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花畑の真相

 




「今から3年位前、ゴーレムたちが突然凶暴化して村の人間を襲う事件があった。その噂を聞きつけた勇者様が、わざわざこの村に来てくれてね。その時に、村のゴーレムたちを一掃したんだ。あの子は、それの生き残りさね」


 ゴーレムは遺跡がある限り、土などから自然生成されるそうだ。

 昨日ナインたちが遺跡の前で見たゴーレムたちは生まれてまだ日の浅いゴーレムたちだと女将は言った。


「襲われてから、村の連中のゴーレムを見る目も変わっちまった。前は友好的だった奴でさえ、今じゃゴーレムを恐怖の対象としてしか見なくなった。変わってないのはきっとあの子と私くらいなもんさね。こんなおばさんになっちまったけど、クルミを見るとどうしてもあの子に会いに行きたくなっちまう。あの子は私の親友なのさ」


 話に区切りがついたのか、女将は茶をすすった。それを見たラミィが鼻を鳴らす。


「変な人ね。ゴーレムはモンスターだけど、意志はない。ただ巡回するよう動いているだけなのに。それを親友だなんて」

「もちろん、私が勝手にそう思っているだけさね!でもね、たとえ同じ生き物じゃなくても、使い古した道具や家具に愛着を持つように、私はただあの子のことが大好きなのさ」


 仕方ないと言いつつ愛おしさが溢れるような表情に、ラミィは何も言えなくなり口を閉じる。その代わりに、「それで、ゴーレムの花畑というのは…?」とずっと聞きたかったことを尋ねた。


「そうだったそうだった。話が脱線しちまって悪かったね。頭の欠けたあのゴーレムの身体には苔が生えていただろう?だから、もうそろそろだと思うんだけどねぇ」


 要領を得ない呟きに頭をひねる。すると、女将は再び茶をすすった。


「ゴーレムは死期が近づくと土に還る。その土から育つ花のことを『ゴーレムの花』と言うんだよ。だから、ゴーレムの花畑というのは、人間で言う墓地のことさね」





 女将と別れ、宿の部屋に戻ったナインは露骨に肩を落とした。


「まさかゴーレムの花が、亡くなった時に咲く花だったなんて…。この『ガイドブック』に描いてあったのは花畑だったので、てっきりそういった観光地があるのかと思っていました」

「しかも、ゴーレムが寿命で亡くなった時にしか咲かないなんてね。3年前に勇者たちが長寿のゴーレムたちを一掃していなかったら望みはあったのでしょうけど、運が悪かったわね」


 女将曰く、ゴーレムの花は咲いてから半年ほどは咲き誇るが、毎年咲く花ではないらしい。

 ゴーレムは死期が近づくと、いつもの順路を変えて何故か皆同じ場所に集まって朽ち果てる。3年前によく花が咲いていたと言われたゴーレムの墓地まで案内してもらったが、そこは見事に雑草しか生えていないただの平地になっていた。

 しかも、長寿のゴーレムはあと1体のみで、あとは生まれたばかりの未成熟なゴーレム。とてもじゃないが、花畑と言えるほどの花が見られるとは思えなかった。


「せめて一輪だけでも…と言いたいところですが、あのゴーレムさんの寿命があとどれくらいかなんて誰にもわからないでしょうしね」

「じゃあ、花畑は諦める?」


 ラミィの問いに、ナインははっきり「いいえ」と返した。


「まだ完全に見れないと決まったわけではありません。女将さんとティロロに協力してもらって、花が咲いたタイミングで呼んでもらうとか。最悪、今いる若いゴーレムたちが成熟するのを待つとか」

「それまで人間の寿命がもつとは思えないけど」

「もしくは、女将さんの記憶にある光景をどうにかして再現するような魔法を見つけるとか…」

「そう都合よくいくかしらね」


 ぶつぶつと荒唐無稽な話を呟きだしたナインを窘めるように、ラミィは「ねぇ」と囁いた。


「いくら亡きオリジンの思い出だからって、そんなに見たいもの?オリジンとあんたが一緒に過ごした期間なんて、たかだか1~2年程度の話でしょう?それに、ゴーレムの墓地に咲く花なんて縁起の悪そうなもの、命を賭けるほどの価値があるとは私には思えないわ」


 一見容赦ない一言だったが、言葉の節々からナインの身を案じているのだとわかる。

 それが分かった上で、ナインはガイドブックに描かれたゴーレムの花畑のページを指で優しく撫でた。


「価値があるかどうかはこれから決めます。実際に見てみないと、価値があるかどうかなんて誰にもわかりませんから」


 昔を懐かしむような目には憂いが帯びている。「変な人間」と吐き捨てはしたものの、ラミィはそれ以上何も言わなかった。

 やがて夜になり、ナインはラミィと今後の方針だけ決めて就寝する。1日目とは違い、2日目の夜は静かに更けていった。




 次の日の早朝。

 ナインはけたたましい鐘の音によって無理矢理覚醒させられた。

 窓を開けると、宿の外で村人たちが「女子供は家の中に避難しろ!」「ゴーレムが向かってくるぞ!」などと騒いでいる。


「何があったの!?」

「わかりません。下に降りましょう」


 同じく鐘の音で無理やり起こされたらしいラミィと共に、1階に降りる。玄関で女将が初老の男と話し込んでいるのが聞こえた。


「遺跡の近くで勇者様たちがゴーレム狩りを始めたそうだ。結構派手にやっているそうで、今後ゴーレムが村に入ってくる可能性がある。あんたも今日は家から出ない方がいい」

「何もこんな朝早くから、ご苦労なことさね。その勇者様は前来た5人組と同じかい?」

「さぁ…。同じかはわからないが、俺の娘の話だと10人くらいはいたそうだ。これは大規模な戦闘になるぞ」


 初老の男は伝言係なのか、必要事項だけ話すとまた別の家へ向かった。

 一人になった女将は少しだけ考え込む仕草をすると、玄関から外へ出ようとドアノブに手をかける。


「待ってください女将さん。一人では危険です。昨日のゴーレムの様子を見に行くんですよね?よければ、俺たちも一緒に同行させてください」


 先日の時と同様、女将は頭の欠けたゴーレムのことが心配なようだ。

 ナインとラミィは簡単な支度をすぐに済ませ、再びゴーレムたちのいる森の中に入った。




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