【閑話】ババ抜き大会
キャラ同志の関係性、設定についての補足回的な何かです。
読まなくても本編には特に影響がありません。
それはとある日の宿屋でのこと。
「ただいまー!」
ティロロはいつものようにモンスターの集落にいるボスへ報告をし終え、得意の空間転移魔法でナインたちが止まっている宿屋に戻った。
ナインにティロロだけが分かる目印をつけているため、転移する座標を間違えることはない。ナインの方もだんだんそれに慣れて来ている様子があり、神出鬼没な登場にももう驚かなくなっていた。
ティロロの姿を見つけると、「おかえりなさい」と普通に返してくれる。
その横で「あら。今回は早かったのね」とラミィが寛いでいた。
ここは宿屋の一室。
そこには、なにやらカードを広げて遊ぶナイン、ラミィ、ゴークの3人がいた。
ラミィが護衛のためナインに付かず離れずなのはいつものことだ。だが、そこにゴークまで揃っているのは珍しい。その和やかな光景に、しかしティロロは全身を戦慄かせた。
「え、え…?君ら、僕がいない間に何してるの?」
「見てわからない?カードゲームよ」
「違う…そうじゃなくて…。何で僕がいない間に3人で始めちゃうの?普通こういうのって全員が揃った時に始めない?」
「あ?前にテメェと俺様との二人でやったこともあったろ。それと何が違うんだよ?」
「違う全然違う!あの時はカジノだったし、別行動って感じだったし!」
「今だって別行動してたじゃない」
「してたけど…!でも、僕だけ除け者にするのは、なんか違うじゃん!!」
必死に訴えるが、当人のラミィとゴークは理解できないといった風に首を傾げている。
このままでは本気でいじけ出しそうなのを察したナインは、助け舟を出すことにした。
「ティロロが強いから、皆で練習していただけですよ。戻って来て早々悪いんですけど、よかったらティロロも一緒にやりませんか?」
「え?いいの?…やる!」
たったそれだけの声掛けで、半泣きだった顔が一変して笑顔に戻る。ティロロの尻尾が犬のように左右に揺れたのを見て、機嫌が戻ったのを確認するとナインはほっと胸を撫でおろした。
(よっぽど除け者にされたのが嫌だったんだなぁ…)
プライドが高く気分屋だが、存外わかりやすいところもある。
ナインたちは気を取り直して、新しく4人で遊べるようカードを配り直した。
「さっきは何で遊んでたの?」
「ババ抜きと言うゲームですよ。奥さんが教えてくれた遊びなんですけど、ルールが簡単で面白いんです」
ティロロが来る前にした時同様、ババ抜きのルールを説明する。
すぐにルールを理解したティロロは「なにそれ面白そう!」とまた尻尾をばたばたさせた。それを隣に座ったゴークが至極鬱陶しそうにしている。
「では、始めましょうか」
簡単に順番を決め、時計回りにカードを抜き合う。最初はそれほど白熱することはないゲームなため、カードを抜きあいながら自然と雑談が始まった。
「そういえば、ラミィって今いくつなんですか?」
「えっ!?何よ急に…」
ぎょっとするラミィを見かねて、「ちょっとーナイン君。女性に突然年齢を聞くなんてマナー違反なんじゃないの?」とすかさずティロロが茶化し出す。
「だって、ゴークもティロロもすごく長寿じゃないですか。でも、俺の奥さんは寿命が短かったですし。寿命はモンスターによって違うのですよね?だったら、改めて聞いておこうかなと。もし失礼な質問だったり、気分を害されたのなら答えなくて大丈夫です。ちなみに、俺は20歳ですので」
「20歳。…ということは18か19歳でオリジンと結婚!?やるぅー!」
「ティロロ、茶化さないでください。…ああほら、バチが当たった」
ティロロはナインの持っていたババをまんまと引いてしまった。
「え?今もしかして狙ってやった?」「そんなわけないじゃないですか。偶然ですよ偶然」と二人が話をしている中、ラミィは質問に答える形で話題を戻した。
「別に、隠してないし。教えるくらいいいわよ。…じゅうなな。17歳よ。鏡のモンスターは寿命も多分人間とそう変わらないはずよ」
