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7月。この日の夜は土砂降りだった。

 岸本 瑠璃子(きしもと るりこ)(38歳)は、夫(43歳)と息子(9歳)と娘(4歳)との4人暮らしだった。

瑠璃子は土日と祝日以外は、自宅としてる分譲マンションから、車で20分ほど離れた場所に在るスーパー・マーケットで、レジ打ちや、棚出しの仕事をしていて、就業時間は午前9時半から、夕方4時までだった。

夫は食品関係を扱う中小企業の営業をしていて、瑠璃子と同じく土日と祝日は休みが多かったものの、帰宅はいつも夜の7時を過ぎる事が多かった。

つまり岸本家は、共働で家計を支えて居た。

そういった事情で、子供の送り迎えを含む家事全般の多くは、瑠璃子の仕事となっていた。

小学生の長男は、瑠璃子が帰るまでの時間まで、学校で預かってくれる仕組みがあったのでとても助かっていた。

ただ、下校はある程度の集団下校と言った感じで、同じ方向に向かう生徒同士がそれぞれの家の近くまで一緒に行って別れると言う方法だったので、瑠璃子はいつも、息子が無事に帰宅してるのかが心配だった。

そして先の通り岸本家は共働きであり、近くに親兄弟も住んで無かったので、長女は有料保育園に入れなくてはならず、それには国が補助してくれるとは言え数万円の支払いが必要だった。

それでも、全てを自分で面倒を見るよりは、ずっと楽であったので、瑠璃子と夫は『国と自治体の援助は兎に角助かる』と思って居た・・・。


 7月始め。この日は、朝から雨だった。

パートでの業務を終えた瑠璃子は、小学生の息子がちゃんと帰宅して留守番をしてるのかが心配だったので、自分の他には誰も居ない職場の更衣室から、スマホを使って自宅に電話した。

それは、これから娘の希未留(きみる)を保育園へ迎えに行く瑠璃子の、パートの仕事を()えた(あと)の日課となっていた。

すると、程なくして息子が電話に出た。

「あ。|亮太?ちゃんと帰れた?」

「うん。けっこう雨が降ってたけど、ケンチャン達と一緒に、ちゃんと真っ直ぐ帰った」

「そう。川に近付いたりしなかった?」

「してないよ」

「川の水が沢山流れてるのが楽しそうだからって近付いたりしたら、とても危ないからね」

「分かってるよ。してないよ」

「雨の日は車からも見え辛いから、横断歩道が青でも気を付けてね」

「うん。分かってるよ。それにもう帰ってるし」

「今日だけの事じゃないの」

「分かってるって・・・」

「そう・・・。じゃあ、ママは今から希未留(きみる)を迎えに行ってから帰るのから。それまで戸締まりしてちゃんと留守番をお願いね」

「うん。ママも気を付けてね」

「うん。分かった。雨だから少し遅くなるかも知れないから」

「分かった」

「それじゃあ・・・待っててね」と話し、電話を切ったのだった。

そうして瑠璃子が職場から娘を迎えに向かおうとした午後4時15分頃には、外は更に大雨と成っていた・・・。


 通勤時は小雨だったので、車から降りて職場の建物に入るのに、傘を持って行こうか少し迷った瑠璃子だった。しかし、帰りに着替え、スーパー・マーケットの出入口まで来ると、余りにもの大雨に瑠璃子は立ち止まった。

(傘を持来て良かった)と瑠璃子は思うと、買い物客の邪魔にならない所で傘を広げ外に出ると、職員用の駐車場に駐車してある自分の車へと足早に向かった。

瑠璃子の車は割りと新しい軽自動車であった。

瑠璃子は自分の車へと向かいながら、小さな鞄に入れてあるリモコンのボタンを押して解錠し運転席のドアを開けると、傘を閉じながら、お尻からサッと乗り込んで、傘を閉じた。

助手席の床に閉じた傘を斜めに立てて置いた瑠璃子は、車のエンジン・スタート・スイッチを押した。

すると、今日一日ずっと雨だったとはいえ、外気温が26℃もあることが、車の運転席のメーター・パネルにある液晶モニターに表示された。

オート・エアコンが同時に作動すると、フロント・ガラスが、それまでの水蒸気のせいで一気に曇っていった。

しかしそれからは、エアコンの除湿機能に因って、フロント・ガラスは下の方から徐々に乾き始めたのだった・・・。

フロント・ガラスの様子を見て居た瑠璃子は、ズボンのポケットから取り出したスマホに目を落とすと、ワイパーも掛けずに車内でメールを打ち始めた。

それは、娘を迎えに行く保育園に『これから迎えに行きます』といった内容の文章だった。

「これで良し」と、独り言を言った瑠璃子は、シート・ベルトを絞めてワイパーを作動させた。

すると同時にオート・ライト(自動で作動するフロント・ライト類)が作動したが、こう雨が強いとヘッド・ライトのLEDの光は、路面や周囲の雨水で乱反射して空中にも散ってしまい、思ったほどの明るさを発揮してはくれなかった。

それで瑠璃子は(歩行者の見落としには気を付けよう。特に雨の日でも高速で走る自転車等には気を付けよう)と、薄暗い前方を見ながら、改めて思った。

瑠璃子はブレーキを踏みながらシフト・レバーをドライブに入れ、車を発進させようとした。

すると同時に、車内にはアラームが鳴ったので、瑠璃子は少し驚きながらメーター・パネルを見た。

液晶モニターには『フロント・センサーが前方に物体を感知した』事を伝えていた。

瑠璃子は、それは大雨によってセンサーに大量の水が着いた事によって起きてる誤作動だと思った。

それは、これまでも、こうした天候では良くある事だったからだ。

しかし、例えそうだったとしても、本来は車を降りて前方を確認するべきであった。

それは、エンジンを掛けてから、瑠璃子はスマホを操作してたので前方や周囲を見て居らず、その隙に車の前方に『何かが在る。或いは居る』可能性があるからだった。

この自動車の運転マニュアルにも、そう書いてるから、本来はそうするべきではあった・・・。

しかし現実は、この大雨である。

瑠璃子は外に出たくは無いと思った。

それで瑠璃子は、車の前方カメラを利用する事にした。

瑠璃子はカーナビの物理ボタンを押して、フロント・カメラからの画像をカーナビの画面に写し出した。

すると、矢張と言っては何だが、車の前方には何も問題は無かったのだった。

「やっぱ、何もないじゃない」と、瑠璃子は独り言うと、今後も誤作動を繰り返すであろうフロント・センサーをハンドルのスイッチを使って切った。

そうしなければ、走行後に減速する度に警告表示と警告音が運転の邪魔をするからだった。

そうした瑠璃子は、曇りの取れたフロント・ガラスに張り付く様にして前方と周囲を確認すると、ゆっくりと車を出したのだった・・・。


 つ づ く


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