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親の離婚で別れた兄弟、波乱の再会を果たす  作者: 蛍人


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12/14

兄は懺悔する

挿絵(By みてみん)

 カドマス士長の趣味は狩猟だった。若い頃は国境に近い雑木林や河川まで足を伸ばし、キツネなどを狩っていたという。その頃に剥製にした動物を、今でも自宅に飾ってある。

「シロガネキツネ、の、剥製……」

「はい」

 シロガネキツネは、隣国と我が国にまたがる地域に生息する野生生物である。毛皮が美しく、いっときは乱獲されて生態数が激減した。だがシロガネキツネが禁猟になったのは、種の保存が理由ではない。

「流行病の感染源として、一斉駆除されて以来か」

 代官は重々しく呟いた。実はそのシロガネキツネ。この国では有名な悪役である。シロガネキツネが保有する病気が、ヒトに感染すると判明したのだ。その病気の致死率は高く 苦しみ抜いた末に亡くなるので、人々ーー特に貴族ーーは酷く怯えた。で、判明後すぐに国が動いた。剥製や毛皮も忌み嫌われ、国内では見つかり次第 没収。所有者と売買した者 双方に罰せられる。だからと言って納得しないのが好事家である。

「隣国では禁止されてませんので」

「うむ」

 危機感が薄いのか、感染症の扱いが雑なのか、隣国はシロガネキツネの取引きを禁じていない。

「それで?」

 ジニィの冷や汗の量は限界突破である。

「これからも危険な取引きを続けられるようであれば、国境警備隊の方で直ちに止めていただきたいと……」

「それだけではあるまい」

 真実を見透かすような代官の口ぶりに、ジニィの内心でブリザードが吹き荒れる。

「アーロン・カドマスが倒れた、本当の原因は何だ?」

(あ、もうムリかも)

「アーロン・カドマスに趣味を続けられるような金はない」

(あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙)

 ジニィは白目を剥き、ついに観念した。

 そう。実はそうなのだ。カドマス士長は、出自と役職に見合わぬ薄給なのである。

 アーロン・カドマスは実家から独立を促され、結婚を機に渋々 家を出た。とはいえ、高い生活水準で育ち 労働を小馬鹿にしていた彼には、遊興費など存在しない。そして支部は、アーロン・カドマスの勤怠報告に勤務実態が伴わない事を、早い内に看破していた。カドマス士長の給金は、厳しい代官の管理下で次第に先細り、今に至る。

「あのぉ。士長のご実家から、何かこう、ご意見などは」

「あった。給金の減額について、ちょっとした嫌味をな。理由を懇切丁寧に説明し、納得いただいた上で お引き取り願ったとも」

(あっ、ダメだこれは)

