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親の離婚で別れた兄弟、波乱の再会を果たす  作者: 蛍人(月香茶から改名)


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7/7

遠くの親戚より近くの知人

 

「隊長。牢に放り込んでた奴は?」

 ガーゼを剥がして傷の治り具合を鏡で確認しているジニィに、バスカルが何気なく問いかける。

「とっくに出したよ。いつまでも置いとけないしな」

「えっ、処罰は?」

 塞がり始めた傷は まだ赤らんでいるが、腫れは引いてきている。

「今ごろ短期労役で溝さらいしてるだろ」

「あ……そう」

「なんだよ?」

 戦いの傷は名誉の勲章かも知れないが、ジニィのコレは不本意な怪我である。

「それより早く警らに行こうぜ!」

「お前が聞いてきたんだろ」

 二人はいつものように夜の街に繰り出した。

「仕事じゃ無けりゃあ」

「馬鹿言ってんな」

 いうて灯りも少ない閉店間際の街である。頼りないランタンでは、遠くを見るのも難しい。

「グレイズの報告書は読んだか?」

「あー。宿屋の喧嘩ね。アイツの腕っぷしは女にしとくにゃ惜しい」

 ジニィはチラリと相棒の顔を見上げた。

「お、気になるのか?」

「バッカ。俺はまだ傷心なんだよ」

 少し先の方で、食器が割れるような音が響いた。二人は目を見合わせて耳を澄ます。女性の金切り声が追加され、物騒さが増した。駆け足で音源に近づくと、男女の言い合いが耳に入った。

「なーんだ、夫婦喧嘩かよ」

「……コレ、旦那殺されないか」

 念のために扉を叩けば、開かれたドアの奥には予想に違わぬ惨状と、頬に手形のついた旦那が居た。

「表まで聞こえてるぞ。程々にしろ」

「浮気夫の躾に程々なんかあるもんか!」

 妻に怒鳴られ、二人は すごすごと引っ込んだ。

「ほ〜ら。あんなの放っときゃいーんだ」

「これで大事にならなきゃいいんだよ」

 細かい事でも疎かにしないジニィに、バスカルは肩を竦めて苦笑する。

「馬鹿真面目。だから出世できねーのよ」

「馬鹿はお前だ。出世したら責任ばかり増えて、給料は大して増えない。大変なんだぞ」

 今度こそ大笑いだ。

「お前って奴は、母ちゃんの腹に欲を置いてきちまったみてえだな」

 夜間警らも半分を過ぎた所で、路地から黒い影が飛び出してきた。野良犬かと思えば、何と年端もいかない少年である。ジニィらに道を塞がれる形になり、少年はたたらを踏んだ。

「こんな時間に何してるんだ」

「ドコの子だ?」

「……っ」

 少年の様子は明らかにおかしい。ジニィらに警戒しているような……

 路地の奥から悲鳴が響き渡った。

「ちょい待ち!」

 逃げようとする少年をバスカルが引っ掴んで止める。

「おい、バスカル。この先、士長の……」

「あぁ、アイツの家?」

「違う。愛、不義の恋人の〜」

 カドマスの愛人宅である。バスカルはスグに察して、嫌そうに顎をシャクった。

「コイツは見てるから、行ってこいよ」

 そこには数日前にジニィが訪れたままの、こじんまりとした家があった。僅かに明かりが漏れる扉を開くと、女性が倒れた男を揺すって声をかけていた。

「夜分に失礼します!

 悲鳴が聞こえましたが、何かありましたか?」

 声を掛けられて驚いた女性は、顔見知りのジニィを見て慌てて駆け寄ってきた。

「このひと急に苦しみだしてっ。医者を呼んで!」

 倒れているのは やはりカドマスで、口から泡を噴いて痙攣していた。床に転がるグラスと、テーブルに置かれたラベル付きの酒瓶。

「……」

 考えている時間は無い。

「俺が医者に連れて行く!」

「私も行かなきゃダメ……?」

「外にもう一人いるから一緒にいてくれ!」

 ジニィはカドマスを背負って外に出た。

「おい、ソレ!?」

「バスカル、お前は二人を保護して事情を聞いてくれ!」

「何で俺が?」

「こういう時、お前の方が安心するだろ!」

「ーーっおま、そういうトコだぞ!」

 ジニィは最寄りの医者の元へと走った。


 ベッドに入ったばかりの医者を叩き起こし、処置を頼み込んで一夜が明けた。現場、屯所、医師宅の間を奔走していたジニィは、疲れて うたた寝している所で医者に声をかけられた。

