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Let'sコミュニケーション

 



 宿屋から出ると、ゴークは「もういいだろ」と勝手にまた上空へ飛び立ってしまった。

 一見ぶっきらぼうに見える言い方だったが、それはラミィがまだゴークに人見知りと警戒をしているのを気遣っている彼なりの優しさだとわかっていたため、ナインはさほど気にしていなかった。


「では、行ってみましょうか」


 ラミィと二人、女将からもらった地図を参考に村のはずれまで来ると、すぐに1体のゴーレムを発見することができた。

 ゴーレムの歩く速度は遅く、大の大人2人分はありそうな長身は迫力がある。石でできた足が1歩踏みこむ度、どしんどしんと小さな地鳴りがするようだった。


「確かに巡回してるわね」


 ラミィは咄嗟に木の陰に身を顰めて息を殺す。

 しかし、ナインはそのままてくてくと歩いていき、ちゃんとゴーレムの視界に入る位置まで来てから声をかけた。


「こんにちは。いい天気ですね。突然ですみませんが、ゴーレムの花がたくさん咲いている場所について知りませんか?」

「わーーーー!!!」


 焦ったラミィがナインの後ろ首を無理やり引っ張り、草むらに隠れる。


「バカバカバカ!!何やってんのよ!?」

「ゴーレムの花畑というからには、ゴーレムさんたちに聞くのが一番手っ取り早いかと思いまして」

「だからってもっとやり方とかあるでしょ!?」


 先ほどの女将の話では、2年前からゴーレムたちが人間を襲い始めたということだった。

 ゴーレムはそこらの雑魚モンスターと違い、ちゃんと強い。聖剣を持った勇者ならともかく、ただの村人程度なら腕を一振りしただけで瞬殺できる威力があるだろう。

 純粋なパワー勝負であればラミィとて絶対に負ける相手だった。

 それなのに、何故よりにもよって一番弱い人間の男がでしゃばるのか。防具も策もなしに、ゴーレムの目の前に立つだなんて。正気の沙汰とは思えない。


「ゴーレムは私たちと同じモンスターだけど、私たちみたいに意志はないの!喋れないし、ただ遺跡を守っているだけでそれ以上の何者でもないわ。敵と判断されたら容赦なく襲ってくるわよ!?」

「石だけに、意思がないってやつですか?」

「ぶん殴るわよ!?」


 ラミィがナインの胸倉を掴んでいる間に、もう一体のゴーレムがこちらに向かって歩いてくるのが視界に入る。地面を揺らしながら歩く姿は巨神兵のような貫禄があった。


「あ。もう一体来ました。次、ラミィ行ってみましょう!」

「え?」

「俺はさっき無視されてしまいましたけど、モンスターのラミィになら何か反応があるかもしれません!それに、女性のラミィ相手なら警戒を解いて気さくに話してくれるかも!」

「え?え?」


 あれよあれよという間に、ナインに背中を押されたラミィがゴーレムの進行方向に立つ。ゴーレムはゆっくり歩を進めるだけで、特に反応は示していない。ゆっくりゆっくり。こちらに向かってくるだけだ。


「ほら!まずは挨拶ですよ!」

「…え?……ぁ……っ!」


 その場の雰囲気にのまれたラミィが声を出そうとするが、今自分がどの姿にもなっていないことに気付き、言葉に詰まる。

 いくらゴーレムには意思がないとはいえ、ラミィはまだありのままの自分を見られることに慣れていなかった。

 まず、挨拶の方法がわからない。どう言ったら正解なのか。どのような表情をしたら自然なのか。今の自分の恰好はおかしくないか。相手をどうしたら不快な気持ちにさせないか。

 考えれば考えるほどわからなくなる。

 ぐるぐるぐるぐる思考が巡る。その間にもゴーレムはこちらに直進してくる。


「ぁ…あう……」


 気付けば、開閉するだけの口は麻痺したように固まってしまっていた。

 ラミィは耐え切れずに目尻一杯に涙を浮かべる。これが子犬であったなら、きっと尻尾を丸めていたことだろう。


「む、無理ぃ…!」


 ついにはびっくりするほど情けない声が出た。

 そうこうしているうちに、ゴーレムは硬直したラミィの横を歩き去ってしまう。


「ナイスファイトです!」


 その一部始終を見ていたナインはラミィに向かってぐっと親指を立てた。


「ふんっ!!!!」


 ラミィはナインをぶん殴った。


「いきなり何させるのよ!おかげでいらぬ恥をかいたじゃない!」

「すみません。ラミィがあまりに人見知りしているようだったので、僭越ながら背中を押させていただきました」

「だからってああはならないでしょ!?」


 殴られた頬に手を当てながらもナインに悪びれた様子はない。むしろ晴れやかな笑顔を浮かべていた。


「あれには何か意味があったの!?それとも私をからかっているだけ!?」

「そんなわけないじゃないですか。ゴーレムたちがモンスターに反応を示すかどうか見てみたかっただけですよ。もしコミュニケーションがとれるなら、それが一番手っ取り早いじゃないですか」

「嘘じゃないわよね!他意はないのよね!?」

「ないですないです」


 怒ったおかげで緊張がほぐれたのか、表情豊かになったラミィに胸倉を掴まれる。出会った当初はわからなかったが、どうやらラミィは随分と感情の起伏がある性格をしていたらしい。嬉しい発見だ。

 その後もゴーレムを数体見かけたが、それぞれ巡回のルートを歩くのみで、攻撃してくる様子はなかった。話せる個体がいるのではないかとできるだけ粘ってもみたが、それも無駄に終わってしまう。


「どうやら、彼らに直接花畑の場所を教えてもらうのは難しそうですね」


 ナインは「情報が少なすぎる気がします。遺跡に行ってみましょう」と、女将からもらった地図を頼りに遺跡へ移動することにした。






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