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酒場での情報収集の勝率はコミュニケーションで決まる

 



転移魔法で移動した先で、ナインたちはあまりの寒さに凍えていた。


「うう…寒いですね…!」

「本当よ…!なにこれ異常なほど寒いわ!!」


 ナインたちは雪国に来ていた。着いてすぐに慌てて防寒着に着替えたが、それでもまだ寒い。着替えるのが少し遅かったら凍っていたのではないかと思うほど、辺りは雪に覆われていた。


「雪国用の装備を予め買っておいて正解だったわね。ユーコからもらったこのカイロというのも温かいわ」


 いつもは露出の多い踊り子の衣装を着ているラミィだったが、流石に雪国でそんな服を着ていたらいくらモンスターでも死んでしまう。今はもこもこのコートに身を包み、鼻の頭を赤くしていた。


「『怪我や病をたちまち治してしまう奇跡のオーロラ』を見るために雪国まで来てみましたが…ものすごく寒いですね。正直甘く考えてました」

「そうか?」

「そりゃ、全身熱だるまのクーちゃんからしたらそんなもんでしょうよ。寒さを感じなくても見てるこっちが寒いから、この防寒着着て!」


 流石熱のモンスター。この寒さに薄着でも全く動じていないゴークだったが、ティロロによって半ば無理矢理防寒具を着せられた。

 確かにティロロの言い分もわかる。いつもの服装でいられては見てるこっちが寒い。

 ここは雪国にある小さな村のようだったが、ラミィの認識阻害の魔法のおかげか、村に入ってもナインたちが変に悪目立ちすることはなかった。背景に溶け込むように、村の中を散策する。


「オーロラは寒い場所で見られるようだったので、一番雪が降るらしいこの村まで来てみましたけど、今回は情報が少なすぎますね」

「いつ、どこでの明記がない上に、寒い場所なんてこの世界に山ほどあるでしょうしね。見ただけで体の傷が癒えるなら何か伝承や噂になっていそうだけど…。少なくとも、私は聞いたことがないわ」

「僕もー」

「俺もです。ですが、もし本当なら見てみたいですよね。そんな奇跡みたいなオーロラ。きっと一度見たら忘れられないと思います」


 これまでの景色も一度見たら忘れられないものばかりだった。今回も例に漏れないのではないかと、知らず知らずのうちに期待が高まる。

 ナインは決意を新たに、こぶしをぎゅっと握った。


「まずは情報収集をしてみましょう!あ、ラミィ、あそこにちょうど良さそうな酒場がありますよ!」

「い、嫌よ!また酔っ払いに絡まれて終わりになるだけじゃない!」

「トライアンドエラーですよ。何度もやったら今度こそできるかもしれません!」

「嫌よ嫌!絶対に嫌!」

「まぁまぁ。そう言わずに…」

「酒が飲めるならなんだっていい」


 以前時計塔の街で行った情報収集は惨敗だったが、今度はそことは違う酒場だ。今度こそ上手くいくかもしれない。

 それに、あの日と違い、今回はティロロというコミュニケーションに強い仲間もいる。挑戦しない手はなかった。

 意気込んだナインが協力を相談しようと周りを見回すと、ティロロは少し離れたところで空を飛ぶ鳥を眺めていた。


「ティロロ?どうかしましたか?」

「ん?いや、なんでもない!酒場に行くんでしょ?外は寒いし、行くならさっさと行こ!」


 笑顔で酒場に向かっていくティロロを追いかける前に、ティロロが眺めていた鳥をナインも一瞥してみる。

 雪がちらつく厚い雲に覆われた曇天の空には、黒いカラスが一羽悠々と羽を広げていた。




 酒場の中は暖炉の熱と人の熱気で温かい。

 中に入ったナインたちは料理を適当に注文し、ある程度腹を満たした後、さっそく情報収集を行うことになった。

 そして、数刻後。そこはまさしくティロロの独壇場だった。


「へぇー!オーロラって見るの大変なんだね!なのに見れるなんてすごいじゃん!どんな手使ったのさ!」

「どんな手を使ったも何も、運が良かっただけだよ。あそこの街のはずれにドーム状の宿屋があって、たまたま部屋に空きがあるって言うからそこで待ち伏せてみたんだ。1か月はかかったかな」