「隊長さん。峠は越えたよ」

「あ、ありがとうございます!」

 寝不足の顔のまま、カドマスの容体について話し合う。

「えっ、毒!?」

「酒も過ぎれば毒だがね。コレは別のモノだよ。すぐに胃を洗浄したから間に合ったものの、もう少し遅ければ死んでたかもな。お手柄、かな」

 医者は複雑そうに笑った。彼もカドマスの評判を耳にしているのだろう。それから神妙な表情で顔を寄せてきた。

「この毒、巷で流行ってるクスリだよ。アルコール度数の高い酒と一緒に摂取してる。同じように死んだ者を何人も見てきたし、間違いない」

 カドマス昏倒の裏に隠された事実に、ジニィは背筋が冷えるのを感じた。

「先生、申し訳ないが」 

「分かってる。地元名士の顔に泥を塗るわけにはいかないからね」

 医者に礼を言って、カドマスを自宅に戻すべく一度屯所に戻る。待機していた隊員にカドマスの移送を頼み、今度はカドマスの“本宅”へ。用事を片付けている間に、夜勤の勤務時間は大幅に超えていた。

 そして今ここ。

「女性の聴取は?」

「グレイズがやってるぜ」

 ジニィを待ってくれていたバスカルに、“その後”の出来事を尋ねた。

「パニック起こしてて宥めるのが大変だったぜ……」

 話してる内にグレイズが聴取から戻った。

「食べ物には『体調を崩す食べ合わせ』があるんですけど、士長の食事内容に問題はなさそうですね」

 グレイズは食料品を扱う商家の生まれで、 その辺りは かなり詳しい。

「わかった。俺の方でも聞いておきたい事がある」

「私が聞いておくから隊長は休んでください」

「聴取が終わったら休む。

 バスカル、先に上がっていいぞ」

 バスカルの物言いたげな様子は気にかかるが、眠気が限界を迎える前に聴取を済ませねばならない。

「それで、子供は?」

 グレイズが指差す先、仮眠室に毛布のかたまりがあった。とうやら子供は眠っているようだ。

「今 親を探してます。起きたら『現場をうろついてた理由』を聞いておきますね。それより隊長。士長は回復しそうですか?」

 感情豊かな彼女の眼が、今は虚ろなガラス玉のようだ。

「しばらくは療養が必要だな。先生が言ってたぞ。酒の飲みすぎは本当に良くないって!」

「「そんなの分かって(る)(ます)」」

 ジニィがアパートに帰ったのは、太陽が天頂を回った頃だった。外で適当に腹を満たした後、ベッドに突っ伏して泥のように眠った。

 


 ジニィの夢に、久しぶりに弟が出てきた。まだ小さかった義理の弟は、話している内に今の姿に変わっていた。急に居心地が悪くなって、距離を取ろうとする。すると強引に引き寄せられ、アルカンの挙動がおかしなものになった。抵抗すると彼は少年の姿に戻り、今度はジニィが罪悪感に苛まれる。ジニィの情緒は乱れた。この感情を どうにかしたくて、口を開くーーところで目が醒めた。

「……ごめん」

 夢で言えなかった台詞が、いとも容易く まろびでる。皺の寄ったリネンに鼻を寄せると、視界に見慣れないものが映った。不穏なオレンジの光が揺れている。何やら焦げ臭い。……けむい。

「えっ!?」

 ジニィは慌てて飛び起きた。

「ッ、ゲホゲホ!」

 部屋に充満する煙。扉の隙間から噴き出す炎。腹の底から大声で叫んだ。

「火事だーーーー!!!!!」

 扉は半分も焼けていて、脱出できるのは窓しかない。ここは二階。とっさに貴重品を引っ掴んで、ズボンのウエストと靴下に挟み込んだ。閉じていた雨戸を開いて下を覗くと、野次馬がたくさん集まっているではないか。そして自警団の男衆が、バケツリレーで火と格闘している。

「隊長さんだ!」

「おおーい、早く逃げろ!」

「ドアが燃えてるから出らんないんだよ!」

「じゃあ飛び降りろーー!」

「無茶言ってんじゃねーー!」

 幸い隣の屋根が二階に近いので、地面目掛けて飛び降りる危険は冒さずに済んだ。アパートは全焼。真っ昼間の火災だったので、住人のほとんどは不在。逃げ遅れたジニィだけが軽い火傷を負った。

「とうしてこんなことに……」

 ジニィは膝から崩れ落ちた。

「大変だったわね、隊長さん」

「まあ元気出せよ」

「みんなー。何にも残ってない隊長さんに、余ってるモン分けてやろうぜ!」

「あるわよ! いい加減に捨てろって言ってるのに、旦那が後生大事にはいてる古いパンツ」


『非常時には ご近所との付き合いが役に立つ。

      この経験で良い知見を得ました』 

          二十代 公務員男性(独身)

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