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親の離婚で別れた兄弟、波乱の再会を果たす  作者: 蛍人(月香茶から改名)


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3/5

上司はピンからキリまである

 三日目 第三話。

 エラい人とヤバい人が出て、ジニィさん涙目。

 脱税‐納税義務者が、故意に税の一部、または全部の申告をせず納付を免れること。(納めなくてはならない税金を、ごまかして納めないこと)


 秘書が学の無い兵士らへ懇切丁寧に説明してくれた内容がそれだ。そうですか、俺たちの税金は雇用者が事前に引いていきますよね。これが集められた面々の顔だ。

 お分かり頂けただろうか? ジニィら木っ端兵士の疑問が。アンタら俺達に どうせえ言うねん、という……。

「商人が隣国に売る為に申告した“特定の品目”の量が、税関を通った後の量と かなりの相違がある。つまり、申告漏れがあると言うことだ」

「「「……」」」

 頭が空転する面々を置き去りに、いよいよ御大の登場だ。

「諸君には、検問所外から漏れているであろう物品の捜索をしてもらう」

 誰も反応できずにいるので、ジニィは渋々と手を挙げた。

「発言をよろしいでしょうか」

「許す」

「具体的に、どこ(・・)どう(・・)捜索すればよろしいのでしょうか?」

 敬語を言い慣れてないせいで、舌を噛みそうになった。

 代官が異様な眼力でジニィを睨みつける。実は既に何人もの兵士を その手にかけてきた、とか過去に無いだろうか。スーツの裏地に誰かの血が染み込んでいたり……。彼の次の反応を待つジニィの胃袋が、針の束を飲み込んだ様に痛む。

「うむ。真っ当な疑問だ。セワード、説明したまえ」

「はい」

 コレだ。コレである。言動は理路整然・冷静沈着。シゴデキと評判の“文官の鑑”。文と武。水と油のような関係の現場とですら、関係を円満に保とうという意思が隅々に感じられる。ゆえに兵士らを含めたソーン市民の、代官()に対する印象は良い。もっと稀有なのは、彼の施政に対して市民が“期待感”を持っていること。何かが大きく変わった訳でもないのに、これからもっと街が良くなっていくのではないか。そんな未来への明るい展望を抱いているのだ。


 会議は恙無く終わった。周到な準備。段取りの良い進行。分かりやすい解説。現場の意見調整。参考になる事ばかりで、ずっと瞳孔が開きっぱなしだった。何より現場に仕事を投げっぱなしにしない所が最高だ。粘着質なまでの計画性を感じたのは御愛嬌。緊張していた同輩らの、半ば安堵の表情よ……。一隊を率いる長として、隊員らに分かりやすく説明するのも一苦労なのである。

 ジニィは重い溜息を吐いた。

「“あの人”にも一応、話さなきゃ駄目だよな……」

 厩舎に着くまでは まだマシだったのに、帰路は非常に気が重かった。


「ただいまー」

「お、……隊長っ、どうした!?」

「スマン、後で。着替えてくる」

 帰還したジニィの異様な出で立ちに、隊員たちは瞠目し どよめいた。 

「ケガ!」

「見た目ほどじゃない」

 素っ気なく言って更衣室に向かうジニィを見送り、隊員らは顰めっ面で目を見合わせた。

「呼び出しの後だから……アイツんトコ行ったんだよな? 酒瓶でも投げられたか?」

「投げられただけで ああ(・・)はなんねえよ。殴られたんだ」

「カドマス、あのクソジジイ!」

 身なりを整えたジニィが、額にタオルを当てながら戻ってきた。

「血ぃ止まってねえだろ!」

「おう、そこに座んな」

「何があったんです?」

 隊員らに詰められ、ジニィは苦笑いで勧められた椅子に座った。


 ジニィは支部から地元に戻るなり、『上長』の元へ報告に向かった。上長が屯所に顔を出す事は滅多にない。大抵は酒場か自宅におり、たまにギャンブル、売春宿にしけこむ等している。上長の自宅を訪れると、奥方は「夫は昨晩から出かけている」と答えてくれた。行き先を確認し、改めて そちらに赴いた訳だが……上長の隣には、服装を乱した ご婦人がいた。

(まさか昼前っから盛ってるとは思わないだろ)

 上長は“邪魔をした”という理由で、飲みかけの酒瓶でジニィを殴りつけた。その時の言い分がコレ。

「こっちは能無しの貴様らを 世間の役に立つよう使ってやってるんだ! 黙って俺様の為に働け!」

 最初は迷惑そうに眉を顰めていたご婦人だが、上長がキレた途端 青褪めた顔で壁に縋りついていた。こんな時に頼るべき領兵当人が暴れているので、彼女には成すすべも無かっただろう。

「愛人のトコにいたのかー。そりゃ間が悪かったなあ」

「仕方ないだろ」

「何で避けなかったんですか? 相手は酔っぱらいでしょ」

 トサカ後輩による傷の手当てが終わり、最後に包帯を結んで終わり。ジニィが直接屯所に戻ったのは、ここに救急セットがあるからだった。

「下手に避けると手が付けられないほど暴れる。前は そのせいで宿場の部屋をズタボロにしたんだから」

「もうそれ、なんかの病気じゃないです?」

 賠償請求は屯所に回ってくるし 本人は逆ギレするしで、処理が本当に大変だったのだ。そのドタバタで隊員らに上長の酒乱がバレてしまったし、カドマスの不祥事隠匿に協力していたバスカルも白旗を揚げた。

