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39話

「忙しいね、帰ってきたと思ったらまた行くのかい?」


「早くフェルナのお父さんを迎えに行きたいんで」


 少し呆れた様子のカリスさんに笑顔で返すと朝早くに美沙と家を出て行った。ちなみにカリスさんには行き先は伏せている。アークリーから聞いたバーレーン王国はここからかなりの距離があるらしく、普通なら数ヶ月はかかると言われた。それを言ったら流石に止められるだろうと考えたからだ。


「いつも思うんだけど朝早く出て行くのはなんで?」


 まだ人もまばらな街の中をふたりで歩いていると不思議な顔をした美沙が話しかけてきた。


「すんなりと家を出る為だよ」


 それはある人物が寝ている間に出ていかないと面倒な事になるからだ。


「ああ、なるほど……あの子ね。確かに面倒になりそうだわ」


 美沙にも心当たりがあるその人物とはカリスさんとエリアさんの息子アルのことだ。会えば俺から離れないほど気に入られて嬉しいが、まだ子供だから強引に引き離そうものなら泣き出して手に負えないのだ。だからアルが寝ている間にコッソリと出ていくのが一番良いと今回もこうして朝早く出発をしているわけで。


「街を出たらすぐに飛んで行こう。場所はアークリーが教えてくれるから安心して」


「やっとお父さんに会えるのね……前の世界のお父さんと違ってね、この世界のお父さんて凄く優しいの!」


「そういえば前の世界のお父さんどころかお母さんも見たことないけどあんまり病院に来なかったの?」


 俺の質問に美沙の顔が曇ったの見て訊かない方が良かったかと後悔した。


「ごめん」


「別にいいわよ……両親は離婚したの。私が原因でね」


「どうして分かるの?」


「一回お母さんに言われた事があったの……ケンカしたときにね、私が健康じゃないからお父さんが浮気をして家を出ていったんだって」


 それを聞いた時俺は心の底から悲しくなった。病気で苦しんでいる娘にそんな酷い事を何で言えるのだろうか……


「酷いよ……美沙だってなりたくてなったんじゃないのに!」


 俺はあまりに理不尽な事に怒りが沸々と込み上げ、叫ばずにはいられなかった。


「だからあんたの家族が羨ましかったわ。毎日病院に来て面倒を見てくれて……」


 今思えばあの時見せていた美沙の寂しげな表情はそれが原因だったに違いない。彼女は孤独に苦しんでいたんだ。俺は当時そんな事を知る術もなかったし、余裕もなかったけど今は違う。


「もう忘れよう。美沙の本当の人生はこの世界で始まったんだよ。俺が美沙を幸せにするからそんな顔はしないで?」


 微かに浮かぶ涙を拭うと美沙は俺に抱きついてきた。


「うん……」


 美沙の体が震えている。


 その時俺は安心させたい思いで強く抱きしめていた。痛いと言われても離すつもりはない。


「絶対に幸せにする」


「ありがとう」


 美沙は俺にキスをするとやっと笑顔を見せてくれた。


「さて、そろそろいいかな」


 街から出るとそのまま空に飛んだ。


「あ! 日の出! 綺麗〜」


 空の開放感で少し元気になった美沙が指をさす方向に柔らかい光が差すとそれを受けながら更に上空へ向かうとアークリーを呼んだ。


「アークリー!」


(待っとったぞ! バーレーン王国はあの山を越えた先にある!)


 視界に入る山を正面に捉えると勢いよく飛び出した。


「ねえ、ひとつ訊きたいんだけどレン君にあげた魔法石を使えば私もあんたみたいに飛べるの?」


「ん? アークリーどうなの?」


 しばらく飛んでいた時、美沙から受けた質問をそのままアークリーに丸投げした。


(これはまだ試してないから分からんが無理だと思うぞ。お主の魔力が底知れないから長時間飛べているのだ。そんな力を持つ者はこの世界にはおらんよ)


 今度はアークリーの言葉をそのまま美沙に返す。


「そっか〜 私魔法を使えるのかも分からないからきっと無理ね」


 残念がる美沙を見て以前から気になっていた事をアークリーに訊いてみる事にした。


「そもそも魔力って個人差があるってこと? 鍛えれば強くなれるの?」


(この世界には様々な人種がいてな、人種によって魔力の容量が違うのだ。当然お主は魔力が高い部類の人種だ)


 確かに思い起こせば村で魔法を使っている風景は当たり前のようにあったけどポートラの街で魔法を見る事は殆どなかった。


「美沙の周りで魔法を使える人っているの?」


 俺の質問に美沙がうーんと考え込んだ後、首を小さく横に振った。


「私、魔法って存在があるのは知っていたけど見たのは学校で魔法科の生徒が使ってるのを見たのが初めてだったの」


「じゃあ周りにはいないんだね」


「うん、だから私の人種は魔法に適していないってことね。残念!」


(だが……ひとつ魔力を上げる方法はあるぞ)


「そうなんだ。もしかして物凄い過酷な修行が必要だったりして」


 俺の中では魔力は体力のようなものだと思っているから走り込みや筋トレをするようなイメージを持った。


(いや、魔力の容量を上げる薬があるのじゃ。その材料が希少である故に話題にもなっとらんがな)


「へぇ〜 その材料って何?」


 実に興味深い話だ。


(材料は2つじゃ。ひとつはお主も知っているカラムの実じゃ)


 それはドーラ族の好物でかなり希少なのはよく知っている。


「もうひとつは?」


(それがカラムの実よりも更に希少で、出所が未だ不明な薬草フリーフルじゃ)


「出所が不明ってどうゆうこと?」


(ワシも色々と調べたんじゃが結論から言うと栽培できるものではないと言うことじゃ。過去の書物から初めて見つかったのが約1000年前とされておる。3回……それからこの世界で確認された数じゃ)


 あまりの少なさに笑えるくらい絶望的な数だった。


「もうカラムの実が希少に思えなくなるね」


(それもフリーフル草を求めて旅を続ける者が何人かいる状況でこの数字じゃからな。過去に見つけた者の話だとフリーフェル草は大地に根をつけている訳ではなく、草部分が落ちているような状況だという。だから神が住むと言われる空の上から落ちてきたのではないかという説もあるな)


「じゃあ俺が生きている間に一度目にするかどうかの世界なんだね」


 俺は今の会話を美沙に聞かせた。


「へぇ〜 面白い話ね。この世界ってアニメとかでよくある異世界みたいで楽しいわ」


「俺もそう思う。まるでゲームの世界に入り込んでいるような世界だね」


 多分簡単に言うと前の世界の中世ヨーロッパを再現したような外観に魔法や魔物を登場させた世界と言えばいいだろうか。


「たまに思うの。この世界は現実じゃないんじゃないかって……ある日目が覚めたら病室の天井が出てくるんじゃないかって……」


 この世界が現実世界じゃない……俺は何故かその言葉を否定する事ができなかった。



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