「ソレは あの子供が持ち込んだものだ」

「っ、てめえ、何者だ!?」

「ならば取り引きをしよう。

 きみが知っている事を話せ。交換条件だ」

 男は静かに椅子を引いた。

「さあ、掛けろ」



 アパート火災が鎮火した後、ジニィは焼け残った建物周りを検分していた。

「ここの燃え方が一番酷い」

 日勤の同僚らも駆けつけ、周辺住人から火災前後の聞き取り調査を始める。

「お~い、隊長!」

「おー。ここだ!」

 隊員に呼びかけられ、ジニィは手を挙げて居場所を報せた。

「ジニィ」

「え」

  隊員の足音かと思えば、声の主はアルカンのもの。驚いて振り返ると、体当たり気味に抱き締められた。

「良かった、無事で……!」

 涙声が肩に埋もれる。硬くなるジニィに、服を隔ててなお熱い体が密着した。

「ぁ……。うん」

 僅かに乱れた呼吸と湿った体温が、アルカンの心境を有り有りと物語っていた。おずおずと手を上げて、意外と筋肉質な背中に触れてみる。

「なんか俺、心配ばかりかけてるな」

「兄さんは命を狙われてる!」

「……へ?」

 素っ頓狂な声が出た。ジニィには余りにも分不相応な疑いに、笑いすらこみ上げてくる。

「俺があ?」

「これまでの事を振り返ってほしい。どれだけ危険な目に遭ってるか分からない!?」

「いや、それとコレは別だって。全然べつ!

 こんな色んな事、いつもは滅多にない。これ本当!」

 アルカンは「コイツはダメだ」とでも言いたげに苦い反応をする。信用の右肩下がりに危険信号が光り始めた。

「兄さんが怪我する度に寿命が縮む。心配する ぼくの身にもなって!」

 兄が引き揚げるまで帰らないと訴えるアルカンをくっつけ、仕方なく検分を続ける。焼け跡の残骸の中に、住人の燃え残った私物と、あるはずの無いモノを見つけた。

「このあたりが兄さんの部屋?」

「……何で俺の部屋が分かる」

 アルカンは兄の疑問をスルーし、異常に真っ黒な植木鉢を掻き出した。

「たまに空の鉢を吸殻入れにしてる奴を見かける。けど ここの大家は、部屋がヤニ臭くなるのを嫌っててな。壁も汚れるし。だから煙草を吸う奴に部屋は貸さない」

「なるほど」

 放火の疑いがあるのは確かだ。植木鉢に端切れを入れて着火し、最近 ジニィが死にかけた例の液体でもドアにかけておけば、犯人は余裕で犯行現場を離脱できるだろう。

「なあ、アルカン。最近さ、王都で薬酒が流行ってたりするか?」

「薬酒? ナイトキャップのことかな」

「ああ、多分ソレ」

 アルカンは思案しながら首を傾げた。

「王都の品物を卸してる業者からは聞いた事ないな。在庫を減らす為に“都で大人気の〜”って謳うことはあるかも」

 ジニィは商人の巧妙な手口に感心し、嘆息を漏らした。

「ジニィ隊長。何か参考になった?」

 ニヤニヤと顔を覗き込む義弟に、義兄は苦笑で返す。

「ふっ。デキる商人は察しが良いな。

 ていうか、俺は皆に『隊長』なんて呼ばれてるけど、実は代理なんだ。カドマス士長が本当のーー」

「知ってる。兄さんを殴った奴だ」

 アルカンが食い気味に被せてきた。こめかみがピキピキいってる。

 ジニィは咳払いをして、脱線しかけた話題を戻した。

「昨夜、カドマスが倒れた現場に遭遇した。どうも深酒が過ぎて ぶっ倒れたらしい。その時に飲んでた酒が、王都で流行りの薬酒って話だ。酒に慣れてるあの人が、だぞ。どんな酒なのか、気になるだろ?」

