噂話
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
噂と言うのは、存外つまらない物だ。誰と誰が付き合ってるだとか、クラス一可愛いあの子は色んなお父さんからお小遣いを貰っているだとか。
……まあ、それはそれはつまらない物が多い。それでも興味津々で聞くのが僕なのだが。
そんなつまらない噂話に埋もれていた、何だか妙な話。高校生にしては、現実味の無い噂話。
それは、小学生か中学生の時代に流行るであろうこわーい話。何時も通り、それはそれはつまらない物だった。
曰く、午前二時十二分。貴船神社の拝殿に忍び込むと、綺麗な女性が時偶現れるらしい。だが、その人と目が合うと、最後には妬み嫉みから殺されてしまうと。
やはりつまらない。まずどうやって拝殿に忍び込めと? それに本当に殺されるならこんな噂は広がらない。やはり眉唾物の都市伝説に近いのだろう。
……だが、少しだけ気になる。何故拝殿、つまり神社の中なのだろうか。それなら神社の中だけで充分だ。わざわざ本殿の中と条件を付けるだろうか?
本当に、その神社の祭神なのでは? そんなあり得ない仮定が僕の中に巡った。
こうなったら気になってしまう。好奇心と恐怖の絶妙なバランスで、僕の好奇心が勝ってしまった。
とは言っても流石に不法侵入する訳にはいかない。そこの宮司さんに何とか頼み込んで許可を貰った。何だか宮司さんが言いたげな顔だったが、まあどうでも良い。
午前二時。普通の高校生ならもう帰らないと怒られてしまう。それでも、噂の真意を確かめる為に僕は此処にいる。
噂の午前二時十二分。今の季節に似合わない暑苦しい空気が両肩に伸し掛かる。
少しばかりの緊張が質素な拝殿を駆け巡る。そして、スマホの時刻は十三分へと変わった。
何だ、やはり噂と言うのはこんな物か。落胆とは少し違う、言い表せないもやもやとした感情を抱きながら、拝殿を後にしようと立ち上がった。
すると、僕の背中の熱が一気に強くなった。まるで火事でも起きているのかと勘違いする程に、その熱は更に燃え上がった。
僕の背中に何かいる。それは直感で理解出来る。だが恐怖と唖然の所為で動けない。
やがて熱が収まったかと思うと、僕は額に浮かんでいた大量の汗を袖で拭った。腕を見れば鳥肌も立っている。
すると、今度は首元にひんやりと冷たい感触が触れて来た。それは僕の首を包み込み、そして離さなかった。握る力は強く無い。だから息苦しくも無い。
「……ああ、成程」
男性とも女性とも言い難い声が、耳元で囁いた。
「汝、何か困っていることは無いか? 聞いてやろう。そしてそれを取り除いてやろう」
打って変わって、その声は女性の物に変わった。
「代金は……そうだなぁ……父親か母親に頼むか、それとも片腕でも売るか? すぐに治る肝臓でも良いぞ? そう言う手術も、それを秘密裏にやってくれる医者も知っている。安心しろ」
その人の、いや人では無いかも知れないが、その声はとても落ち着く。まるで清流のせせらぎを聞いているかの様な綺麗で落ち着く声に混じる、まるで水死体が浮かんでいる濁って穢れた水さえも感じる。
相反する二つの感情は、僕の心を困惑させるのに時間は掛けなかった。
「……御守だけでも欲しいか? まあ、見た所高校生……一万円位は、持ってるはずだろう?」
首を握る冷たい感触が一つ離れると、とんとんと軽い力で叩き始めた。
「……それとも、他の価値が、汝にはあるのか? なら今すぐ提示して貰おう。ほら、早くしろ。俺は気が短い。蓮台野にて荼毘に付されたくは無いだろう? あの赤子の様に。……ああ、一般人か。あの壮絶な戦いも、知らないか」
僕は一目散に逃げ出した。拝殿から飛び出ると、涼しい空気が流れ込んだ。良い気持ち、だが今は感じる暇は無い。逃げないと殺される。そんな得も言われぬ予感があった。
追い掛けて来る気配は無い。あの神社から出られないのだろうか。
鳥居を通る前にふと後ろを振り返ると、そこには綺麗な女性が立っていた。華奢に、しかし僕より高い背丈で、まるで女優の様に瀟洒に立っていた。
逃げている所為で良く聞こえなかったが、その女性は、多分こう言った。
「どうなっても知らないぞ」
ああ、もうどうでも良い。そんなこと知るかボケ。此方は必死なんだ!!
