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いざキノコを探しにジャングルへ

 



 朝になり起床したナインがガンガルフに連れられ食堂まで通されると、そこにはによによと頬を緩めたユーコが待っていた。


「おはようございます!昨晩はお楽しみ……よく眠れたかしら!?」


 よもや、わくわくを隠そうともしない。

 一体何を期待されているのか聞くのも若干恐ろしかった。


 ナインは「はい。よく眠れました」と簡潔に返答する。その隣で、ラミィは暗い顔のまま静かに黙っていた。ラミィが見るからに落ち込んでいるのは明らかだったが、ユーコはそれに触れようとはせず、ティロロたちへ話題を振った。


「そちらは?まだ寝てらっしゃるの?」

「部屋から逃げようとしやがるから、魔法使おうとするたび焼き溶かしてた。朝方まで続けて、さっきようやくこいつの体力が尽きたとこだ」

「まぁ!お熱い関係なのね!」


「だから部屋が焦げ臭かったのか…」と朝食を運びながらガンガルフが呟く。

 よく見れば、まだ寝ているティロロの服は所々が焦げていた。ユーコが言っているのとは別の意味で、物理的にお熱い関係であることは間違いなかった。


 昨日と同じく美味しい朝食を食べ終えると、ユーコはポンと手を打った。


「さて、叶えて欲しい最後の欲についてですが、わたくし、とある特別なキノコが久しぶりに食べたくなってしまいましたの。なので、それを取ってきてほしいのですわ」

「特別なキノコ?」

「はい。『踊りを踊るキノコの森』というのはご存じかしら?そこしか群生しない《七色ダケ》というキノコが大変美味でして…」

「『踊りを踊るキノコの森』!?」

「うわっ。いきなり大声出してどうしたのよ?」


 突然立ち上がりそうな勢いで大声を出したナインに、隣にいたラミィの肩が跳ねる。

 ナインは興奮気味にガイドブックを指輪から取り出し、ページを開いた。


「ほらここ!『踊りを踊るキノコの森』はガイドブックのこのページに描かれているんです!どこにあるのか謎だったので、後回しにしていたのですが…まさかそれがこんなタイミングでわかるなんて…」

「なんですの?その本は?」


 ユーコには《世界の原石》やタロとの関係については話しをしたが、ナインたちの旅の目的まではまだ詳しく話していなかった。

 特に隠しているわけでもなかったので、ナインはガイドブックを見せながら事情を説明する。ユーコは全て説明を聞き終えると、興味深そうに顎へ指をあてた。


「ご事情はわかりましたわ。つまり、今回わたくしの欲とナイン様の目的は一致しているということですわよね?」

「はい。そうなります」

「それは僥倖」


 ユーコは改めて『踊りを踊るキノコの森と七色ダケ』について説明を始めた。


「キノコの森はこのジャングルのはずれにある森なのですが、片時も休まず“移動”しておりまして。見つけるのは困難とされています。七色ダケを見つけるためにまずはキノコの森を先に見つけなければいけません。なので、今回はこちらで案内人を手配しましょう。………ドット。いらっしゃい」

「はい。ユーコ様」


 ユーコに呼ばれ、一匹の犬が前に出る。白い毛玉に四つの足がついたような見た目のそれは、瞬く間に子供の姿へと変化した。

 耳と尻尾は白い毛をそのままに、半ズボンを履いている。


「あ。君はあの時の…!」


 ドットはナインたちがこの洋館に訪れた時、真っ先に遠吠えをして仲間を呼んだあの小型犬だった。モンスターだったと知り、ナインは目を瞬かせた。


「あら、もう面識があったのですね。…ドットはまだ子供ですが、優秀なポメラニアンの獣人です。七色ダケの匂いを覚えているので、貴方たちをキノコの森まで案内してくれます。それと、それ以外でもきっと旅の役に立つでしょう。……それでは、ドット。頼みましたよ?」

「…………はい」


 ドットはどこか浮かない顔をしている。一度警戒していた人間を、今度は助けてやれと命令されれば誰でもそんな顔になるかもしれなかったが、それにしても不満げだった。

 暗い雰囲気を打ち消すように、ユーコは極めて明るい声を張り上げた。


「そ・し・て!ドットを貸し出す代わりに、わたくしはこちらでラミィ様を預からせていただきますわ!」

「え?」

「何で私!?」


 ユーコは立ち上がり、ラミィの肩をがっしりと掴んだ。


「昨日見せていただいたラミィ様の変化の魔法。本当にお見事でしたわ!わたくしが望めば、他のキャラにも変身できるのでしょう!?もっとじっくりと見せてくださいまし!!」


