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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

追放されて悪役令嬢の商会に行った冒険者のおっさんが外堀を埋められ溺愛される話

作者: 山田 勝

『どなたか、お金を貸して下さいませ!私のビジネスプランを聞いて下さいませ!』



 冒険者ギルドに不釣り合いの令嬢が金策に来ている。

 ということはあちこちで断られているな。


 美人だ。キリッとした釣り目は意思の強さを感じさせる。

 まるで麦畑のような金髪。歳は10代半ばか?


『ヒヒヒヒヒ、姉ちゃん。ちょっと、遊ぼうか?』

『そういうのではございませんわ!私はアウリ侯爵家の正統な総領娘マーリカですわ!』

『じゃあ、侯爵様から出してもらえよ』



 質の悪い冒険者が早速絡んできた。


 俺は冒険者パーティーのリーダーになったばかりのアルベルト。

 この場を荒らして欲しくないな。


 だから、お金を用立てることにした。


『よ。姉ちゃん。いくら欲しい?』

『わ、私は体は売りませんことよ。対等なビジネスパートナーが欲しいのです!』

『分かったよ。それで良い』


 話を聞いたら投資をするそうだ。

 莫大な金だろうな。一部で良いか。


 と思ったが。


 まず自分が相続したアパートを綺麗にする。

 周りの落書きも消すと治安が良くなり入居者が増え。賃料も上げられる?


 何か絵に描いたパンだな。しかし、青臭くも素敵な試みだと思ってしまった。


『金貨五枚でいいのか?』

『ええ、そうです。私が唯一相続したアパートの改装費用ですわ。なるべく私が掃除をしますわ』

『ええよ。しかし、俺もしがない冒険者だ。これ以上は出せないな。投資に失敗したら諦めな』


『利息のお話ですが・・』

『いらないよ。じゃあ、何か困った事があったら助けてくれよ』


『あ、有難うございます!有難うございます!絶対に守りますわ。たとえ、この身が破滅しても!』



 俺は長期の遠征が重なったのもあって

 それっきり令嬢とは連絡が取れなくなった。





 ☆3年後


「アルベルト!追放する!」


 何故、この話を今思い出すのだろう。

 あれから3年か?

