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仲間と迎える初めての朝

 



 朝に目覚め、二度寝するかどうかベッドの上で悩んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。朝食ができたため女将がわざわざ呼びに来てくれたらしい。ドア越しに自室か食堂のどちらで食べたいか希望を聞かれ、食堂で食べると伝える。簡単な支度を終えた後、ナインは部屋を出た。

 隣の部屋のラミィの部屋をノックしようか迷った末、ノックをせず一人で1階に下がる。食堂に入ると、そこはすでに美味しそうなできたての香りが充満していた。


「昨日あの量を綺麗に完食してくれたのが嬉しくてねぇ。朝だってのに作りすぎちゃったよ」

「でしたら、ちょうどよかったです。実は、女将さんに折り入ってご相談がありまして。今から食事の時だけ一人増えてもいいでしょうか?もちろんその分の代金は払いますので」

「それは全然構わないけど…今から?」

「はい。今から。すぐ呼んできますので」


 女将の了承を得たため、ナインは外に出る。そして、人目を盗みながら口笛を吹いてゴークを呼び出した。


「なんだよ」

「これから朝食なんです。良かったら一緒に食べませんか?」

「いつか言い出す気はしていたが…俺様が飯を食っても胃の中で焼け溶けるだけだぞ?」

「俺たち人間だって似たようなものですよ。それに、昔はよく奥さんと3人で食卓を囲ったじゃないですか」

「あの時はあの時だろ。…つか、会ってからずっと気になってたことがあるんだけどよ」

「はい?」

「その()()()ってのは、一体誰のことだ?あいつはそんな名前じゃなかっただろ」


 ナインゆっくりと瞬きをした。ほんの少しの間を開けてから、そっと微笑む。


「それって今そんなに重要なことですか?彼女は俺の奥さんなんだから、呼び方なんてそれでいいじゃないですか」

「…………そうかよ」


 ここで話は終わりとばかりに、ナインは宿屋に戻って行ってしまった。ゴークもそれ以上聞くことはせず、その背中に従うように宿屋に入った。




 食堂に戻ると、すでに女将が3人分の食器を用意して待ってくれていたところだった。料理が並べられた大テーブルの席にはすでにラミィが座っている。


「おはようございます」

「…おはよ」

「髪飾り、変えたんですね」

「悪い?」

「いいえ。ラミィが選べたことが嬉しいだけです」

「なにそれ」


 ラミィは昨晩と同じ、ありのままの姿だった。

 癖のある髪は大きな髪飾りで整えられ、昨晩よりもやや大人っぽい印象だ。髪飾りに付いた青い宝石がよく似合っていたが、あえてナインはそれを褒めないことにした。

 今、ラミィに容姿のことについて触れたところで、彼女は全てを否定してしまうだけだろう。昨晩のあの取り乱しようを考えたら、本来の姿の方で会ってくれること自体、奇跡のようなものだ。きっと数年前のナインだったら、今のラミィのような勇気は出せなかっただろう。

 だから、今はただ、その勇気に敬意を称したい。それ以外の言葉は不要だと思った。

 ゴークの存在に気付いたラミィが少し緊張した表情を見せたが、それにもあえて気づかないふりをして、ナインは3人で取る朝食を楽しむことにした。


「今となっちゃどうしようもないけど、増えるのがお兄さんみたいなガタイの良いお方だったとはね。お兄さんこれで足りたかい?」

「問題ない。だが、強いて言うなら酒が足りねぇな」

「ゴーク。まだ朝ですよ。それに、今日こそはゴーレムの花畑を探しに行くんですから。お酒は戻って来てからにしてください」

「ゴーレムの花畑?」


 食べ終えた食器を片付けていた女将がナインの言葉に反応する。


「なんだ。あんたたち見慣れないから流れの旅人かと思っていたけど、ゴーレムが目当てだったのかい」

「はい。俺たちは噂でゴーレムの花畑の存在を聞いて、それを見るために来ました。女将さんはゴーレムの花畑について何か知ってるんですか?」

「…花畑については何も知らないよ。ただ、ゴーレムのことはここの村人なら皆知ってることさね」


 女将は食器を粗方片付け終えると、宿の椅子にどかりと腰かけた。よそ者に詳しく話を聞かせてくれるつもりらしい。


「この村に入る前、村の近くでゴーレムを見かけなかったかい?」

「…そういえば、それっぽいものを見た気がしますね」


 村の近くにはティロロの転移魔法で入ってきたため、実際にはゴーレムと遭遇していなかったが、そのことが知られると不必要に怪しまれる可能性がある。ナインは咄嗟に嘘をついた。

 それが功を奏したのか、女将は特に怪しむことなく話を続けてくれる。


「実は、この村の近くにはゴーレムたちが住む遺跡があってね。そこを守るゴーレムたちは、定期的にこの村と遺跡の周りを巡回しているのさ。ゴーレムたちは遺跡を守るために巡回しているだけなんだけど、畑や人に悪さする下級モンスターたちはそのゴーレムたちを怖がって村の中まで入ってこない。勇者ギルドもないこの村が、一切モンスター被害を受けずにいられるのはそれが理由。だから、ここはゴーレムの恩恵を受けて繁栄したゴーレムの村ってわけさね」


 女将はそこで一度話を区切ると、話始めとは打って変わって陰鬱な顔をした。


「だけど、2年位前にゴーレムたちが突然暴走し出してね。巡回ルートを外れて村に侵入し、村人に危害を加えそうになったことがあったのさ。たまたま近くに旅の勇者一行がいたから被害はなかったけれど…。それ以来、村の連中は皆ゴーレムを怖がるようになっちまった。昔はもっと活気のある村だったんだけどねぇ」

「ゴーレムの花畑というものを知ってそうな人に心当たりはありますか?」

「いいや。ないね。この村に長くいる村長がこの村の一番大きな家に住んでいるけど、今はゴーレムのことで気が立っているから、よそ者のあんたたちが会いに行くのはあまりお勧めしないよ」

「では、ゴーレムの巡回ルートを教えてもらうことはできますか?」

「それならわかるよ。地図を書いてやるから、持っていきな」


 女将が手書きでこの村周辺の地図とゴーレムの巡回経路を書いてくれる。ナインたちはその地図を頼りに、まずはゴーレムに会うべく出発することにした。




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