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ドキドキイケメン寸劇大会

 



 ナインは理解することを早々に放棄して、もう一度同じ質問をした。


「俺たちは具体的に何をすればよいのでしょうか?」

「抱き合え」

「え?」

「そこのイケメンとイケメン。抱き合え」


 ティロロとゴークを指しながら、お嬢様口調もやめて意味のわからない指示をされた。

 ナインたちがきょとんとしていると、「ユーコ様!!!!いけません!!!!発作が出ております!!!!!」とガンガルフが窓が震えるほど馬鹿デカい声を上げる。


「はっ!私としたことが…!いくらタイプの違うイケメンが二人いたからって…お客様の前でなんてはしたないことを…!!忘れてくださいまし!」

「抱き合えって、ハグしろってこと?僕とクーちゃんで?あははっ。絶対嫌なんだけど」

「断固拒否する」

「んんっ!これは…ケンカップルの前触れ…?」

「ユーコ様!それ以上はいけない!!」


 今にも涎を垂らしそうなユーコをガンガルフが必死に止める。

 ドン引きしているラミィに向かって、ユーコは綺麗なハンカチで涎を拭いながら言った。


「こほん。誤解しないでくださいまし。わたくし、女性も男性も獣人も平等に愛せますの。薔薇も大好きですけれど、百合も大好物ですわ!」

「ユーコ様!!何のフォローにもなっていません!!」


 ナインたちは異世界用語を理解できなかったが、ガンガルフは理解できているようだ。だが、その顔を見る限りあまり今ナインたちが言われたことはあまりいい意味の言葉ではない気がする。

 聞くのも恐ろしかったが、ユーコを味方につけるためならば多少の汚れ仕事もやむを得ないだろう。ナインは小さく挙手した。


「あの、俺は何もしなくていいのですか?男同士で抱き合って欲しいなら、俺がゴークかティロロにしますけど…?あ、それともイケメンじゃないからダメとかですか?」

「あら、あまりご自分を卑下されるものではありませんわ。貴方のご尊顔を貶したわけではありませんの。そもそも平凡もそれはそれでかなり需要があるので全く問題なしですわ。……ですが、それ以前に、ナイン様には本命がいらっしゃるのでしょう?一途な方にたとえ演技でも猥らな行為を強要するのは、わたくしの倫理に反します」


 オリジンとナインの関係について、夫と妻という関係だったことまでユーコには言っていなかったのだが、何故かお見通しだったらしい。結婚指輪をぴっと指さされる。

 というか、今さらっと猥らな行為と言わなかったか?

 困惑するナインたちに同情したのか、ずっと興奮しているユーコを宥めることに専念していたガンガルフが口を挟んだ。


「萌えとは、人やその関係性などに対して抱く、強い情熱・欲望などの気持ちを表す。ユーコ様がいらした世界の異世界用語だ。お前たちにもわかるように、私たちが手本を見せてやる」

「私たち…?」


 ガンガルフは何故か燕尾服を脱ぎ捨てると、椅子に座るユーコの顎に指をあて、やや乱暴に上を向かせた。


「ユーコ。やんちゃするのもそれくらいにしておけよ。他の奴なんか見てないで、俺だけを見てろよ…!」


 これまで執事然としていたのとは打って変わって粗雑な物言いに、何故かされた方のユーコは顔を赤らめて「きゅん…!」とよくわからない鳴き声を上げた。どう見ても喜んでいる。

 その時、客室のドアが突如開け放たれた。


「何やってるんだよガンガルフ…!昨日は俺だけだって言ってたくせに!!俺との関係は遊びだったってことかよ…!!」

「ち、違う!誤解だ!!これはただ萌えを分からせるための演技で…!」


 兎の耳をした男の獣人がずかずかと部屋に入ってきたかと思うと、目尻一杯に涙を浮かべガンガルフの厚い胸筋をグーで殴った。ふるふると震える姿はか弱く、見た者を思わず守ってあげたくなるような気持ちにさせる。