 今、俺はリーダーなのに追放を受けている。



「リーダーは更迭、これは皆の意見です!」

「そうです。リーダーはお人好し過ぎます!」

「そうだね。ガルドの言う通りにすればもっと儲かる」



 俺のパーティー員の女賢者も、女剣士も、女戦士も・・・全てガルドの言いなりだ。

 奴は吟遊詩人出身、優男だ。生活に困っていたから拾ってやった。事務仕事をしてもらった。

 そう言えば、女賢者ミルも、女剣士リヤも、女格闘士アウシャも全て俺が拾ったな。


 三人ともイマイチだったが、機会を与えたから少しずつ頭角を現していった。

 ガルドは渉外をやらせたのだっけ。



 まあ、いい。また一から始めるか。お袋への仕送りもしたいしな。


 と言っても、こんな30過ぎの俺をパーティーに入れるのはリスクがある。

 異分子だ。

 自分よりも年上のリーダー経験者をいれるのはやりにくいだろう。


 誰も俺を入れてくれない。


 しかたなく、冒険者ギルドの受付嬢に聞いた。仕事はないかと。


「アルベルトさん。一つだけ求人があります。アル&マリー商会の求人です。30代冒険者、リーダーの経験あり。お給金は月銀貨50枚です」


「すげえな。是非、紹介してくれ」

「でも、ここだけの話ですよ。ここ1年で依頼されたのですけど、誰も採用されておりませんわ。何なら冒険者ギルドの指導員になって頂けたらとギルマスも申しております」


「いや、そこまでの歳でも経験もないよ」

「アルベルトさんのパーティー死者0でないですか?評判はいいのですよ」

「でも、稼ぎが少ないからな」


 そうだ。俺は確実なクエストしか受けない。危ないと思ったらすぐに引くから、パーティー員は不満がたまっていただろう。だから追放か・・・



 と思いつつ。商会への推薦状を書いてもらった。


 約束の日に赴く。

 木造4階か。最上階は商会長室。

 受付嬢に控え室に待つように言われた。といっても道具置き場のようだ。


「申訳ありません・・・商会長、今日は忙しいみたいで、折角、前触れをして頂いたのに・・・」

「いや、それで良いよ。こちらは面接をして頂く身の上だ」


 面接時間が延期になった。



 ☆4時間後


 4時間待った。その間、商会を観察した。

 皆、若い。しかし、ビクビクしている。

 商会長を恐れているな。


「商会長へのお言葉斉唱!」


「「「一、『つもりつもり』は積もらない!二、『もっと儲けられたのに』と思える心が肝要!・・・」」」



 折角、お給金が良いけども、これは止めた方がいいか。ブラック商会だ。


 大声で俺の事の話が聞こえて来た。若い女の怒号だ。


「まあ、何ですって?面接?いくらでも待たせなさい。今、大事な時期なのよ!」

「ヒィ、分かりました」

「お茶も入れなくても良いから、どうせ給金に釣られてきたのよ!」



 うわ。ヒデえ。しかし、冒険者ギルドの紹介だ。向こうから面接中止を引き出したいと思ったが・・・

 それから4時間、この商会にきてから8時間経過した。そろそろ終業か?


 また、

 俺の事の話が聞こえて来た。



「これから商業ギルドの幹部と会食だわ。全く、私の金目当てばかりよね」

「はい、あの、商会長、面接の方・・」

「まあ、いいわ。私が直接、不採用と言って差し上げますわ。どこにいるの?」

「はい、言われた通り、一階の用具部屋に入れておきました」


 ヒデえな。やっぱり用具部屋か?さあ、断られて帰ろう。

 コツンコツンと足音が聞こえたので、起立をして出むかえた。


 バン!とノックも無しにドアが開く。


 頭を下げて出むかえよう。


「ちょっと、貴方、我慢強そうね。掃除係で採用してもいいわ。お給金銀貨8枚の・・・男ね」


 やだ。怖い。雇われたら酷使されそう。思って顔を上げたら。

 どこかで見覚えがある。

 そうだ。昔金貨5枚かした令嬢か?


 商会長は令嬢だ。両手で口を押さえてプルプル震えている。


「う、嘘、アルベルト・・様」


 俺は令嬢の間をすり抜けて逃げようとした。こんなブラック商会なんてお断りだ。


「アハハ、これは不採用ですね。では、またのご縁を・・・」

「お待ち下さい。採用ですわ!」


 ガシと腕を捕まれた。


「さ、採用!採用ですの!」

「ヒィ、何で!しかも、力が強いです!」


 もう、令嬢商会長は腰を落として両手で俺の手を持ち逃亡を阻止する。


 結局、秘書として採用された。


「スケジュールすごいですね。このアルベルト補給というのは?」

「フフフフ、あなたとのお茶会よ」


 何故だ?俺は金貨5枚貸しただけだ・・・

 何故、そこまで俺にぞっこんになる。

 恋愛じゃないな。すがられている気がする。


「フフフフ、あの後、私は唯一相続したアパートの外壁を綺麗にして空いている部屋を改装したのよ。

 そして落書きも一生懸命に消した。消しても消しても落書きを書かれたわ。

 数ヶ月続けたら落書きも消えてね。


 私はドレスを着て、アパートに住み着いて、お茶を飲み。住人に挨拶をしただけだわ。そしたら、周りの地価が上がってきて、その頃には信用もついて商業ギルドからお金も借りられるようになったの。周りの不動産を買ってアパートにしたり転売もしたのよ」



