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亡き。消えた親子。

 何時もの夕食よりも、どこか無理に楽し気に。そして、どこかぎこちない雰囲気で食べた、岸本家の家族団欒の夕食は、夜の8時には終わっていた。

その()、瑠璃子が洗い物を始めると、いつもは手伝おうとしない、希未留と亮太が、瑠璃子の(そば)に来て手伝ってくれた。

夫の正行は、そんな、いつもとちょっと違う家族の風景を、リビングのソファーでテレビを見ながらも、時々振り返っては見て居た・・・。


 それから夜の11時を少し過ぎた頃だった。

子供を寝かせた瑠璃子は、夫婦の寝室で眠りに就こうと部屋に入った。

部屋には夫婦各々(それぞれ)のベッドが置かれてた。

正行は少し前にベッドに入ったのだが、まだ目を開けて起きて居た。それで部屋に瑠璃子が入って来ると、頭を少し持ち上げて瑠璃子を見た。

正行が起きてるのを見た瑠璃子は、正行と直接目を合わせないまま、静かに自分のベッドに入った・・・。

それから、少し経ってからだった。

瑠璃子は正行の方に身体を向けると「今日は一緒に眠りたい」と、言ったのだった。

正行は瑠璃子の方を見ると「良いよ。僕がそっちに行こう」と優しく言った。

今夜の正行は、妻のその言葉を待って居たのだった。

瑠璃子は夫の場所を空けるのに寝てる場所を少しずらした。

ベッドから起き上がった正行は、瑠璃子の誘いが『夫婦の営み』への誘いでは無いと感付いて居た。

それえは、帰宅した時の家族の雰囲気から察していたのだ。

それから少しの(あいだ)

一台のシングル・ベッドに二人が身を寄せ、互いに同じ天井を見上げて居た。

そんな状態は、もう10分ほども経っていた・・・。

正行は、瑠璃子が自分に何かを話したいのだろうとけど、まだ頭の中か、心の中の整理がつかないのだろうと思って居た。

それで正行は何も聞かず

そして、何もせずに居た・・・。


 それから更に、どれぐらい経ったろうか。

「今日、希未留を迎えに行った帰りて・・・」と、瑠璃子が、今夜の異常な出来事を正行に話し出したのは・・・。


 今夜の異様な出来事を話し終えた瑠璃子は「あれって・・・やっぱり幽霊なのかな・・・」と、言った。

正行は「そんな事って・・・」と、否定しようとしたが、それは瑠璃子と希未留の事を考えると、どうなのかと考えた。

正直なところ、正行は霊を全く信じてない訳では無かった。

それは、これまでの人生の中で、そうした霊による出来事だったと言っても良い様な体験を少しはした事があったからだった。

それで正行は、妻と娘が同時に奇妙な体験をしたと言う押しボタン式信号機がある場所の事を考えた。

そして、そこでは過去に何かあったのでは無いか?と思い、記憶を辿った・・・。

瑠璃子は、夫がさっきから何も答えないが、きっと何かを考えてるのだろうと思い待って居た。


「そうだった・・・・」

正行がそう言ってから話出したのは、あの押しボタン式信号機で過去にあった、人身事故の記憶だった。


 人の記憶は少々曖昧である。

しかし反面、少しの切っ掛けで、多くの事を思い出す事も出来る不思議さもある。

この時の正行は(まさ)にそれで、彼は天井を見上げながら当時の事を思い出し・・・・そして、瑠璃子に話し出したのだったが・・・・。


以下の話は、正行が話した内容よりも、より詳しい事のあらましである・・・。



 それはもう、10年以上前の事であった。

季節も今頃。

7月の始め頃だった・・・。

あの押しボタン式信号機での出来事・・・。

平日の朝の通勤や通学の時間だった。

ある親子が信号機の押しボタンを押して、歩行者側の信号が青に変わるのを待って居た。

それは、スーツ姿の父親と、黄色い帽子を被った小学校低学年の女の子であった。

車の通りは多くの、その多くが先を急いでいた。

やがて車両側の信号が黄色に変わったが、まだ数台の車が、そこを通り抜けて行った。

そして車両側の信号が赤に変わった瞬間、路側帯寄りの車列の先頭のが急減速しって止まろうとした。

その車両は『2トンの箱車』だった。

そして歩行者側の信号が青に変わった瞬間に、信号待ちをしてた親子は、横断歩道を渡り始め、路側帯側の箱車の前を通り過ぎて、二車線目の真ん中に差し掛かろうとした時だった。

左車線の信号待ちの車列を、右車線から高速で追い抜く形で突っ込んで来る1台の軽自動車が来たのは。

右車線を走り抜けるその車の運転手からは、左車線の車列と、その先頭の箱車の影に入って見えなかった親子が、横断歩道を渡って来るのが見えたのは右車線の中央手前辺りだった・・・。

その車両は急ブレーキを掛けたが、横断歩道の上で、我が子を庇う父親とその娘を()かずに済むには発見が遅く、余りにも車速が早すぎた。


間に合わなかった。

何もかも間に合う訳がない、運転判断だった。


軽自動車に轢かれた親子は、ほぼ即死だった・・・。


それは、我が子を守れなかった父親としては、娘が苦しむ時間が少なかった事が、最後の救いだったのかもしれない。


その車の運転手が後に語った。

「私は、会社の出勤時間に間に合わす為に、先を急いでました。だから、多少の信号無視をしてでも、あそこの信号を通り抜けようと思ったのです・・・。横断歩道を渡って来る人が居ても、私の車に気が付いて、ぶつかる手前で立ち止まるだろうと思ってました・・・」と・・・。


瑠璃子は 「私が・・・。私と希未留が一緒に見たのは、きっとその親子だったんだね・・・」と、静かに言った。

そして、そっと目を閉じて、(まぶた)を震わせた・・・。


 つ づ く



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