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異世界巌窟王〜追放されNTRれてたけど、俺には盤面が見えている〜  作者: どすこい海苔巻
第一章 虚構の裁き
3/8

名前を消される日

 法廷を出た俺は、そのまま神殿の地下へ連れて行かれた。


 石の階段を降りるたび、光が減っていく。

 足音が反響し、鎖の音だけがやけに大きい。


 ――ここからが本番だ。


 裁判は終わった。

 だが、あれはただの前置きだ。


 本当に俺を殺すのは、この後の「処理」だと分かっている。


 地下の一室は、妙に事務的だった。

 机が並び、書類が積まれ、神殿役人が数人いる。


 誰一人、俺の顔を見ようとしない。

 罪人を見る目ですらない。

 ただの作業対象だ。


「座れ」


 言われるまま椅子に座る。

 手首の鎖は、外されない。


「アレイン・ルグラン」


 役人の一人が名前を呼ぶ。

 それが、この部屋で聞く最後の呼び名になる。


「まず、冒険者ギルド登録の抹消を行う」


 淡々と告げられ、紙に印が押される。


「ジョブ・戦術士。登録解除。

 以後、冒険者としての活動を禁ずる」


 ……ああ、そうか。


 俺はもう、戦えない。

 剣を振る資格も、作戦を立てる権限もない。


「次に、これまでの討伐功績について」


 別の役人が書類をめくる。


「記録を精査した結果、参謀の関与は確認できなかった」


 思わず、笑いそうになった。


 あれだけ命を賭けてきた戦場で、

 俺は最初から“いなかった”ことにされるらしい。


「よって、過去の功績はすべて無効とする」


 紙が差し替えられる。

 名前の欄が、空白になる。


 それだけで、俺が生きてきた数年が消えた。


「最後に」


 役人の声は、変わらない。


「法的身分の停止を行う」


 ……来たか。


「戸籍、台帳、登録名簿から、

 アレイン・ルグランの名を削除する」


「以後、その名を用いることを禁ずる」


「違反した場合、即刻処罰対象とする」


 つまり――


 俺はこの国で、存在してはいけない。


 息を吸う。

 吐く。


 不思議と、怒りはなかった。

 ただ、世界が一段階、遠くなった感覚があった。


「以上だ」


 役人たちは、それで終わりだと言わんばかりに視線を落とす。

 俺はもう、“案件”ではないらしい。


 立ち上がろうとしたところで、別の書状が差し出された。


「追記がある」


 短く告げられる。


「治癒術師リュシア・エヴァレットとの接触を禁ずる」


 ……やはり来たか。


「違反した場合、同人を共犯と認定する」


 つまり、

 彼女に近づけば、彼女の人生も終わる。


 これでいい。

 いや、これしかなかった。


 彼女は生きている。

 俺も、まだ生きている。


 それでいい。

 生きていれば、それでいい。


 部屋を出ると、廊下の向こうで話し声が聞こえた。


「英雄ガルド様に、正式な勲章が下るそうだ」

「参謀がいなくても勝てた、という評価らしい」


 ……そうだろうな。


「会計のロルフ殿も昇進だそうだ。補給改革の功績だとか」


 書類で人を殺した男は、

 書類で救われる。


「法務官セリオ様も評価が高い。“秩序を守った”と」


 誰もが、正しい場所に収まった。

 俺一人を除いて。


 神殿兵に腕を掴まれ、さらに奥へ進む。


「次は審問だ」


 低い声で告げられた。


 審問。

 それは無実を証明する場じゃない。


 「正しい答え」を言えるかどうかを試す場所だ。


 俺は一度、目を閉じた。


 参謀アレイン・ルグランは、

 この日、公式には消えた。


 戦術士でもなく、

 冒険者でもなく、

 恋人でもなくなった。


 だが――


 盤面を見る力だけは、まだ奪われていない。


 まだだ。

 ここで終わりじゃない。


(次回:神殿審問)

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