「そりゃ、全て、商会長の手柄では?」

「フフフフ、あなたは私の幸運の精霊なの。あなたに会いたくて求人を出したのよ」


 俺は好待遇だ。他の商会員との軋轢が生まれそうだったが、それはなかった。


「アルベルトさんが来てからノルマ未達成の懲罰が無くなった」

「ええ、商会長に報恩感謝の報告会もなくなったわ。すべてアルベルト補給の時間ですって、感謝しています。どうか辞めないで下さい」


 な、何だそれ、聞いただけで身の毛のよだつ言葉が出てくる。


 しかし、このまま業績が右肩上がりになるほど甘くはない。

 冒険者と同じだ。魔物が多量発生、しかし、あっという間にいなくなる。


 案の上、同業他商会が不動産事業に参入して、地価があがり。不用意に手が出せなくなった。

 中でも、マーリカ様のご実家、アウリ侯爵家が参入してきた。



「マーリカ様、最近、やつれていますね」

「フフフフ、アルベルト様、マーリカとお呼び下さいませ」


 もう、両の手の平を俺の胸に押し当てて抱きついてくる。

 何か、家族みたいだな。恋人の感覚ではない。



「大丈夫ですわ。地価は高騰していますが、必ず暴落しますわ。現状維持ですわ。必ず暴落しますわ」


「いや、それでいいが、貴族はもっと悪辣ですよ・・俺に任せて下さい」



 きっと、ゴロツキを雇って妨害にくるだろう。


 アル&マリー商会は質の良い不動産が売りだ。

 敵はゴミ捨てや、地上げなどを仕掛けてきた。


 これは出遅れた。通常、同じ冒険者ギルドで二つの勢力から依頼が来ても受けない。

 同士討ちになるからだ。アル&マリー商会の依頼は受けてくれない。


 辛うじて、俺はコネを使って遠くの冒険者の駆け出しならOKとなった。


 ガキどもを指導する。


「いいか、決して一対一は無しだ!魔道師が詠唱を始めたら、唐辛子が入った袋をなげつけろ。剣士は長い棒で打ち据えよ!」


「「「はい!」」」



 奴らは腐っても村で農作業をしていた田舎者だ。すぐに、リーダーが決まり集団行動がとれた。

 怪我人が出たが、死者はでない。


 あるとき、俺の昔のパーティー員と遭遇した。

 何か様子がおかしい。


 一応、攻撃を中止させて、俺が1人で向かい話を聞く。


「実は・・私達妊娠しているのです」

「ガルドは酒場で、金を数えていますわ。コスパが悪いから俺は出ないのですって・・・」

「僕、どうしたら良いか分からないよ」


「ああ、そうかい、任せろ」


 ということで、酒場から出たガルドを・・・殺した。

 暗殺だ。


 白昼堂々、酒場から出た直後に、短刀で胸を刺して、短刀を90度回した。


「えっ!」

 と驚いている。こいつには戦闘は教えなかったから仕方ない。しかし、驚くって何だよと憤る。


 その後、4秒以内に逃走だ。暗殺はできるだけ少人数で行い。素早く逃げる。

 それがバレない秘訣だ。

 これはギリギリ犯罪ではないな。


 3人が俺の元で働きたいと言ったが断った。


「すまない。もう後戻りできないのだ」


「そ、そんな」

「私達はてて無し子を産むことになった責任を取って下さい」

「僕もそう思うよ」


「バカ野郎。どのみち父無し子だろう。ガルド単体では金儲けできないのだからな」


 重婚は基本認められていない。

 認められる場合は、王族が子孫を残すために側妃をめとるぐらいだ。



 その後、地価は暴落し。マーリカは土地を買いあさり。適正価格で売り。

 貧民用の居住区も整備し、その周りの地価が上がり。成功パターンにはまった。


 遂に、マーリカの実家、アウリ侯爵邸も競売にかかり。マーリカが買い取った。

 聞けば、マーリカの母親が亡くなってから、ボロアパートだけ相続させて、自分らは豪勢に暮らしていたそうだ。


 マーリカは貴族学園に行っていない。つまり、貴族になる資格はないのだ。

 貴族法上、どこかの貴族の婿を取れば可能か?



