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箱爺の店

 



「着いたみたいだよー」


 船が無事小島へと漂着する。

 協会の港から見た時はただ小さな島だなとしか思わなかったが、船を入れる港は案外しっかりとした造りになっているようだ。

 港近くには市場もあり、海賊に海を荒らされている割には緊迫した雰囲気ではないようだった。倉庫と思われる大きな建物が並んでいる。


「まずは箱爺の店に行こっか。素材はそこで揃えられると思うよー」

「箱爺?」


 カルヴァの案内で市場を歩いていると、倉庫と倉庫の間にある木箱の山の前に到着した。

 日差し避けとして少しばかりテントのようなものが開いてあるが、とても店には見えない。「箱爺―いないのー?」とカルヴァが木箱の山に向かって声をかける。

 すると、木箱の上から声が返ってきた。


「おんや。珍しい顔だど」

「こ、小人…?」


 箱爺と呼ばれた老人の姿は想像していたよりもずっと小さかった。

 一見人間にしか見えないが、ナインの両手に収まってしまいそうなそのサイズ感は明らかに同種族とは思えないほど小さい。


「そ。箱爺は小人―。一応モンスターではあるんだけど、その商才を買われて昔からここで商売してるんだー」


 箱の隙間をよく見ると、箱爺以外にも何人か小人がいるのがわかる。箱爺よりも見た目が若い。おそらく従業員なのか、箱の中身を確認したり整理したりと忙しそうだ。


「あんたカルヴァちゃんだど?久しぶりだど」

「久しぶりー」

「こんなに大きくなって…。姿を見せなくなったから心配していたが、元気そうでなによりだど!」


 再会を喜ぶ箱爺とは裏腹に、カルヴァはどこか冷めているようだった。

 挨拶もそこそこに、ナインの脇腹を突き「本題―」と用事を急かす。


「あ、えっと…。女神のステンドグラスを直すのに必要な素材が欲しいのですが、ありますか?」

「ああ、それならそこの箱に入っとるど。必要な量をここに持っていくといいど。おい、手伝ってやれ」


 商売の話になるとスイッチが入るのか、箱爺は商人の顔で従業員へと指示を出した。

 従業員に手伝ってもらいながら数個箱の中身を覗く。

 すると、全部中が空っぽだった。


「ああっ!しまった!昨日発注したはずだったのに、今朝荷馬車が襲われて入荷できなかったことを忘れていたど!」


 同じく空っぽの木箱を見た箱爺が頭を抱える。

 詳しく話を聞くと、神父が言っていた通り、最近この小島では山賊が出るようになってしまったらしい。山賊はこの小島の裏に位置する村とこの港を繋ぐ道を走る荷馬車を襲撃することが多く、今回箱爺の荷馬車もそれに巻き込まれたということだった。

 箱爺が懇意にしている取引先の鉱夫はこの小島の裏側にいるらしく、馬車でないと荷運びができない。毎日商品を取引する商人にとっては死活問題だった。


「ただでさえ海は海賊でろくに船が出せないのに、陸地でもこんなことが起こるなんて…商人泣かせだど」


 よよよ…と涙に暮れる箱爺には同情するほかない。

 海賊は先ほどナインたちがほぼ全滅まで追い込んだと思うが、陸地の事情も大変そうだ。

 しかし、ナインたちとて目的の物が手に入らないとわかった今、同情してばかりでもいられない。次の手を考える必要があった。


「困りましたね。どうしましょうか…」


 この小島にいる別の商人たちへ在庫がないか確認することも考えたが、箱爺曰くここ以上の品ぞろえの店はこの島にはないということだった。だから神父もよく箱爺のところでステンドグラスの素材を購入していたらしい。

 そうなると、素材を現地まで取りに行くしかないわけだが、そもそもステンドグラスの素材自体なかなか手に入らない貴重なものだ。現地に行ってもすぐに手に入れられるかどうかは怪しかった。


「どうしましょうかって、そんなの簡単じゃーん」


 カルヴァはいつものように間延びした口調で言い放った。


「奪われたなら取り返せばいいだけの話でしょー?こんな小島で今朝盗られたって言うなら、まだ売りに出されてないだろうしー。ちゃちゃっと荷物を取り返しに行こー!」

「でも、荷物を盗んだ山賊たちがどこにいるかわからないですよ?」


 いくら小島と言えど、山の中などに隠れられたら見つけるのは困難だ。ティロロの転移魔法で島中を虱潰しに探すというのはどう考えても無謀だった。


「それならぁ、あっちから来てもらうしかないよね?」


 シスター服を着ながら、カルヴァはやっぱり悪魔のような笑みを浮かべたのだった。




 馬車に繋がれた馬がその場で土を蹴る。その様子をラミィはしゃがみながら眺めていた。

 そんな風に近づくと馬に蹴られてしまう危険があると思ったが、近くにティロロもいるし大丈夫だろう。多分。


「こんな立派な荷馬車を本当に借りてしまっていいのですか?」

「山賊の奴らに一泡吹かせられるなら安いものだど。ただし、もし壊したらその時は弁償してもらうから覚悟しておくど!」


 ナインたちがここに来る道すがら海賊を倒したことを教えると、箱爺はすぐさま快く馬車を貸してくれた。貸すのはタダだが、きっちりと見返りを求めてくるのは商人らしい。


 偽の荷物を積み込んだ荷馬車に乗り込み、囮になることを提案したのはカルヴァだ。

 大人数の旅でいかにも『大切なものを守っています』という雰囲気を醸し出せば、きっと山賊の方から襲ってくる。襲ってきたのを返り討ちにすれば山賊自ら盗られた荷物の在処を吐くだろうという、戦闘に自信がある者でないと思いつきもしない“いかにも”な作戦だった。

 カルヴァといい箱爺といい皆逞しいなとナインが内心苦笑していると、箱爺はきょろきょろと辺りを見渡し始めた。


「どうかしましたか?」

「いや…ここらへんに人間の子供を見なかったか?アルバという男の子で、よく我々の箱に悪戯をしていくやんちゃな子なんだど。今日はまだ一度も見ていないから、また良からぬことを考えていないか心配だど…!」

「俺たちは見かけませんでしたね。他の皆は見かけましたか?」


 ナインに聞かれ、全員首を横に振る。

 箱爺は「ならいいんだど!」と安心したように笑顔を見せた。


「気を付けて行ってくるんだど!」


 箱爺とその従業員たちに見送られ、荷馬車を出発させる。

 その瞬間からナインたちは囮作戦を開始し、小島の裏側へ続く道をわざとゆっくり走ったのだった。




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