 要は交換条件なのだろう。もしくは欲を満たすまでの人質か。

 こちらに強さを誇るゴークや、どこにいてもすぐ帰って来れるティロロがいる限り、ラミィへ危険が及ぶとは思えなかったが、転生勇者としてのユーコの実力は未知数だ。

 どう判断したものかとナインが迷っていると、決断するよりも先にラミィが「わかったわ」と承諾してしまった。


「森の中ならナインに私の認識阻害の魔法は必要ないでしょう?あんたたちが帰ってくるまで、大人しくここで待ってるわよ」

「……わかりました」


 昨晩のことをまだ気にしているのだろう。朝からラミィはナインと目を合わせなかった。

 理由が理由なだけに、何か別のことで気を紛らわすか、時間が必要なのかもしれない。

 ナインはラミィの意思を尊重し、ここに残すことを決めた。


「ユーコさん。くれぐれもラミィに無理強いはしないでくださいね」

「心得ておりますわ」


 こうして、ナイン・ティロロ・ゴークの3人と、ドットを加えた計4人はキノコの森探しに出かけたのだった。




「ええと、ドット君。これからよろしくお願いしますね」

「…くん付けするな!まだ子供だからってオイラを馬鹿にするんじゃないぞ!」

「すみません。では、ドット。これからよろしくお願いします」

「ふんっ」


 ドットを先頭に、ジャングルの中をひたすら歩く。

 ユーコの洋館の中にいるときは快適だったが、ジャングルの中はやはりじっとりと蒸し暑い。普通の森ではあまり聞かないような主張の強い鳥のさえずりを聞きながら、ナインたちは『踊りを踊るキノコの森』を探していた。


「……んん?………はっ!どこここ!?外!?」

「やっと起きやがったか。降りろ」

「ふぎゃっ!」


 寝たままなかなか起きなかったティロロを背負っていたゴークが、起きたとわかった途端容赦なく地面に落とす。「ちょっと痛いんだけど!」と抗議するティロロだったが、周りを見てここがジャングルだとわかると状況確認を優先した。


「えーと、今ってどういう状況?」

「実はかくかくしかじかでして」


 説明する気が毛頭ないゴークに代わり、ナインが事の経緯を説明する。

 相槌をしながら全て聞き終えたティロロは訳知り顔でドットを見た。


「…はぁ。なるほどね。で、このちんちくりんが案内役と」

「ちんちくりんじゃない!ドットだ!」

「はいはい。ドットちゃんね」

「メスみたいに呼ぶな!」

「え?じゃあオスなの?」

「オスでもない!ドットはドットだ!」

「え????」

「ん?」


 今さらっと衝撃的なことを言っていた気がしたが、気のせいだろうか?

 幼稚さ故で説明できるほど、ドットは子供じゃないように見える。

 あまり触れない方がいい話題なのかもしれないと思ったナインは一旦その話題を横に置いて、ずっと気になっていたことを尋ねた。


「ドットが首から下げているそれは何ですか?」

「ハーモニカだぞ」

「へぇ。ドットはハーモニカが吹けるのですね」

「……これはキノコの森を探すのに必要だから持ってきただけだ」


 動物の骨を加工して作ったものなのだろうか。ドットが首から下げているものは、普通のハーモニカと言うには少々特徴的な形をしていた。だが、よく見ればハーモニカ特有の穴もあり、音が鳴る原理は一般的なハーモニカと同じなのだと推測できた。

 それにしても、ハーモニカとキノコの森に一体何の関係があるのだろうか。

 ナインがその疑問を口にするよりも先に、ドットの耳がぴんっと立ち上がった。


「匂いが近い!こっちだぞ!」


 ドットは鼻をひくつかせ、南へ向かって一目散に走り出す。

 ナインたちも慌ててそれに続くと、ジャングルを駆け抜けた先に真っ赤な森があった。

 さらにその真っ赤な森に近づくと、木と思われていたものには大きな傘が付いており、水玉模様が描かれていることがわかる。


 森と思われたそれは、巨木と見間違うほどの巨大なキノコの大群だった。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

執筆の励みになりますので、もしよろしければ評価、ブクマ、いいね等々よろしくお願いいたします。

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