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公衆電話

第8話の続きです。

もう片手では数えられないくらいに、3人でルームで会話してきたと思う。

たった数時間の間だが、とても楽しい時間だった。

だからこそ終わってほしくないと思えたし、いざ終わると話したりないという感覚になる。

プレには申し訳ないが、やっぱりラリュともっと話したいなと思うのは必然と言っても過言ではない。

僕も人間だから興味を持っている人に対して、もっと親密になりたいという情が湧く。


せめて、二人きりで会話できればどれだけ楽しいのだろうと頭の中で妄想するものの、そんな都合のいい話があるわけがないだろと自分で自分をなだめる。


悔しいが自分から誘う勇気はこれぽっちもない。

もし断られたらと思うと竦む。

嫌われたくはないし、今の関係性を壊すことはしたくない。


ある日の夜のこと

珍しくラリュから一通のDMが届いていた。


「おしゃべりしよ」

午後21:37


とのことだ。わざわざそんなことを送るなんて意外だなと思いつつも、ふと邪見な考えが頭をよぎる。


まさかとは思わないが、「二人きり」って意味ではないよな?

自分宛てにメッセージを送ってきてるけど、きっとプレにも同様の文言を送っていて、反応が早い方と先にルームをするという意味合いなのだと心に言い聞かせる。

よこしまな考えを濁すことで、期待している自分へのダメージを少しでも減らしたかった。


ブラフな役割も持ちつつ、僕は聞いた。


              ルームする?

              午後21:40


次に来る返信が何なのか気が気ではない。


違うよ

午後21:41


通知に飛びつくと、何やら否定している。


違う?

ってことはやはり、(だけ)と話したいってことなのか?


いや考えろ、まだそうと決まったわけじゃ・・

ぐるぐると肯定と否定が介在する混沌から導き出した回答は


            いいよ

            午後21:50


この答え方なら、どちらにも身を振れて恥ずかしい思いはしなくて済むと熟考して返事を返した。


やった

午後21:51


なんだよ、これじゃどっちの意味か分からないじゃないか。

僕の返信に見習ってなのか、ただ単に承諾されたのが嬉しかったのか、淡白な返信に再度頭を悩ませた。


こんなことをしていては埒が開かないと、痺れを切らした僕はついに「おしゃべり」の意味を聞いた。


    それはつまり二人きりでってことですか?

    午後21:52


ついかしこまって聞いてしまった。


そうだよ

午後21:52


どうやらそうらしい。ラリュからしたら飄々と言えることなのかもしれないが、僕の脳内はパンク寸前。

理解するや否や鼓動が大きくなり、ナマコみたいに臓物をすべて吐き出しそうになる。

パンク寸前なはずの脳内は印刷所で休みなく号外を刷り続ける。驚くほど鮮明な左脳ディスプレイは、臨時ニュースを伝え、家庭ではサンクスギビングを執り行っている。


このまま後夜祭も開催したい勢いだが、サイドブレーキを引くように思い止まり。

陽は深呼吸をする。

すると空気が澄み渡ったかのように隅積みにでは数えられないくらいに、3人でルームで会話してきたと思う。

たった数時間の間だが、とても楽しい時間だった。

だからこそ終わってほしくないと思えたし、いざ終わると話したりないという感覚になる。

プレには申し訳ないが、やっぱりラリュともっと話したいなと思うのは必然と言っても過言ではない。

僕も人間だから興味を持っている人に対して、もっと親密になりたいという情が湧く。


せめて、二人きりで会話できればどれだけ楽しいのだろうと頭の中で妄想するものの、そんな都合のいい話があるわけがないだろと自分で自分をなだめる。


悔しいが自分から誘う勇気はこれぽっちもない。

もし断られたらと思うと竦む。

嫌われたくはないし、今の関係性を壊すことはしたくない。


ある日の夜のこと

珍しくラリュから一通のDMが届いていた。


「おしゃべりしよ」

午後21:37


とのことだ。わざわざそんなことを送るなんて意外だなと思いつつも、ふと邪見な考えが頭をよぎる。


まさかとは思わないが、「二人きり」って意味ではないよな?

自分宛てにメッセージを送ってきてるけど、きっとプレにも同様の文言を送っていて、反応が早い方と先にルームをするという意味合いなのだと心に言い聞かせる。

よこしまな考えを濁すことで、期待している自分へのダメージを少しでも減らしたかった。


ブラフな役割も持ちつつ、僕は聞いた。


              ルームする?

