ダンジョンの真実
「待ってください。複写って、モンスターそのものを…ですか?そんなことが可能なんですか?」
「複写できるのはこのコブラみたいに家畜みたいな雑魚モンスターに限定されるだろうけどね。それを可能にするのが、この鏡なのさ。どこのダンジョンにもこの鏡のように、モンスターを無限に生み出す装置がいたるところに隠れて設置されている。そうでないと、ダンジョン内の雑魚モンスターなんて1000万人もいる勇者たちにあっという間に全滅させられちゃうだろうからね」
「つまり、この鏡で複製されたモンスターたちは、生まれては勇者に殺され、また補充されては殺されてを繰り返していると……そういうことですか?」
「そういうことだね」
元は同じ個体とはいえ、ゴークがコブラを殺したときに光の粒子がでたということは、あれはれっきとした命あるモンスターであり、幻影ではないという証拠だ。知能はたしかに低いかもしれないが、ラミィたちと同じくあのコブラたちは生きている。
生きるために生まれるならともかく、最初から勇者に殺されるためだけに生命が生まれてくるなど、とても人道的とは思えなかった。
「そんなのは、命の冒涜じゃないですか…!一体、誰がそんなことを…?」
「ナイン君は知らなかったかもしれないけど、ダンジョンっていうのはそもそもそういうところなのさ。ここはこの鏡のおかげでリスポーン…つまり、新しいモンスターが出現するのが早いけれど、他だって何かしらの工夫が人工的になされている。ダンジョンにモンスターがいないとつまらない。だから、モンスターをいくら殺しても湯水の如く湧くように、そう設計されているんだ。ダンジョンっていうのはつまり、“人間が作った遊び場”だからね」
「そんなこと…。俺が勇者だった時誰も言っていませんでしたし、どの文献にも書いてませんでした…。ダンジョンには凶暴化したモンスターが眠っているから、勇者はそれに立ち向かわなければならないと…ただそれだけ…」
愕然とする無知なナインを心底馬鹿にしたように、ティロロは鼻で笑った。
「それはそうでしょ。『ダンジョンは実は人工物です』なんてバレたら興冷めじゃん?挑戦する勇者が激減したら困るのは向こうだろうし。だから、『ダンジョンは自然発生もしくはモンスター側が作ったもので、世界の平和のためにみんなでそれを攻略しましょう!』って銘打った方が、大義名分ができて勇者側のやる気も出るってもんでしょ?……まぁ、今となってはそんな正義感ばりばりでダンジョン攻略しようなんて勇者もあんまりいないだろうけどね。皆、お金と名誉が欲しいだけだから」
勇者のためだけに作られた遊び場。そのために用意された生贄。
その構図を考えただけで、ナインは吐き気を催した。反吐が出そうだ。
ダンジョンの成り立ちについて説明を終えたティロロは顔を青くしたナインを放ったまま、今度は俯いているラミィに向かって「ところでラミィちゃんさぁ」と話の矛先を向けた。
「この鏡って、鏡のモンスターのドロップアイテムだよね?同じような気配がそこら中にあるみたいだけど、このダンジョンには一体いくつ眠っているのかな?君がいつまでたっても黙りこくっていたからつい僕が説明しちゃったけど、この鏡って君と関係があるんでしょ?いい加減君の口から話してくれない?」
重い沈黙が流れる。
このダンジョンに入ってからずっと黙ったままだったラミィは、観念したようにその重い口を開いた。
「3年前、私たち鏡のモンスターの里は突如勇者たちに襲われた。一夜にして集落は全焼。半数以上の仲間たちが討伐されたわ。こうして『ドロップアイテムをダンジョンの装置として利用する』ただそれだけのためにね。………この場所は、本来私の故郷があった場所。私の故郷を焼き払って作られたダンジョンなのよ」
話の区切り上、今回はちょっと短めです。