大急ぎで下に停めておいた自転車に乗り込んで、思い切りペダルを踏んだ。何度も空回りをしているが、それさえもどうでも良い。
逃げないと、死ぬ。
何時もより長い帰路の様な気がした。気付けば汗だくで、僕は家の前に居た。初めから内緒で家を飛び出している。静かに、バレない様に戻らないと。
……まだあの時の緊張が心臓を動かしている。あの時の恐怖が心臓を動かしている。
ああ、手が震える。鍵が上手く刺さらない。
ようやく差し込み、回せばがちゃりと小さくなった。ああ、ようやく帰れた。
扉を開けると、何時も通りの姿だ。ほぼ暗闇だが、見慣れた場所と言うだけで心の安静が保たれる。
だが、異質な物が一つだけ、ぽつりと置かれている。こけしだ。
小さな小さな、それこそ僕の中指程度の大きさしか無いこけし。目を凝らさないとまず気付くことも無かった程に、小さなこけし。
それは兎に角質素だった。何の変哲も無い。誰かが置いたのだろうか。悪趣味だなぁ。
すぐに自室に閉じ籠もり、僅かに速い鼓動から目を逸らして眠りに入ろうとした。明日にも学校はある。
すると、自室の窓からこんこんと音が鳴った。まさか。此処は二階だ。鳥とかが打つかったんだろう。
だが、もう一度、確かな意思を持って、ノックの様に、こんこんこんと鳴った。
「おーい、葛城新太君。居るんだろう? 開けてくれよ。チャイムを鳴らすのは家族にも迷惑だろ?」
何で僕の名前を知ってるんだよ……!!
聞こえて来たのはあの女性の声だった。
「開けてくれよ。なあ? あー分かった。代金は二割減らしてあげるからさ」
開けるか! ああもう気の所為だ! 全部全部気の所為だ。
「さっさと開けろ。これは新太の為でもある。……早く開けろ。おい、おい。開けろ!」
煩い! 煩い煩い! 何で居るんだよ……!!
「……どうなっても知らないぞ、大馬鹿者」
そう言って窓を叩く音は消えてしまった。
……あぁ……ようやく居なくなった……。……着いて来たのか……?
……ああもう忘れよう。大丈夫だ。あれは所詮夢なんだ。だから、大丈夫だ。
……結局、眠れなかった。もう朝になってしまった。ああ、本当に最悪だ。疲れも眠気も募ったままだ。やっぱり行かなければ良かった。
ふと、思い出すあの女性の言葉。……どうなっても知らない? ああそうかい。此方は何が何でも何時も通りの生活をしてやる。
兎に角、もう絶対に、あの神社には一歩も踏み入れない。
リビングに向かってみれば、朝食が焼ける匂いと音が届いた。ただ少しだけ変だ。料理を作るのはお父さん。お父さんは鼻歌混じりで、それはもう楽しそうに料理を作る。今日はその鼻歌が聞こえない。
キッチンを覗いてみれば、やはりお父さんが居る。ただその場に座り込んで、俯いている。
肩を叩いても反応は無い。それに芥子の臭いがする。
ふと、横を見た。キッチンの上、そこの更にまな板の上。こけしが僕を見下している。……ギャグかコメディ、さあ何方だ。
そのこけしも、昨晩見たあのこけしと同じだ。中指程度の長さしか無い小さく質素なこけし。但し違いがあるとすれば、目線が下を向いている。だから僕は見下されていると思ったのか。
おうおうこけし風情が喧嘩売りやがって。……それよりも、お父さんを――。
直後、お父さんは床に弱々しく倒れた。その顔には黒い痣の様な物が広がっており、苦悶の表情を浮かべていた。
黒い痣はお父さんの体中に広がっており、指先なんて特に酷い。しかも爪も剥がれている。
何があった……!? 病気……!? 新手のウイルス……なんてバイオハザードみたいなことは無いか。じゃあ何だってんだよ……!!
