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41話

 朝の日差しが窓の隙間からチラチラと光り、それが顔にかかると眩しさに目が覚めた。


「ん〜!」


 ベッドの上で大きく伸びをすると隣のベッドではまだ美沙が安らかな顔で眠っている。


「アークリー、おはよう」


(ふっ、最近よく呼び出してくれるな。嬉しいぞ)


「はは、だってアークリーの故郷だよ?」


 俺は笑いながら窓に向かうと昨日見た美しい街並みがまた見たくて美沙が起きないようにそっと窓を開けた。


「はぁ〜 やっぱりここからの眺めは最高だね。夜景もいいけど朝の景色も綺麗で見入っちゃうよ」


 目の前に広がる街並みはポートラと違って美しく見える。その理由は家々を見れば分かる。形は多少違えど白い外壁とオレンジ色の屋根が同じ色で統一されているからだろう。


(何か緊張するのう……はたして家族がどうなっているのか……)


 景色を見ているとアークリーらしくない弱音に似た言葉が聞こえる。


「元気だといいね……そうだ! アークリーの家族構成とか詳しく訊いてなかったよ! これから会うんだからちゃんと覚えておかなきゃ!」


 結構大事な事だったのにすっかり忘れていた。


(そうじゃな、長くなるが話すとしようか)


 アークリーから聞いた話では奥さんの名前はセーリィと言って、ふたりの間には二人の子供を授かったらしい。姉アーシェと妹リィーズの姉妹だそうだ。ふたりは結婚して子供を授かり、姉の方は男の子で名前はアゼク、妹の方は女の子でマーリラと言ってふたりの歳は俺と同じらしい。


 アークリーはその後嬉しそうに孫の話を始めると止まらなくなっていた。それを聞いていると早く会わせてあげたい気持ちが強くなった。


「何か楽しそうに話してるじゃない」


「あ、おはよう美沙」


「おはよ。 あ〜よく眠れた! で? 何の話をしてたの?」


 興味津々な美沙も話に加わるとアークリーの話を聞かせたのだった。



「準備はいいわ。もう屋敷にいくの?」


 支度を終えると同じく支度を終えた美沙が話しかけてくる。


「そのつもりだけどなんて説明すればいいんだろう……」


 いざ屋敷へ! というところで難題が立ちはだかり、頭を悩ませた。


「よく考えればいきなりアークリーおじいちゃんが私に取り憑いてます! 何て言ったら怒るわよきっと」


 美沙の言う通りだ。うーん、何て言ったら信じてもらえるのだろうか。


「どうしよう……アークリー、何か作戦ある?」


(ふむ……)


 こんな時に一番頼りになるアークリーだが少し考えているようだ。少しの間が開くとアークリーからある提案がされたのだった。


「なるほどね! 確かにアークリーおじいちゃんとその家族しか知らない事を話せば少しは信じてくれるかも!」


 美沙は俺からアークリーの提案を聞いて納得したようだ。


「それでどんな事を話すの?」


(妻にあの魔法の事を話せばお主に興味を示すだろう。後はワシが言う事をそのまま伝えてくれればよい)


「分かった。後はアークリーに任せるよ」


 アークリーが言うなら何の心配もない。


(ワシの正式な名前はベルダー・アークリーズじゃ。ちゃんと覚えておくのだぞ?)


 なんだろう……別人みたいに聞こえるのが不思議だ。


「よし、行こう」


 少し緊張しながらも俺達は宿を後にしたのだった。


「凄い……」


 目の前に立ちはだかる巨大な屋敷は周りの建物より際立っていて、歴史を感じる佇まいをしていた。その敷地が広大なのは長く続く外壁を見れば一目瞭然だ。


「これを見たらアークリーがどれだけ凄い人なのかが分かるよ……」


「これは偉い人が住むところだわ……」


 俺と美沙はふたり並んで大きな屋敷に圧倒されていた。


(屋敷の門番にはアークリーズ様の知り合いでセーリィナ様と面会をしたいと言ってくれ)