              午後21:40


次に来る返信が何なのか気が気ではない。


違うよ

午後21:41


通知に飛びつくと、何やら否定している。


違う?

ってことはやはり、(だけ)と話したいってことなのか?


いや考えろ、まだそうと決まったわけじゃ・・

ぐるぐると肯定と否定が介在する混沌から導き出した答えは、


            いいよ

            午後21:50


この答え方なら、どちらにも身を振れて恥ずかしい思いはしなくて済むと熟考して返事を返した。


やった

午後21:51


なんだよ、これじゃどっちの意味か分からないじゃないか。

僕の返信に見習ってなのか、ただ単に承諾されたのが嬉しかったのか、淡白な返信に再度頭を悩ませた。


こんなことをしていては埒が開かないと、痺れを切らした僕はついに「おしゃべり」の意味を聞いた。


            それはつまり二人きりでってことですか?

            午後21:52


ついかしこまって聞いてしまった。


そうだよ

午後21:52


どうやらそうらしい。ラリュからしたら飄々と言えることなのかもしれないが、僕の脳内はパンク寸前。

理解するや否や鼓動が大きくなり、ナマコみたいに臓物をすべて吐き出しそうになる。

パンク寸前なはずの脳内は印刷所で休みなく号外を刷り続ける。驚くほど鮮明な左脳ディスプレイは、臨時ニュースを伝え、家庭ではサンクスギビングを執り行っている。


このまま後夜祭も開催したい勢いだが、サイドブレーキを引くように思い止まり。

陽は深呼吸をする。

空気が隅々まで行き届き、低燃費だかただの少女だかのスイス平野にいる気分になった。


純粋無垢な少女のように疑問がパッと出てきた。


            どうやってやるの?

            午後21:55


疑問は手段のことだ。このSNSでは通話機能を有していない。


Sambaインストールして

午後21:55


僕にはそれが具体的ななにかかわからなかったが、インストールという文言からアプリだと推測できたのでアプリストアを開いて検索欄に打ち込んでいく。

その最中これは新手の詐欺なのではと警笛が鳴り響いたが、今までの交流からそのような人物ではないと信じた。(あるいは信じたかった)


心配も束の間、疑念は真夏の天気のように快晴へと向かっていった。

Sambaはただのトークアプリだった。

僕らのような()()()()をする者にはもってこいのようだ。


インストールして、ラリュに伝えられたIDを打ち込むとフレンド申請ができた。

獲物を捉えようと川に入水するカワセミくらい速く

申請は承認された。


一呼吸もしないうちに、メッセージが送られてきて

(電話を)かけて良いか聞いてきた。

もちろんと返信して、かかってくるのを待つ間必要もないのに身だしなみを整えた。


スマホがブルブルと振動し、電話がかかって来たぞと合図する。

少し脇汗が滲む。

僕は「緑色に光る受話器」のボタンを押した。


聴き慣れた声が聞こえてくる。

何十回も()()()()()したはずなのに、結婚相談所で紹介されたはじめましてと会うみたいに会話はぎこちなかった。


「は、はじめまして、じゃないか。。久しぶり、でもないか。こんば」


「やっほ、ユー。」


たどたどし過ぎたのを見兼ねたのか

ラリュは、僕の挨拶を遮って声をかけてきた。

ラリュの挨拶の仕方に安堵を覚えると同時に、挨拶の仕方は不変なのだと思った。


話している最中僕は、滲んでいただけのはずの脇汗が腕へと滴り流れるのを肌で感じた。

これがなにを暗示しているかを知る由は無かった。


いつものように他愛もない話を僕たちはかけがえのない時間へと昇華させていく。(少なくとも僕は)

いつの間にか、通話は終わっていた。

10円の公衆電話くらい通話時間は短く感じられた。

終わり際にラリュは


「またね」


口頭契約するように言った。

僕もまたねと復唱した。

まだいっぱい話したいと思うがおそらく、今もう一度10円を入れてももう繋がらないだろうと感じた。



正直、何を話してどんな受け答えしたかすら記憶は挨拶したところで途切れていた。

一応の記録では1時間程通話していたことになっている。

おそらく僕は通話中上の空だったのだろう。


ただハッキリと覚えているのは、次もあることを願う僕が1時間ずっと存在していたことだ。

またのご利用を心よりお待ちしています。と心の中で唱えた。

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