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真面目に不真面目な作戦会議

 


 奇術師セプテンバーが現れる前。事態は数時間前に遡る。

 ラミィと砂上の砦内で言い争いをした後、ナインはポンと手を打った。


「はい。というわけで、皆で作戦を考えましょうか!」

「ナイン君切り替え早っ!」

「こうでもしないとちょっと恥ずかしいんですよ。他人に対して大声を出したのなんて久しぶりすぎて。ちょっと説教臭かった気もしますし…」

「おう。かぼちゃがあんなに声張れるとは思わなかったから驚いたぜ」

「ゴークまで…。あんまり茶化さないでください。照れてしまいます」


 全く照れてなさそうな顔で飄々と嘯く。

 ラミィが決心してくれたため、大体の方針は固まった。となるとあとは方法を決めるだけだが、緊急の作戦会議は案外白熱した。


「鏡がもう取り出せないことはわかりました。だったら、いっそ壊してしまうのはどうですか?」

「壊すって…結構簡単に言うよね。しかも最初は形見だって言ってくれてたのに。思い切り良すぎない?」


 ナインのはっちゃけた提案に、いつもははっちゃける側のはずのティロロがドン引きする。しかし、当のラミィは「いいわよ」とあっさり壊すことを承諾した。


「壊さなくて済む方法があるならそれに越したことはないけれど、それが不可能なら壊してしまった方が殺されるだけの命を生み出し続けるよりずっといいわ。きっと私の仲間もそうしてほしいと思っているはずよ」

「ありがとうございます。では、やっぱり壊しましょう」

「ちょっと待って。さっきも言ったけど、鏡はこのダンジョンのいたるところに隠してあって、普通に壊しても時間で勝手に修復されてしまうの。だから、まずはそれを解決する方法を考えないといけなくて…」

「はい。なので、ダンジョンごと全部壊しちゃうのはどうでしょう?」

「「は?」」


 流石に突拍子もなさすぎて、二人は目を丸くした。ゴークだけが想定内だったようで、「あー…」と頭を抱えてしまっている。

 ナインはさらに続けた。


「過去にダンジョンを1回の攻撃で破壊した事例はありますか?」

「そんなのないわよ!しかも一回の攻撃でなんて…このダンジョンだけでもどれくらいの広さがあると思ってるの!?」

「まぁ、村一つ分ぐらいはありそうですよね」

「そうよ!そんな規格外なこと、最強と謳われている転生勇者でもない限り不可能……あ」

「最強ならここにも一人いますよね?」


 ナインは微笑んで、ゴークを紹介するように手を向けた。


「目立たないようにしなきゃいけないなら、逆に目立ってしまえばいいと思うんです。ここはドカッと派手にやりましょう!」

「てめぇ、実は結構怒ってやがるだろ…」

「怒っていませんよ。ただ、このダンジョン自体には心底胸糞悪いなと思っています」

「やっぱり怒ってんじゃねぇか」

「ゴーク、お願いできますか?」

「はいはい」


 もう何を言っても無駄だと思ったのだろう。ゴークは二つ返事で引き受けた。

 それは巨大な砦を自分なら破壊できるという自信の表れではあったが、あまりにあっさりしすぎている。


「随分安請け合いしてるけど、クーちゃん本当にできるの?何なら僕の力でこのダンジョンを丸ごと海の底とかに飛ばしてあげようか?」

「あ?オクラ野郎がでしゃばるな」

「は?そっちこそいつもは空でふんぞり返ってるだけのくせに、出番が来たからって調子乗らないでよ」


 今にもまた喧嘩し出しそうな二人を「まぁまぁ」とナインが宥める。

 申し出はありがたいが、ティロロの提案通りダンジョンを海の底に沈めたところで鏡の効果が停止するかどうかは賭けだ。それなら、魔法も溶かすことができるゴークの方が消滅できる可能性が高い。


「今回は破壊が目的なので、ゴークにお願いしたいと思います」


 それを聞いたティロロは「じゃあ僕とラミィちゃんはのんびり見物してていい感じ?」とあからさまに白けた。唇を尖らせてそっぽを向いている。


(拗ねられてしまいました)


 だが、こうなることはすでに予測済みだ。

 ナインはちょいちょいとティロロに向けて耳を貸すようジェスチャーする。


「え?何?」


 訝しみつつも大人しく耳を傾けてくれたティロロへ「こんな感じで転移魔法を…」「できればこんな衣装も…」とこそこそラミィとゴークに聞こえないよう内緒話を始める。

 するとティロロの濁っていた目が徐々に輝きを取り戻した。

 「なにそれ面白そう!」と自慢の尻尾を振りながら、「それなら、こうした方が格好良くない?」だの「衣装もいいけどラミィちゃんの能力ならこれくら派手にやった方が…」だの自ら改善案を出してくれる。少し前まで拗ねていたのが嘘のようだ。


(これでようやく全員が同じ方向を向けましたね)


 こうして、あれよあれよという間に準備は完了し、作戦が決行されたのだった。






 ラミィは老婆に扮したまま、独り言を呟いた。


「だけどまさか本当に注目浴びたまま、ダンジョン全部消しちゃうなんてね…」


 ナインが提案した作戦。

 まず、奇術師セプテンバーという架空の人間にナインが変装し、衆人の注目を集める。その間、ティロロは転移魔法を使って、ダンジョン内外にいるモンスターと人間たちを安全な場所まで移動。安全が確認できたところで、ナインが上空で待機しているゴークへ合図を送り、超強力な熱の光線で《砂上の砦》諸共鏡を破壊。

 最後の仕上げとして変身魔法で占い師になったラミィが嘘の噂を広め、勇者の関心をダンジョン消失ではない別のところへと集約できれば、この作戦は完遂という流れだった。


 ゴークが開けた大穴は、今後新たな観光地となっていくだろう。


 そのために、ゴークの貴重な素材の石(嘔吐物)とティロロに集めてもらった宝石たちも光線の中にいくつか紛れ込ませておいた。隕石には似ても似つかないだろうが、噂には勝手に尾ひれがつくものだ。

 今後ダンジョンがなくなっても貴重な鉱石を求めた勇者たちがこぞって大穴を訪れれば、砂漠の町で商売をしている商人たちが食いっぱぐれることはないだろう。

 ナインは派手に目立ったが顔を物理的にも隠していたため、現場に居合わせた勇者たちが奇術師セプテンバー=ナインに結び付けることもないはずだ。よって、これまでと変わりなく旅を続けることができる。


「綺麗な青…」


 数時間待ってみたが、跡形もなく破壊されたダンジョンが復活する様子はない。


 邪魔なものが無くなり、まるで空が広くなったようだ。

 鏡は跡形もなく壊され、もうこの場所に何も縛るものはなくなった。


(まるで昔に戻ったみたい…)


 ラミィは空の青を全身で受け止めた。






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