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魔女と骸の剣士  作者: 佐藤遼空
第二章 星光拳士
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アストリックスの旅立ち

「――それで、これからお二人はどうされるつもりなんですか?」

 村の出口にさしかかって、アストリックスはレギアとヒーリィに尋ねた。レギアは怪訝な表情で答えた。

「ここには立ち寄っただけだからな、本来の目的地の大洞穴に向かう。――それじゃあな」

 レギアはそれだけ言うと、くるりときびすを返しアストリックスに背を向けた。ヒーリィが少しアストリックスを見つめた後、それに続く。アストリックスは去っていく二人の背中を見つめながら、レギアが意識を失っている間にヒーリィに聞いた二人の話を思い出していた。


「――それでは、ヒーリィさんは既にお亡くなりになっていて、胸にある宝珠で今の状態を維持してるんですの?」

「そういうことだ」

 ヒーリィは頷いた。村はディーガル事件の後始末でてんやわんやになっており、その騒ぎのなか、アストリックスはヒーリィに二人のことを尋ねたのだった。

「そして、その宝珠を狙ってる帝国の機関に追われている。それがあの蜘蛛使いの姉弟だったと」

 ヒーリィが頷く。アストリックスはさらにヒーリィに尋ねてみた。

「それで……レギアさんは、何をなさろうとしてるんですか?」

「魔女殿は、呪宝を破壊する術を求めて旅をしている。行く先に目処(めど)があるのかどうかは私も知らない。私はただ、あの方に剣を捧げ、お守りしようと思っているだけだ」

「それは……」

 相当の危険を身に引き受けること。帝国の巨大さは、アストリックスも知っていた。その重さにアストリックスは小さく息を吐いた。


 ヒーリィはアストリックスの考えを察したように、小さく頷いた。

「危険は計りしれず、成就が可能かどうかは判らない。強大な力によって、闇に葬られるかもしれない。仮にそれを成したところで、誰からも賞賛されない。恐らく誰からも知られることはないだろう。何の恩賞も利益も得られない。しかもそれを成したところで、それはこの世に数多くある兵器の一つを破壊したにすぎない。それでは戦はなくならないし、争いを防ぐこともできない。

 ……それでも、あの方は困難な道を選んだ。だからこそだ。だからこそ、私はあの方に剣を捧げた。私の命ある限り――いや、命は既にないので、この存在がある限り、あの方を守ろうと決めたのだ」

 ヒーリィは表情を変えぬまま、淡々とそう話した。だが、言葉の最後でアストリックスは不意に、ヒーリィが笑顔を見せたような気がした。

(あの二人は、成せるかどうか判らないもののために、これからも旅を続ける)

 アストリックスは二人の背中を見てそう思った。


「――アストリックスさん」

 急に背中からかけられた声に、アストリックスは振り返った。そこにはカムランとシリルの姉弟が立っていた。

「とてもお世話になりました」

 シリルの言葉に続けて、二人はお辞儀をした。顔を上げると、シリルが言った。

「わたしたち、村を出ていくことにしました」

「そうですか……。何処かあてでもあるのですか?」

 アストリックスの言葉にシリルは黙ったが、かわりにカムランが口を開いた。

「アストリックスさん、ぼく、強くなりたいんだ。ぼくは――トリム・ヴェガーさんの弟子になりたい」

 カムランはそう言って、アストリックスを見つめた。その真摯な瞳に、アストリックスは微笑んだ。


「そう。もしそうなったら、わたくしは兄弟子ということになりますわ」

「……姉弟子じゃないの?」

 カムランに言われて、アストリックスはふと考えこんだ。シリルが小さく笑い、アストリックスも笑った。

「それならカムランさん、お爺様に手紙を持っていってもらえませんか?」

「アストリックスさんは、谷に帰らないの?」

「わたくしは……旅に出ようと思います」

 アストリックスは胸の中の決意に、自ら笑みがこぼれた。


   *


「――レギアさん!」

 既にかなりの距離を進んでいたレギアとヒーリィに追いつき、アストリックスは喜びに声を弾ませた。

「あんたか……。何の用だい」

「わたくしも、レギアさんと一緒に旅をしようと思います」

 アストリックスは静かな笑みを浮かべてそう言ったが、対するレギアは眉をひそめてみせた。

「よしてくれ。連れは骸だけで十分だ」

「いいえ。この先また前のように、霊力使いの相手が出ないとも限りません。魔法だけのお二人では、危険が伴います」

「あたしたちは大丈夫だ。なんとかする」

 レギアは憮然とした表情で言い切り、くるりと背を向けた。その背中に、アストリックスは微笑んだ。


「わたくしの道義は、その程度じゃありませんから」

 レギアが足を止めた。

「そう言ってくれたのはレギアさんですから。ですから、わたくしは例えレギアさんが大丈夫と言っても、お供いたします」

 アストリックスは笑ったままだった。それは迷いがすっかり晴れたことからこぼれる笑みだった。

「……勝手にしな」

 レギアがちらと振り返り、それだけ言うと歩き始めた。

 アストリックスは傍らのヒーリィに尋ねた。

「あの……お邪魔でしたか?」

「いいえ。私はあの方についていくのみ。そして魔女殿は……ただ貴女を巻き込みたくなかったから、ああ言ったまでです。本当はとても心強く思ってます」

「判ったような解説をするな!」


 レギアが振り向いて、二人に怒鳴った。しかしすぐに向き直ると、レギアは足早に歩きだした。アストリックスはヒーリィにまた訊いた。

「怒らせてしまったでしょうか?」

 ヒーリィはアストリックスに軽く首を振って見せた。

「いいえ。あれは新しい仲間ができて喜んでいるんですよ」

「そうですか」

「――勝手に解説すんな!」

 微笑むアストリックスに、レギアが振り返って怒鳴った。



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