 ジニィは白旗を上げた。

「毒でした」

「やはり毒殺か」

 カドマス士長は まだ亡くなってない。

「医者の話では、強い酒に大量の薬物を混ぜたのだろう、と」

「……その話、どこかで聞いた事があるな」

「最近、それが原因で死亡する者が増えています」

「!」

 代官には思い当たるフシがあったようだ。苦いモノを飲んだように、眉間に深いシワが刻まれる。

「そうだ……。カドマス本家に反意のある商家の主が、同じ理由で死んだ」

 代官が浮かべた感情には、ジニィも思う所がある。

「はい。あとは、カドマス本家が飼っている“私兵”の、敵対グループ幹部が次々と不審死しています」

 ジニィの暴露に代官は瞠目した。

「君は そこまで掴んでいたのか」

「ウチには裏社会に精通している部下がいますので」

 ずいぶんと驚かれている。もう どうとでもなれとジニィは開き直った。

「例の廃工場、精製していたのはアルコールだけじゃありません。現場で加工された薬剤を数種類 発見し、少量ですが回収してます」

 次いで これまで気に留めた出来事を、日誌という形で残しているとも伝えた。

「分かった。すぐに屯所へ部下を向かわせる」

 代官は席を立ち、表で控えている部下を呼んだ。その間、ジニィは身じろぎ一つせず その様子を見守る。

「ブレシュ」

「はい!」

「カドマス本家の執事とは会ったか?」

「あ……はい」

 ジニィに隠せる事など、ほぼ残らなくなった。

「よく話してくれた」

 代官はジニィの肩を一度二度と叩くと、握る掌に力を込めた。

「あまり悲観するな。君は正しい行いをした」

 ジニィの反応を待たず、代官は足早に店を出た。屯所で回収した物証を、どのように使うつもりなのか。黄昏の街に消えていく馬車を、憂うつに見送る。

 黙って佇むジニィの元に、アルカンが身を寄せた。

「正しい事をしても、ジニィの安全は保証されないのにね」

「……アルカン」

 アルカンの達観した眼差しの前で、ジニィは彫像のように固まった。

「あの人から何か」

「聞かなくても分かる。王都より治安が悪いって、この街は相当だよ?」

 そう。先日の薬物中毒者による暴力事件なんて、氷山の一角に過ぎない。ならず者による住人への加害。歓楽街の裏路地で行われる闇の売買、縄張り争い。これらの不穏な空気は、街の人々の表情に暗い影を落としている。

「これでも一度は静かになったんだ」

 ジニィは自嘲気味に笑った。アルカンと まともに目を合わせられない。

「知ってるだろうけど、この街の経済活動にも医療にも、カドマス本家の息がかかってる。反抗すれば生活が立ち行かなくなるから、みんな言う事を聞かざるを得ない」

 アルカンは黙って義兄の話を聞いてくれている。促されるようにジニィの懺悔は続いた。

「俺もカドマス本家の前では無力だ。おかしいよな。情けない。俺は街を守る兵士なのに」

 ジニィは自罰的に己の恥を晒す。この街に良い思い出があるだろうアルカンに、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「今まではカドマス士長が居た。俺はあの人の陰に隠れて、悪事と無関係なフリができた。利用してた……それも もう、終わり」

 ジニィにはカドマス本家の首輪が付けられた。罪悪感さえ無ければ、割のいい仕事だろう。これからは悪事に加担する側だ。

「こんな情けない兄貴で、ごめん」

「ジニィ、辛いんだね」

 アルカンの指先が目尻を拭う。涙なんて出ていただろうか。分からない。

「でもジニィは街の人たちに好かれてるよね」

「ははっ」

 本当に情けなくて笑ってしまう。アルカンの主観では、義兄は愛される人のようだ。

「俺は弱いし、ダセえよ」

 ちっとも格好良くない。ああ、みんな分かってる。

「ガッカリだろ」

 一人の男として ありのままの姿。兄としての見栄はもう、張れそうにない。それが今は寂しい。

「ジニィは、力が欲しい?」

「力?」

「権力」

「なんだそれ」

 余りにも突飛な台詞だ。でも きちんと答えなければいけない。そんな気がした。

「ああ、考えた事あるよ。でも俺には似合わない」

 ジニィが この考えに至ったのは、代官の存在が大きい。頭脳、意志、統率力、出自ーーどれをとっても器の差は歴然だった。

「代官には敵わない」

 アルカンは不満そうだった。

「弱い部分も含めて、ぼくはジニィが好き」

 ジニィの頭にキスが降ってくる。驚いて身を離そうとするが、手首に絡んだ指がそれを許さない。もう片方は頬に添えられ、アゴをなぞる。素肌に触れる指の感触が、やたらとくすぐったい。

「ジニィは善人だ。ぼくが保証する」

「やめろ。なんか むず痒い」

「おいしそうな卵肌。かわいい」

「っ、おまえ! おまえ〜〜っ!?」

 こんなブラコン・コミュニケーションでも、多少なり気分が上向く自分は、多分ゲンキンな類なのだろう。

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