ラミィからカードを抜こうとしたゴークの手が止まる。
「17だと!?まだ赤ん坊じゃねぇか!!」
「誰が赤ん坊よ!!」
ラミィが怒るが、ゴークは聞こえていない様子でわなわなと震えだす。
「17歳って本当に17歳か?そこに0が一個付いたりしないのか?」
「付かないわよ!17年生きたって意味の17歳よ!」
「この世にカボチャ野郎より年下がいるなんて…!」
「そんなのたくさんいますよ」
ゴークは深く深く溜息をついた。3000歳の彼からしたら、よほど17歳という年齢がショックだったらしい。
「ゴークが珍しく本気でショックを受けていますね」
「たったの17と20…。そんなの生まれたての雛鳥もいいところじゃねぇか…!誰かが保護しないとすぐ死んじまう…。お前等二人は、俺様が守ってやるからな」
「ありがとうございます。俺基本何もできない赤ん坊みたいなものなので。頼りにしてますよ」
「クーちゃん僕も守ってよ。600歳(赤ん坊)だよ!」
「お前は知らん。勝手に死ね」
「酷い!」
ほのぼのとした会話の最中にも、ゲームは進行していく。誰もがポーカーフェイスでいる中、ババは手札を巡りティロロからラミィに渡った。ラミィは思わず「あっ」と声を漏らしてしまったが、誰もが聞かなかったフリをしてあげていた。
「まぁ、モンスターの年齢なんてあってないようなものだけどね。生まれた姿がお爺さんみたいな見た目のモンスターがいたり、逆に子供みたいな老人モンスターなんていっぱいいるから。それに、僕ら人間と違って老けないし」
「それ、本当羨ましいですよ。この中で俺だけ老けていくのか…嫌だなぁ」
「あんたがお爺さんになったら、今以上に頑固になるのかしらね。興味があるわ」
「え、俺別に頑固じゃないですよ?」
3匹のモンスターの説得を全て振り切り、ガイドブック片手に半ば強引に旅へ出発した張本人が何か言っている。
3匹はスルーすることにした。
そんな話をしている間に、ナインの手札が0になる。
「あ、あがりです」
「ええ!いつのまに…!」
「こういう運が絡むゲームはそこそこ強いんですよ。俺」
「ナイン君、人生は割と不運続きなのにね」
「何言ってるんですか!不運なんてとんでもない。俺の人生は奥さんと結婚した時点で幸運うなぎ登り。常に100点満点。不幸がいくら来ようともおつりが来るでしょう?」
「はいはい」
こうなってしまったナインを構ったところで良いことなど一つもない。
ティロロは華麗に無視してゴークの手札からカードを引いた。
「っと、僕もあがりー!」
「おい。イカサマしてんじゃねぇだろうな?てめぇの能力ならイカサマし放題だろ」
「いやだなぁ。負け惜しみ?君ら雑魚相手にそんなことするわけないじゃん!」
「あ。イカサマができることは否定しないんですね」
ナインとティロロが勝ちぬけしたため、ラミィとゴークの一騎打ちになる。
ラミィの手持ちは残り二枚。ゴークの手持ちは1枚。この時点でどちらがババを持っているかは一目瞭然。両者無言で睨み合った。
しかし、勝敗はすでに決しているようなものだ。何故なら、ラミィはわかりやすく表情に出るタイプだった。
もはやわざとやっているのではないかと思うほど、ゴークの指がカードの左右に揺れるたび喜怒哀楽がわかりやすく顔に出てしまっている。
一体どうするのだろうと、勝敗を見守った。
「……右で」
「やったー!勝った!」
まぁ、あの年齢の話をした時から、こうなるような気はしていた。
孫を甘やかす武骨なお爺ちゃんのような関係図式だったが、それを知らぬラミィは純粋に勝利を喜んでいる。ハッピーエンドだ。
「…こっち見んな」
「ゴークって本当、子供とか小動物に弱いですよね」
「クーちゃんはさ、《熱の守護神》じゃなくて《熱の保護者》に改名した方がいいんじゃない?」
「……くっ」
共に過ごしていく内にわかってきたことだが、ラミィはティロロに(口喧嘩で)敵わず、ティロロはゴークに(戦力で)敵わず、ゴークはラミィに敵わない。
まるでじゃんけんのような3人だと、ナインはしみじみ思ったのだった。