 俺はアークリーの言葉に押されて意を決すると門番らしい大柄な男に話しかけた。


「すいません。私はアークリーズ様の知り合いなのですが、セーリィナ様と面会をお願いできないでしょうか?」


 すると男の眉間に皺が寄り、少し睨むように見られた。


「この国に来られたのは久しぶりかな? 残念ながらセーリィナ様はもう亡くなられた」


「……そうですか。遠方から来ましたので知りませんでした」


 俺はまさかの展開にショックで頭が真っ白になってしまった。きっとアークリーはもっとショックを受けているだろう。


(リィーズとの面会を申し込んでくれないか……)


 アークリーの今まで聞いた事のない弱々しい声に驚きながらも俺はなんとか門番に伝える。


「では、リィーズ様と面会できませんか?」


「すまないが今はできないんだ。バーレーン王国は今色々と騒がしくてな」


 騒ぎとは何か聞きたいけどきっと教えてはくれないだろう。


(……ここは一旦退いたほうが良さそうじゃな)


「分かりました。失礼します」


 アークリーの言葉に従うと門番の「すまないな」という言葉を背に受けながらその場を離れた。


「アークリーおじいちゃんの奥さん亡くなっていたのね……」


 近くの広場に着くなり美沙が残念そうに呟いた。


(仕方ない……誰にでも寿命はあるからな……だが残念じゃ)


 アークリーの声は辛そうだった。それは俺も痛いほど分かるから辛い。


「これからどうしよう? どうにかして娘さんと会えないかな?」


「そうね……何処かで待ち伏せするしかないかもね」


 暗い雰囲気が漂い、途方に暮れた。


(ワシに考えがある)


 そんな中アークリーが作戦を俺に伝えるとそれを美沙に聞かせたのだった。



 アークリーに言われた時間になると俺は周りに誰もいない事を確認して空を飛んだ。


「ここでいいの?」


(うむ、もう少しでリィーズがやってくるはずじゃ)


 俺が降り立った場所は屋敷の裏手にある庭園だ。周りには色とりどりの花が咲き、その見事な庭はかなり手入れがされていると感じた。


 コツコツ


 見たことのない綺麗な花に見惚れていると誰かの足音が耳に入った。


「……っ!」


 その足音の主は俺に気付くと動揺しつつも警戒心をむき出しにして叫ぶ事もなくじっと俺を見ていた。俺はこの時ばかりは女で良かったと思った。きっと男だったら悲鳴を上げていたかもしれない。


「驚かせてしまい申し訳ありません。私はセイナと申します」


 しばらく続いた沈黙を俺は破った。


「ここはベルダー家の者しか入れない神聖な場所なのですよ」


 動揺が少し落ち着いたのか、リィーズさんの顔は徐々に怒りへと変わろうとしている。


(………)


 え?


 ヤバいと思い、どうするかアークリーに訊こうとした時だった。アークリーが突然話し始めたのだ。目の前の娘に話しかけているように……伝えてくれと言われた訳じゃない恐らく自然に出たものだ。俺はそれを彼女に伝える事にした。


「リィズ、お前はメリアの花が好きだったな」


「⁉︎……何を」


 リィーズさんは突然の不意打ちにかなり動揺していたが俺は話を続けた。


「セーリィはコチョウが好きでワシがメロウの花が好きだと知ったお前はここをその花でいっぱいにすると約束してくれたのを覚えておる。よくぞここまでにしてくれたものだ……ワシは嬉しいぞ! ひとりでよく頑張ったな……」


「お父様……うぅ……」


 リィーズさんはその場に崩れると嗚咽を漏らし泣き続けた。


「驚くかもしれませんが私の中にあなたのお父様が宿っているんです。そしてそのお父様から話を聞いてあなたのお母様であるセーリィナ様が残した魔法石を求めて来ました」


 多分この状況でなければ全く信じてもらえなかっただろう。でも、彼女は今迷っているように思えた。


「お願いです! 魔法を私にかけて下さい! そうすればあなたのお父様に会えるはずです!」


 俺は考え込む彼女に訴えた。そして彼女が首を縦にするのに時間は掛からなかった。




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