「じゃあ粘り勝ちってこと?やっぱりすごいじゃん!ちなみに、そのオーロラってどんな見た目?それ見た時、なんか体の傷が治ったり調子が良くなったりとかしなかった?」

「んー。綺麗で感動はしたけど、そういうのはないかな。見た目はこう…空に薄いカーテンがかかっている感じ?オーロラっていろいろな形があるそうだけど、私が見たのは一番ベーシックな形らしい」

「へーそうなんだー!!」

「オーロラって言ったら私この前ねー」


 カウンター席に座ったティロロを中心に、美女たちが群がってオーロラトークで盛り上がっている。酒場で働いている店員から、夜の仕事をしてそうな露出の多い服を着た美人まで、色とりどりといった感じだ。

 ナインたちは食事をした時と同じテーブル席に座ったまま、呆けた顔でそれを観察していた。


「ティロロ。すごいですね…」

「ふん。ただ女たらしってだけよ」


 ラミィは酔っ払いに絡まれないようにするために、体の大きいゴークの隣でこそこそと隠れながら口をすぼめた。ティロロの顔が整っていることはわかっていたが、高いコミュニケーション能力と合わさると、まさにイケメンの面目躍如だ。ナインもこの酒場に入ってすぐは情報収集をしようと頑張ったものだが、ティロロのあれには遠く及ばないだろう。

 エールを片手に女性どころか酒場にいたすべての人間と腕組でもしそうな勢いに、ナインはただ邪魔をしないように感心しながら見ていることしかできなかった。

 しばらくすると、女性たちと別れたティロロがナインたちのいるテーブルまで戻って来る。一仕事終えたようなその貫禄に、ナインは素直に拍手した。


「え?なんで拍手?」

「お見事です。ティロロは凄い。それでいて格好いいです。惚れ惚れします」

「え、えー…?まぁ、確かに僕は凄いけどね!」


 突然の大絶賛に一瞬何事かと怯んだ様子だったが、ティロロはすぐに気を取り直し、本題に入った。


「もしよければ今から彼らに訊いた話をまとめて話すけど、いい?それとも宿に行ってからにする?」


 気遣いに感謝しつつ、ナインはこの場で情報収集の結果をきくことを選んだ。

 頷いたティロロは一口酒を呷ってから、要点だけをかいつまんで話す。


「この村の付近で10年くらい前にオーロラが見れたことはあったみたいけど、年数がたちすぎてるし、ナイン君のガイドブックに載っているのとは違うと思う。件のオーロラが見れるのは、この村じゃないのかもね」

「そうですか。残念です」

「あと、『怪我や病をたちまち治してしまう奇跡のオーロラ』についてもきいてみたけど、結果は全部空振り。オーロラを見たことがあるって子や話を聞いたことがある子は何人かいたけど、話を聞く限り全て普通のオーロラだろうね。とてもそのガイドブックに描いてあるような不思議な力を持ったオーロラとは思えなかったよ」


 ティロロはそこで一度話を区切り、ごほんとわざとらしく咳ばらいをした。


「ただ、この村にはオーロラに詳しい人物がいるらしくてね。よく旅に出てしまうそうだからいつもはいないそうなんだけど、今は旅の準備期間中でたまたまこの村にいるそうだよ。その人の家の場所を教えてもらったから、明日その人のところを訪ねてみるっていうのはどうかな?もしかしたら、その人なら『怪我や病をたちまち治してしまう奇跡のオーロラ』について何か知っているかもしれない」


 ティロロの提案に、ナインは二つ返事で飛びついた。


「ありがとうございます!!ぜひ会いに行ってみましょう!!」

「あはは。ナイン君ならそう言うと思った。…じゃあ、ここの支払いを済ませてさっさと宿屋に行こうか。そうじゃないと、クーちゃんがこの酒場のお酒を全部飲み干しちゃうよ」


 ティロロが指さした先には、水のようなペースで酒瓶を淡々と飲み干しているゴークの姿があった。その周りには空になった酒瓶がいくつも転がっている。

 言われてみれば、酒を出す店員の笑顔も若干引きつっているように見えた。


「そうですね」


 こうして、酒場での情報収集に成功したナインたちは、早々に宿屋へと移動したのだった。




新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしく願いいたします。

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