 だが、誰だ。


「何が演技だよ!俺のことあんなに好き好き言ってたのに…!!ガンガルフのばかっ!!あれもこれも、全部嘘だったってことかよ…!」

「嘘じゃない。俺が愛しているのはお前だけ…」

「うるさい!!もう知らない!!」


 兎の獣人はそう言って、涙を流しながら客室を飛び出してしまった。

 だから誰だ。

 ガンガルフもガンガルフでユーコの手(いつの間に握っていた?)を乱暴に振り払い、兎の獣人を追いかけてどこかへ行ってしまう。

 残された側のユーコは「BLの当て馬女役になれるなんて…本望すぎる…!」と何故か恍惚とした顔で歓喜に打ち震えていた。


「狼×兎の弱肉強食の摂理を超えた愛!!萌えですわー!!」

「だからなんなのよコレは!!」


 よかったラミィがツッコんでくれた。

 ユーコの雄叫びを聞いていたのか、ガンガルフと兎の獣人が何とも言えない顔で部屋に戻ってきた。

「OKだそうだ」「うっす」という業務的なやり取りの後、兎の獣人はまたどこかに行ってしまう。その後ろ姿は雄々しく、微塵も庇護欲が掻き立てられなかった。

 だからその兎は誰だ。まさかとは思うがこのためだけに来たのだろうか?


「わかったか。これがユーコ様の求める萌えだ!」


 何事もなかったかのようにガンガルフは胸を張っているが、残念ながら何一つわからなかった。

 唯一わかったことと言えば、ガンガルフの演技がプロ並みに上手いということだけだ。あと切り替えも早い。


「ええと…ユーコさんは、三角関係や泥沼な恋愛がお好きということですか…?」

「違いますわ!いや、そういうシチュエーションも好きではありますが…わたくしが好きなのはもっとこう…パッションが…情熱が滾る的なやつですわ!!」


 どうしよう。全然わからないし、全然具体的じゃない。

 どうにかしてユーコを萌えさせる方法を考えたかったが、ナインは何も思いつかなかった。


「ユーコちゃんの言っていることはよくわからないけど、要は『好き!』って強く思わせればいいんだよね?だったら簡単じゃん!」

「ユーコちゃん呼び!?ナンパなチャラ男ムーヴは得点高いですわー!!」


 何やら呼び方に反応しているが、どうやらそれは萌えカウントにはならないらしい。

 ティロロは一歩前に出て、テーブルに並べられていた焼き菓子を一つ手に取った。


「ほら、口あけて?…あーん」


 甘ったるい笑顔で、ユーコの口へ焼き菓子を差し出す。忘れていたが、ティロロは黙っていればイケメンだ。

 確かにこれはドキドキするなと、見ていたナインの方が恥ずかしい心地がしていた。

 だが、当のユーコは真顔のまま。

 微動だにせず、くすりと笑った。


「貴方、誰にでもこういうことするんでしょう?」

「え」

「さぞその美貌で世の女性からちやほやされてきたのでしょうが、残念ながらわたくしはそんな安い女ではありませんわ。それに、貴方って本当は甘やかすより甘やかされたい派ですわよね?…尻尾がキュートなモンスターさん。わたくしがしてさしあげる側なら、お相手になってさしあげてよ?」


 さっきまでイケメンとか言って囃し立てていたのに、まさかの辛口。しかも立場逆転まで決められてしまった。

 心を折られたティロロはすごすごとナインのところに帰ってきた。

 次はお前だと、ユーコの目が今度はゴークをロックオンする。

 これはやらないと次に行かない流れだろう。ゴークは大きく溜息を吐いた。


「……愛しています。結婚してください。俺は弱い人間ですし、君を幸せにできる保証はどこにもありません。ですが、君を好きな気持ちは誰にも負けない自信があります」

「ちょっ!ちょっと待ってください!!」

「感情が全然籠ってない。0点ですわ!」

「えっ!?0点!?」


 火が出そうなほど顔を赤くしたナインがゴークの服を鷲掴む。

 ゴークが今感情を乗せずに言ってのけた台詞には、嫌と言うほど聞き覚えがあった。

 それなのにユーコに容赦なく0点と言い渡され、ちょっと半泣きになる。


「なんだよ。思わずクラっとくるような情熱的な台詞だっただろ?」

「~っ!さてはこの前海に落としたこと、根に持ってますね!?」

「さてな?」


 意地の悪い顔でにやりと笑う。

 その告白をしていた時ゴークはその場にいなかったはずだが、きっと空の上かどこかで聞いていたのだろう。よもや全て暗記しているのではないかと、ナインは戦慄した。

 告白したこと自体には一切の恥などないが、こうして暗唱されてしまうと流石にいたたまれない。

「結婚してください」のフレーズだけで、一体誰の台詞だったかを大体察したのだろう。ティロロは「他には?続きあるんでしょ?」と元気を取り戻し、ラミィは黙ったまま赤面していた。





マナーを守る腐女子を目指したはずなのにどうしてこうなった…?

ちなみにガンガルフくんはユーコに喜んでもらいたい一心で萌えについて一から学びました。

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