「本当ならカドマスが招集に応じるべきなのに!」

「ムダムダ。あの酒浸りが仕事できるワケねえよ」

 隊員らは喧々囂々と意見をぶつけ合っている。

「俺が隊長職を“代行”するのは、代官も認めてるからいいんだ」

 ジニィがそう言うと、バスカルは益々 苦々しい表情を浮かべた。

「あのなあ」

「話はここまで」

 身分とか、立場のしがらみとか、社会の構造的問題とか、そんなモノを その場の感情ノリで “どうにかしよう”と奮起する。血気盛んな(そういう)時代がジニィにもあった。だが先輩兵士の苦悩と結末を目の当たりにして、強く拘り 深く思い悩むのを止めた。少なくとも今、部下達を守る事は出来ている。

「クズを庇うんすか?」

 いつかの己を映すトサカ後輩が、先輩兵士の立場と重なるジニィを睨む。色んな感情が入り交じり、情けない苦笑が漏れた。

「俺が庇ってるのは社会のクズじゃない。安定した仕事と街の平和だ」

「闇討ちなんてどーです?」

 ヤンチャな後輩の頭に、バスカルのゲンコツがめり込んだ。

「だから俺らが隊長を手伝うんだよ。コイツが潰れたら、後釜が回ってきて俺らも共倒れすっぞ?」

「酷い言いザマっすね」

 トサカ後輩はヤレヤレと肩を竦めた。

「この事は他所に触れ回んなよ。カドマスのせいで、俺らまで見境なく暴力振るうクソだと思われる」

 カドマスの重い忠告に、若手ズは大人しく口を噤んだ。


 夕方になり、ジニィは日勤・夜勤の隊員らを集めてミーティングを行った。その後、屋台で購入した軽食を取ってから机に向かう。今日は残業だ。検問所の外を通った積み荷の捜索には、別のチームを編成しなければならない。

「こんなもんか?」

 考え過ぎて頭がズキズキと痛む。俯いて唸っていると、グレイズがパーテーション横から顔を覗かせた。

「隊長、さっきから変な声出てますよ。ーーわあ、すごい顔」

「そうか?」

 さすがに己の顔つきまで意識が及ばなかった。

「薬貰ってきました。今日は早く帰った方が」

「コレ終わったら帰るよ。ありがとな」

「……」

 薬を飲むと頭の痛みがマシになり、思ったより仕事が早く進んだ。ふと気づくと、仕切り向こうの人の気配が途絶えていた。屯所は無人にならないよう配慮している。すわ事件かと半個室を出ると、普段から開きっ放しの出入り口の扉が閉め切られていた。扉の外から、数人の声が漏れ聞こえてくる。揉め事か。

「気を遣いやがって」

 扉を押すと、こちら側に背を向けていた数人、そして向かい側に立つ美人の視線がジニィに集まった。

「ジニィ!」

「アルカン?」

 何のことはない。向かいの人間は、気まずい関係の元弟だった。

「お前ら、何やってんの?」

 ジニィの反応に、隊員らは途端に色めきだった。

「ええっ、本当!?」

「本当に兄弟か? 全然似てないが」

「カカカッ。そういう詐欺だったりして」

「こら。やめないか」

 悪乗りする二人の隊員を窘める。アルカンの顔色を窺うが、気分を害した様子はない。

「すまん。俺に何か用だったか?」

 アルカンは綺麗な顔を歪めてジニィを凝視した。

「ウチの従業員が、怪我してるジニィを見たって言うから、急いで来たんだよ。どうして そんな事に……」

 元弟には知らない内に心配をかけていたらしい。それで隊員と揉める意味が分からないが……。

「業務上の事故だ」

「業務?」

 懐疑的な視線がジニィの胸の内を探る。

 成る程、隊員らは箝口令に従ったのだ。迫力美人との押し問答に、四苦八苦していたに違いない。

「犯人は捕まえた?」

「事故だって」

 アルカンの指先が包帯を巻いた額へ。それはガーゼに直接 触れる事なく、垂れた前髪を そっと掻き分けた。その優雅な所作に、一瞬 目が奪われる。

「こんな怪我してるのに、どうして帰って休まないの?」

 流れるように翻った手の甲が、頬の産毛を柔く撫ぜる。

「……っ」

 瞬間。体に走った衝撃に、ジニィは思わず後退った。体の内側が痺れるような感覚に、軽く鳥肌が立つ。アルカンは真顔のままジッとジニィを見ている。

「ジニィ、その怪我じゃ生活が辛いはずだよ。ウチに来て。少しは楽させてあげられる」

 隊員らの何やら引きまくった気配を感じる。恐らく良くない誤解が生じた。

「大袈裟だな〜。兵士に怪我はつきものだし、一々気にしてたら身が持たないぞ!」

 ジニィが喋る度に、アルカンの機嫌が みるみる内に降下していく。

「怒るなよ……。心配かけて悪かった」

「兵士である前に兄さんは人間だ。もっと自分を大切にして欲しい」

 思いがけない台詞を貰って、ジニィは目を瞬いた。彼の優しさが、徐々に胸に染み込んでいく。心から身を労る言葉を貰うのが久しぶりすぎて、目頭がジンと熱くなる。

 ジニィの背を、グレイズが軽めに叩いた。

「そうですよ。弟さんの言う事を聞いて、今日は早めに休んでください」

「そーだ そーだ。隊長がいるとサボれねーし!」

「仕事をサボるんじゃないよ」

 照れ隠しの突っ込みがキマらない。

 ジニィの腕をガッシリと掴む手。アルカン、力が強い。

「さっ。行こう、我が家へ!」

「えー……」

 さっさと行けーー隊員らは面倒そうに手を払った。

「じゃあ、一日だけな?」

「好きなだけどうぞ!」

 引き留められても明日帰る。そのつもりでジニィは渋々と頷いた。



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