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自由と私と帰る場所

 



 山賊たちはどうやら箱爺以外の盗品も多くため込んでいたようで、それらは洞穴を埋め尽くすほど膨大だった。

 盗品を整理しながら、ちゃんと箱爺の木箱があるのを見つけ、中を開く。そこには神父からもらったメモ通りの鉱石やステンドグラスの素材が入っており、ナインはほっと安堵した。えらく遠回りしてしまった気がするが、これでようやく女神のステンドグラスを見ることができるはずだ。


 手分けして洞穴に会った盗品を全て馬車へと運び出す。

 働きアリになった気持ちでよいせよいせと運んでいると、転移魔法でティロロが戻ってきた。


「ティロロ!おかえりなさい。先ほどちょうど山賊を全員捕まえ終えて、盗られた荷物を運んでいるところです」

「良いタイミングで戻ってきたわね!さっさと荷物ごと馬車と私たちを港まで転移させて頂戴!」


 今まで全て人力で荷運びを行っていたため、ティロロがこのタイミングで帰ってきてくれたことは正直心強かった。ナインとラミィが期待を込めた目で見つめたが、いつまで経っても反応が返ってこない。


「……ティロロ?大丈夫ですか?」


 ナインの声掛けでやっと電源が付いたロボットのように、ティロロは動き始めた。


「大丈夫って何が?これを全部転移させればいいんでしょ?余裕余裕!このティロロ様にまっかせなさーい」


 どこかいつもと違う気がする笑顔に、もしやまたモンスターの集落の時のように疲れを溜めているのではないかと思ったが、ティロロを休ませるにしてもこんな山の中では休まるものも休まらないだろう。

 ナインはティロロに礼を伝えて、転移魔法で協会の港へ戻ることにした。




 協会の港に戻り、ナインたちは箱爺へ馬車とステンドグラスの材料以外の盗品を全て返却すると、宿屋へと戻った。

 全員野宿や山の中を歩いたせいでボロボロだ。協会へステンドグラスを直してもらいに行くのを明日に回し、まずは一晩休息をとろうということになった。


「終わったー!もうお腹ペコペコだよー!」


 本日一番健闘し消耗したであろうカルヴァが泣き言を漏らす。

 今の今まで忘れていたが、ナインたちはカルヴァと同じ宿屋の部屋をとっていたのだった。予約している部屋も近かったことを思い出し、若干の気まずさを感じていた。

 同じ事件にかかわった者同士ではあるが、本来カルヴァとは敵同士。しかし、カルヴァにはそんなことを微塵も気にした様子はなく、「ダブルベッドで一緒に寝ようよー」とナインを気軽に誘った。


「すみませんが、お断りします」

「じゃあ、夜ご飯だけでも一緒に食べよー?」

「いや…でも…」

「お城の地下牢ではあんなに仲良くしてくれたのになー」

「………ご一緒しましょう」


 ぐいぐい来るカルヴァに押されるがまま、ナインたちは夜も行動を共にすることになった。


「僕、疲れたから宿屋で寝てるね」

「俺様も今は食事をする気分じゃねぇ。…だが何か少しでもそのトマト女が不穏な動きをしやがったら焼き殺してやるから安心しろ」

「怖―い」


 カルヴァがゴークの脅しに屈するわけもなく、ナインとラミィとカルヴァの3人はティロロとゴークの二人と別れ、酒場へと向かったのだった。




 酒場のテーブルに着くや否や、カルヴァが手馴れた様子で料理を注文する。


「この店はねー。ピザが美味しいんだよー」

「そうなんですね」

「今日は奢らないわよ!?」

「わかってるよー。どうせ今回山賊を捕らえた報奨金がカルちゃんにも出るだろうから、その前祝って感じでー。ここはカルちゃんの奢りだい!」


 数刻後、テーブルに運ばれてきたピザは確かにおすすめされるだけあって大変美味だった。

 特に海に近いためか海の幸をふんだんに使ったピザはほっぺたが落ちそうなほどだ。隣で食べていたラミィもナインと同じことを思ったようで、最初は機嫌が悪そうにカルヴァを睨みつけていた彼女も、今は目の前のピザに夢中になっている。


「あの親子、今頃ママにこってり叱られてるんだろうねー」

「ですね。アルバがきちんと事情を説明できているといいのですが…」


 酒場に来たものの、酒を一切頼まないカルヴァに合わせ、ナインもジュースを注文していた。雑談する傍らで柑橘系の香りがするジュースを一口飲む。柑橘系の自然な甘さは疲れた体に染み渡るようだった。


