49話
俺の放った光は彼女を包み込むと闇を消し去っていた。眩い光に誰もが目を閉じて耐えていたがやがて落ち着きを取り戻した。
「ああ……」
ジュリアと呼ばれた魔法使いの女性はその場にヘナヘナと崩れ落ちると虚な目で宙を見ていた。勝負あったようだ。
「勝負ありだ! サーディス殿? これはどういう事かな? あれは禁じられた魔法のはずだ」
アーシェさんに問い詰められた魔法派閥のトップは見るからに冷静さを失っていた。
「わ、私は知らない! 彼女が私の知らない所で秘密裏に入手したんだ!」
先程までのクールな感じは完全に崩れ去り、弁解を始めたが誰もが分かる動揺ぶりだった。
「ほう? 先程血相を変えて止めていたのにか?」
「ぐっ⁉︎ あ、あれは⁉︎」
「話は後でゆっくり聞こう。次の試合があるからな」
「……」
観念したかのように俯いてしまったサーディスさんを見るアーシェさんの目が嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか……
「さて、次はどっちの代表が相手になるのだ?」
アーシェさんの言葉に反応して前に出る人がいた。
「魔法が強いって事は力の方はからっきしだとみた! 次はワシらの代表と戦って貰おう!」
力の派閥のおじいさんは威勢よく前に出てくるとニカっと笑う。確かにアークリーが言っていた3すくみからすると魔法特化には接近戦に強い力の派閥が有利なはずだから勝てると踏んだに違いない。
「準備が良ければ言ってくれ」
俺は剣を抜くとアーシェさんの言葉に大丈夫だと首を横に振った。
「そうか……では両者は前に!」
地面を揺らしながらやってきた男性は余裕ある表情を浮かべていた。その笑みの理由は分かってる。さっきの試合で俺が魔法特化だと思っているからだ。恐らくこれまでに魔法使いと戦っていてその倒し方も熟知している上に元々魔法使いには有利みたいだから苦手意識も無いはず。
「魔法なんて使わせないぜ。こう見えても速さは一番だからな。あっという間に終わらせてやるよ」
男性は両手に嵌めた硬そうな金属で出来たグローブをガンガンと互いに打ち付けながら近づいてくると構えに入る。今にでも飛び出して来そうな屈んだ姿勢をとっていた。
「始め!」
「ハァー‼︎」
試合の開始と共に男性は思った通り突撃してきた。巨大な体にも関わらずそのスピードは今まで見てきた誰よりも速かった。
(アーシェから貰った魔法石を発動させるのだ!)
アークリーの指示を受け、即座に3つの魔法石に魔力を流した。
「ハハハ! なんだ隙だらけだぞ!」
まさに一瞬の出来事だった。あの殴られたら痛そうな拳が俺の脇腹に迫っていたのだ。
間に合うか⁉︎
咄嗟に持っていた剣をあと数センチで俺の脇腹に達する拳に向けた。
ガギィン‼︎
金属がぶつかり合う音が場内に響き渡るとどよめきが起こった。
「バカな⁉︎ 何故間に合う⁉︎」
驚くのも無理はない。誰もが絶対に間に合わないと思っただろうあの距離から俺の剣が脇腹と拳の間に突然出て来たのだから。
「お前は何者だ……あれだけの魔法を使いながらその身体能力……ありえん!」
男性は明らかに警戒心を剥き出しにして俺を見ていた。今の攻防を見ていた周りもざわつき場内は異様な雰囲気へと変わっていた。
「彼女は特別な力を持っている。それは髪の色を見れば分かるはずだ」
アーシェさんが答えると男性は俺をじっと観察するように見ていた。
「銀髪……まさかあの種族は絶滅したはず⁉︎」
「まだ生き残りがいたとは……」
「これは驚いたな……」
各派閥の代表達が驚いた様子で次々と口を開くが俺の頭の中はどういう事なのかさっぱりだった。
「ねえ、アークリー?」
俺は騒がしくなっていた場内で小声でアークリーに話しかけた。
(分かっておる。お主の村について聞きたいのだろうが話せば長くなる。簡単に説明するとお主の種族は何十年か前に滅んでいるとされていた。元々は世界でも見る事が少ない珍しい種族でな、年が経つにつれてその存在を知る者は減ってきてはいたが唯一無二の銀髪という特徴があるせいで気付く者も少なくない)
「なんで……滅んだの?」
俺はどうしても滅んだとされる理由が知りたくなっていた。あの辺境の地で暮らしていた村の人達が頭に浮かんでくると何か分からないけど悲しくなってくる。まるで何かから隠れるように暮らしているように思えてならない。
(そこを話すと時間がかかる……落ち着いたら話そう)
アークリーは何かいつもと違って話したくないような口振りだった。
「分かった……」
俺は自分に我慢と言い聞かせる。今はやる事があると無理やり忘れようとこんがらがったていた頭を振り払った。
「神界の民か……なるほど、それが本当なら俺なんかが敵う相手ではないということか……」
男性が構えを解いたところを見ると戦うのをやめたようだ。
「それだけではない。彼女にはもう一つの秘密がある。サーディス殿、ガイアス殿、エスト殿は部下を引き上げさせてからこちらへ来て頂こう」
アーシェさんは派閥代表達を別の場所に集めると俺に囁いた。
「すまないがこの3人をお父様の元へ……」
俺は頷くと魔法を発動した。
「な、何が起こった?」
精神世界に連れてこられた派閥の代表達は突然の事に動揺していた。
「アーシェ殿! これはどういう……そ、そんな」
サーディスさんは近付いてきた人物に驚きを隠せず、固まってしまった。
「皆、久しいのう。相変わらず飽きずにいがみ合ってガッカリしたわ」
アークリーは何も言葉が出ない派閥の代表達に困った顔を向けてそう言った。
「本当にお前なのか……?」
力の派閥の代表ガイアスさんは目を赤くしてアークリーを見ていた。
「ガイアスよ、お主と交わした酒の席ではいつも熱く語っていたであろう? この国の派閥を一つにしたいと……あれは嘘だったのか?」
「……」
「先生……」
魔法派閥の代表サーディスさんは涙を流してアークリーを先生と呼んでいた。
「サーディス……孤児だったお前を立派な男に育てたつもりだったのだがな。昔は他の派閥と協力してこの国を強くするとわしに約束したではないか」
「申し訳ありません……先生」
「またアンタに会えるとはな」
武具の派閥の代表エストさんは嬉しそうにアークリーへ話しかけた。
「エストよ、昔はお前を色々と助けたな。その代わりとして力と魔法の派閥の和解に協力すると約束したはずだ」
「分かっているさ。だから機会を伺っていたんだよ。この国が危機に瀕した今、誰もが同じ思いのはず。こいつらも心の中では分かっているが顔を合わせればこれだからな」
「うるさいわい! お前らがいなければ魔法の連中と堂々とやりあえたのだ!」
「ふっ、だからアークリーの旦那が俺達に力を与えたんだよじいさん」
「なっ⁉︎ まさか……」
「そうじゃ、力と魔法の衝突を避けるためにわしは別の勢力を作ったのだ」
「流石先生だ。僕達のことなど全てお見通しだったのですね」
「こやつが証明したであろう? 力に優劣などない。互いの力を認めて称え合う。さすればこの国は素晴らしいものとなるのじゃ」
アークリーの言葉にガイアスさんとサーディスさんは黙って何かを考えるように俯いていたのだった。