「ねえ。アルベルト様・・・」

「マーリカどうした?」


「あのね。私、父と義母、義姉を恨んでいるのよ。私の事を欲しがり義妹マーリカとして劇まで上映し、我が儘三昧だった私を追放した清らかな義姉と宣伝したのよ・・正統な相続にして欲しいと言っただけなのに、グスン」


「そうか」


 マーリカは胸に飛び込む。


「一番、許せないのは、お母様が整備した庭園を壊して、チューリップや蘭を植えて成金趣味にしたことよ・・」


 話を聞いたが、陛下も愛するアウリ侯爵邸の庭園を成金趣味に改造したことに


 陛下は不審に思い。義姉と王子の婚約を認めず。莫大な資金を投じてロビー活動を行ったが無駄になった。

 これも没落の原因だろう。


「でね。どうしたら良い?父たちを債務奴隷として売ることも可能だわ・・」



 俺は歴史の逸話を話した。


「いいですか?復讐は無益とは申しません。しかし、平民が喜ぶような復讐も考え物です。

 ある地域に姉妹がいました・・・」


 姉は父母の寵愛を独占する妹に苦しめられました。婚約者も取られたのです。

 屈辱の限りだったでしょう。

 しかし、苦労して復権して妹を除くことに成功しました。


 妹は屋敷に生涯幽閉です。


 しかし、姉は・・・


『妹1人の生活費、貴族の体面もありますわ。負担になりますから・・・・食事をとめなさい。急病よ』


『はい・・』


 その話が使用人の間に広まり。姉の婚約者の耳にも入りました。

 徐々に人が離れ。

 領地経営の失政を咎められて親戚に爵位を譲り。晩年は1人寂しく過ごしました。


 決して金で人の命を計ってはいけなかったのです。



 一方、外国に人質として王子を差し出した王様がいました。

 その子ははっきり言って、そのために縁組した養子でした。


 あるとき、その国と戦争になろうとしたとき。


『ええい。王子がどのような待遇を受けているか心配じゃ!カゲを使い支援をさせよ。奪還作戦を立てよ!』


『御意!』


 奪還作戦で大勢が死にましたが、その王様は臣下や臣民達に好かれて王位を全うする事ができました。



 ・・・・・・・・・・・



「マーリカの好きなように・・」

「分かったわ。でも、珍しいわ。あなた、どこでそれを知ったの?」

「いや、実は元貴族なんですよ。10代の頃に没落して、辛うじて貴族学園は卒業しました」

「まあ!」



 マーリカは父、義母、義姉を商会が保有している不動産の管理人にした。

 正直、これでもかなり屈辱的ではあるが。

 奴隷よりはマシだと評判だ。


 吟遊詩人は歌うが人気はイマイチだ。

 これで良い。


 今は、アウリ侯爵邸の復興作業に行っている。

 庭園を戻し。屋敷の悪趣味な装飾品を取り除いている。



 村からお袋を呼び出し。一緒に住むことにした。

 マーリカとは良好な関係だ。


「お義母様、私は早くに母を亡くして、親孝行をしておりませんわ。是非、お義母様を相手に親孝行の真似事をしたいですわ。月に銀貨50枚の援助をさせてくださいませ」


「まあ、我が義娘・・・と呼んで良いのかしら」

「はい!是非」


 お袋は侯爵邸の庭園でノンビリ花の栽培をして愛でている。


「アルよ」

「母さん」

「実はな。貴族位は抜けていない。まだ貴族院では伯爵位なのだ」

「はあ、商売で失敗して没落したのでは?」

「貴族税は管理人が払っておる。今、相続しても平民と変わらない収入しかないから平民としてくらしているのよ」


「そんな」


「それにアル&マリー商会、このアルはアルベルトのアルね。マリーは、マーリカの名ね」

「はああああ?」


 俺は腹の底から息を吐き出して驚いた。

 そう言えば、マリーがマーリカ様の愛称だとしたら、アルは俺か?


 こえーよ。


「あなたー!」


 ビクン!マーリカの声だ。

 そう言えば、貴方はあなたと聞こえるような。


「おお、我が義娘よ。アルはここだわ。アルと呼んでいいわ。義母が許します」

「お義母様!はい、そうさせてもらいますわ。キャ!」


 キャじゃねえよ。お前はそんなキャラじゃないだろうと思いつつ。

 これは・・・もう、手遅れだろう。でも、嫌な気持ではない。

 ただ、もう少し時間をもらいたい。

 今度言ってみるつもりだ。





最後までお読み頂き有難うございました。

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