「ね。ダーリンのお父さんってどんな人―?」

「……ええと、厳しい人でしたね。母親も含めてかなり子煩悩ではありましたが、叱るときはきちんと叱ってくれる人でした」

「でしたって、過去形?」

「はい。父も母ももう亡くなっているので」


 ナインは特に気にした様子はなく、また一口ピザを食べる。カルヴァはうっとりとそれを眺めながら、世間話を続けた。


「亡くなったのは子供の頃?」

「いいえ。俺が大きくなってからです」

「ふーん。カルちゃんは親無しだからよくわからないけど、それは大変だったねぇ」

「親無し?」

「捨て子とか、両親の顔も知らないような子供のことー。あ、でもちゃんと育ての親はいるんだよ?ちょっと変人だけどー」


 カルヴァもカルヴァでなかなかに重い生い立ちを、ピザの上のチーズと格闘しながら話し出す。ラミィだけが若干ソワソワしながら二人の様子を伺っていた。


「……カルちゃんの父親は、最低な奴でさー。殴られたり蹴られたりは流石になかったけど、あれするなこれするなっていつも叱ってばっかり。初めてカルちゃんが人を殺したときも、そりゃあもう大激怒。『神はお前のことを絶対にお許しにならない!今すぐ出ていけ!!』ってお家追い出されちゃったー」

「そんなの、どこの親でも怒って当たり前でしょ」

「あびゃ?そう?……まぁ、あんな怒りんぼな親なんてこっちから願い下げだけどねー。カルちゃん真面目なのとか嫌いだしー」

「あんたって誰に対してもそんな感じなのね」


 ラミィは呆れていたが、ナインは少し違う感情を抱いた。

 突然両親の話をナインに振ってきたのも、きっとアルバ達親子を見て、カルヴァの中でいろいろと思い出すものがあったからだろう。

 ナインの目には、カルヴァが親に対して何かしらの憧れや未練を持っているようにみえた。


「その話は、カルヴァが孤児院へ寄付していることと関係がありますか?」

「あー…流石にわかっちゃうよね。…うん。そうだよー。カルちゃんの実家はあの協会の奥にある孤児院ー。追い出されはしたけど、あそこにいた子供たちのことは別に嫌いじゃなかったしねー。孤児院は潰れて欲しくないから寄付だけしてるー」

「そうでしたか」

「カルちゃんが寄付してるなんてバレたら、あの父親はきっとカンカンに怒り狂うだろうなー。『どうせ人を殺してもらった金だろう』ってきっと手も付けないよー。超頑固。規則オタク。まじであんな場所、追い出されて正解だったよー」


 カルヴァは自分の目尻を指でわざと吊り上げて怖い顔を作った。父親の真似をしているらしい。

 せいせいしたと言うわりに、心晴れやかとはいかないようだ。カルヴァはどこか遠くを見つめた。


「でも、時々思うんだー。帰る場所があるってどんな気持ちなのかなーって。それってきっと、カルちゃんが今持っている自由より、もっと自由なんじゃないかなーって」

「そうですね…」


 カルヴァの言葉にナインは頷く。

 かつてあったはずの帰る場所がなくなった同志、親近感が湧いたというのもある。

 しんみりとする二人とは反対に、横で会話を聞いていたラミィだけは理解できないといった風に首を傾げた。


「え?あんた謹慎が解けたら城に帰るんでしょ?それに、ナインには私たちがいる。…あるじゃない。帰るところ」


 ラミィの言葉に、カルヴァがぴゅうと口笛を鳴らす。


「『私のところに帰ってこい』って、すごい口説き文句ー。てゆうか、強気発言―?やっぱりへなちょこもダーリンのこと狙ってんのー?」

「はぁ!?そっ、そんなんじゃないわよ!!だって、ティロロの奴もこいつも、よく『ただいま』とか『おかえり』って言ったりするから…!!深い意味はないわ!」

「あはは。そうでした。俺にはまだ帰るところがありました」


 何が可笑しかったのかいまいち理解しきれていないラミィだったが、ナインの笑った顔を見てどうやら悪いことは言っていないと思ったのだろう。

 ピザを追加で注文し、テーブルまで運ばれてくると、また誰より美味しそうな顔をしてピザを頬張ったのだった。





ここまで読んでくださりありがとうございます。

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