け、警察……いや救急車か……!? ああでも……まずお母さんに……!!
お母さんは今頃自室で仕事の準備をしている頃だろうか。邪魔をするのも悪いが、お父さんが……!
廊下を転びそうになりながらも駆け、お母さんの自室へ押し入った。一気に入って来た臭いは、芥子の臭いだった。
扉で何かを押し飛ばした様な、軽い音が聞こえた。押し飛んだ物を良く見ると、またこけしだ。またこけしがある。転がっているこけしは、ずっと僕と目を合わせている。
それよりもお母さんだ。
お母さんも、その場で倒れていた。同じだ。お父さんと同じだ。いや、お父さんよりも酷い。お母さんの左腕が黒い痣で皮膚が隠れてしまい、今にも崩れてしまいそうな程に脆かった。
ふと、こけしに視線を向けた。彼奴は僕を嘲笑っていた。
嘲笑いやがって……! 誰の所為だ! ああ、あの女の所為か!!
……兎に角、救急車を……!
出たのは女性だった。
『火災ですか、救急ですか』
すぐに救急と答え、お父さんとお母さんの容体を説明しようとしたその時、僕は口が止まってしまった。この通話の向こう側にいる人が、分かってしまったからだ。
神社の、あの女性だ。あの女性の声だ。
忘れるものか、忘れてやるか。
『……ほら、言っただろ? どうなっても知らないぞって』
扉で押し飛ばしたこけしが一人出に立った。
『さあ、どうする。両親はもう無理だが、汝だけ生き残れる。代償は何にする? 遺産か? 腕か? 肝臓か? それとも、忠誠か?』
背後に何かが蠢く気配を感じた。振り向くと、ずらりと規則的に並ぶこけしがあった。それは全て鬼の様な二本の角みたいな造形が頭にあり、僕を見詰めていた。
先頭に立っているこけしの頭がぐらりと傾くと、そのまま床に落ちてしまった。そこから赤い粘液が溢れ落ち、僕の足下に少しずつ腕を伸ばしていた。
『早くしてくれ。俺は気が短いんだ』
女性の声は、男性の物に変わった。
「……お願いします、全部、ある物なら全部、あげますから」
通話からは、少しだけ冷たい笑い声が聞こえた。何だか上品な声だった。
同時に、燃える様な匂いが僕の鼻を通った。背中から燃えている熱を感じる。
振り返れば、こけしは全部燃えていた。その背後に佇んでいるのは、あの時の女性だった。まるで悪魔の様な笑みで、燃えているこけしを見下していた。
「やあ、少年。また会ったな。さて、代償の話をしようか」
女性は腕をゆっくりと腕を横に振ると、こけしは一気に灰になり、火が消えた。
「俺のことは誰にも言わないこと。どうやら有名になり過ぎたらしい。だから、誰にも言わないこと。出来ればこの噂は嘘だってことも広めて欲しい。噂好きの新太なら、出来るだろ?」
「勿論……勿論!」
何度も頷いた。これが恐怖による物なのか、将又恐怖による物なのか。僕は分からない。
女性は一層恐ろしい笑みを浮かべた後に、体中が発火したかと思えば、白い灰を残して消えてしまった。
……もしかして、優しい人、だったのだろうか。まず人だったのかも分からないが。
あれがもし、神様なら、あの神社にお参りに行った方が良いだろうか。霊験あらたかな神社みたいだ。
僕はそう思いながら、もう一度119に連絡した。
芥子の臭いが、僅かに香った。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
ヒント
子消し
小芥子
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