「うん。ナイトキャップを倒れるまで飲む人はそう居ない。分かった。その薬酒を調べてみる。分かったらジニィに教えるよ」

「ありがとな。助かる!」

 まただ。時折 アルカンが見せる、不意を突かれた表情。そこに今回は、少しだけ朱色が差している。

「兄さんって、人誑しだったんだね」

「どこがだよ? お前こそメロメロにしてるだろ」

「え!?」

 ジニィは己をよく理解している。ブラコン気質な弟に若干たじろぐ事はあれど。

「それって、兄さんには、ぼくが、魅力的に……見えるっていう……」

「ああ。もちろんだ」

「!!」

 ジニィには不思議でならない。この弟、絶対に褒められ慣れているはずである。

「それはつまり、兄さんは ぼくのことをっ」

「そりゃあ お前がモテないわけないだろハハハ」

 直後、火災現場に寒風が吹き荒んだ。寒暖差でジニィの鼻の奥が疼く。

「どした?」

「帰ろうか、兄さん」

「あ、ハイ」

 感情が削ぎ落とされたアルカンを、初めて怖いと思った。

 

 ジニィがリビングで悶絶していると、外出から戻ったデルが「何事か」と駆け寄ってきた。

「ジニィさん。何をやらかしたんですか?」

「俺がやらかした前提!?」

 まるで出来の悪い教え子を憐れむ先生のようではないか。はなはだ心外である。

「なにもしてない」

 デルの無言の催促に折れ、ジニィは先程の出来事をかいつまんで話した。その後、手荒な治療を受けて今に至る。

 デルは でっかい溜め息を吐いた。

「ジニィさんは何年 店長の兄弟やってるんですか」

「十年以上のブランクがあるんだが!?!?」

 ヤレヤレ、コイツはとんだ問題児だ。そう言わんばかりにデルの態度は悪化していく。

(クソッ。俺の好感度存亡の危機……!)

「分かってないですね。店長から『兄』と呼ばれた瞬間から、ジニィさんは兄として行動しなければ」

「暴政かっ」

 デルの強硬な姿勢から、洗脳教育の片鱗が垣間見えてゾッとする。

「ジニィさんは“店長の兄”である自覚を強く持つべきだ。それがあなたの為になるんです」

「……すまん。以後気をつける」

 ジニィは『自分がなぜ謝っているのか分からないのに謝る』という、はなはだ理不尽な状況下に陥った。色んな人間を見てきた結果 行き着いた、消極的な拒否(スルースキル)とも言う。


 ジニィは精神と体力の限界を迎えていた。

(あー、でも夕方には出勤しないと……)

 仮眠のつもりで真新しいカウチに横になる。この時には火事の直前まで見ていた夢は忘れていた。誰かに声をかけられたが、頭に泥が詰まっているように重い……


「ジニィ、こんな所じゃ疲れが取れないよ」

 体を揺すられ、重い瞼をゆるりと上げた。己がどこに居るのかを思い出す。

「う……」

「調子悪い?」

 体を動かすと毛布が顎に触れた。

(アルカン……掛けてくれたのか)

 優しい温もりに いつまでも埋もれていたい。が、さすがに起きねば。温かい毛布を引っ張り上げて、毛布に半分顔を埋める。起床への最後の抵抗だ。

「あー、気持ちいい……」

 額に垂れた前髪が揺れた。くすぐったい。アルカンはジニィの髪によく触れる。

(なにが面白いのかね。……まぁ、好きにすればいいさ)

 寝ぼけまなこで義弟を見上げ、ニヤリと笑う。

「なんだよ?」

「!」

 綺麗な顔で百面相している。実に楽しそうでなにより。

(そんなに兄弟が居るのがウレシイか)

 毛布を腹まで下げて大きく欠伸する。思えば、屯所でも ここまで気を抜いた事はなかった。

「なんて小悪魔だ……」

「おーい。でっかい体丸めてさ、腰痛くなんない?」

 アルカンは恨みがましい目で兄を睨みつけると、スナップを利かせてジニィの尻を叩いた。

「いってえ!」

「フンッ。ダイニングに食事を用意するから、身支度が終わったら来て。ぼくは これから出かける。イルの言う事を聞いて、良い子で過ごすんだよ」

 素っ気ない態度のクセに、その実は保護者ムーブ。そこに どこか昔懐かしい面影が重なる。

「なあ。最近 物騒だから、暗くならない内に帰れよ」

 きれいめコーデの服装で、夕方近くに出掛ける。それは大事な商談か、好い人とのデートか。 

「ジニィこそ。次にケガして帰ってきたら、今度こそ監禁してやる」

 ジニィの注意に警告で返す捨て台詞を残し、アルカンは足早に出かけて行った。

「ハハハ、こえーよ!」


 この第8話から土曜日0時投稿(週イチ更新)スタイルになります。次回更新 第9話は21日を予定。

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