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嘘と約束の鎮魂歌  作者: 心音
春の章
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第07話『秘める想い』

Another View 涼香



「……戻ってこない」


 一限目の授業がもうそろそろ終わる時間。ホームルームを抜け出したとも君と鳴海さんは未だに戻ってこない。メッセージを飛ばしても既読すら付かない状態が続いていた。

 事の発端となっている星ノ宮さんは、最初こそ戻ってこないとも君を心配する素振りを見せていた。しかし、今は授業に集中しているようでノートにシャーペンを走らせている。


「……」


 本当にとも君に大胆な告白をした本人なのかな?

 唐突に、そんな疑問が頭に浮かんできた。

 とも君の情報通り可愛さ。ホームルームの時にわたしが受けた印象は明るさが取り柄の女の子。けど、ノートに垂れた前髪を直す仕草とか、授業を受ける姿勢をこうして見ていると大人の魅力も感じてくる。


 ……ちゃんとお話、できるかな?


 きっと……ううん、間違いなく星ノ宮さんはわたし達のグループに入る。鳴海さんや九條さんのように、コミュ障なわたしと仲良くしてくれるか不安だけど……その点はとも君とかず君がどうにかしてくれるかな。


「……って、違う」


 話が逸れてしまった。今はわたしのことよりもとも君のこと。この授業が終わったら探しに行くべきだろうと考え始めたその時だった。


「──何が違うんだ?」


 わたしの独り言は隣の席のかず君の耳にしっかりと届いていたらしく、心配そうにわたしの顔を覗き込んでいる。

 授業中という事もあり、先生にバレないように声を潜めて会話を始めた。


「とも君と鳴海さん、何処に行ったんだろうね」


「……友樹もそうだが、涼香も人の質問とは全く違う返答をしてくるよな」


 朝のことを言っているのだろう。その時は特に気にしていなかったけれど、あの段階でとも君は星ノ宮さんが転校してくることを知っていたんだなとふと思う。

 そんなことを考えながら返答をしないでいると、かず君の方が折れる。


「まぁいいけど。あいつらは仲良くバックれてるだけだろ。気にするだけ無駄だと俺は思うがな」


「……仲良く、ね」


 確かにあの二人は仲がいい。授業をサボることは滅多にないけど、よく一緒に話をしたり遊びに行ったりしていることは知っている。

 けど、その仲の良さが友達の域で収まっているかと言えば多分それは違う。


 わたしは──あの目(・・・)を知っている。


 かず君は気づいていないみたいだけど、あれは──女の目だ。鳴海さんが時折とも君に向けるあの目はそういう類(・・・・・)のものだってわたしは知っている。


 だって──わたしも悪い女の子(・・・・・・・・・)だから。


「ねぇ、かず君?」


 ごく普通に、何の違和感も抱けないくらい自然にかず君に話しかける。

 そして、遊びに誘うような気軽さで、わたしはかず君を誘った(・・・)


「しようよ、今日」


「……」


 この言葉の意味が分からないかず君ではない。

 驚いた顔をしたのは一瞬だけ。わたしの誘いを理解したかず君の目の色が変わった。

 獲物を捉えた肉食獣のようなかず君の瞳。ああ、どうしようもなくゾクゾクする。周りのみんなはわたしにこんな一面があるなんて思いもしないだろう。


「ね、いいよね?」


 返答なんてその目を見れば聞かずとも分かる。でも、わたしはかず君の口から聞きたい。


 わたしのことを求めたい──って直接言って欲しい。


 そんなわたしの願いを聞き届けるように、かず君は大きく頷いて口を開く。


「ああ。いいぞ」


 ……ああ。とっても気持ちがいい。大好きな幼なじみがわたしを求めてくれるのがたまらなく気持ちがいい。


 絶対的な信頼を置いているかず君だからこそできること。もちろん、とも君も例外では無いけれど、とも君としたことは一度も無い。

 でもいつかはとも君ともしたい。あなたのことが大好きだよと、わたしの体を使って伝えたい。


 大好きな幼なじみに送る、絶対的な信頼の証明。

 とも君の初めては鳴海さんに取られているだろうけど、そんなのは些細な問題。わたしのこの想いを閉じ込める理由にはならない。

 世間一般的に考えればおかしい事だというのは理解している。伝え方なんてもっと色々あるっていうのも分かっている。


 わたしはあーちゃんのように(・・・・・・・・・)上手く言葉だけでは伝えられない。


 だから、わたしはこの方法を選ぶ。だって身体を許しあえる関係こそ、考え得る中で一番の信頼の確認方法だと思っているから。


 恋愛感情なんて必要無い。確かに二人のことは好きだけど、少なくとも今のわたしにそんな感情は無い。

 今後それがどう変わるかは分からないけれど、今はこれでいい。これでわたしは満足なのだから。


「……」


 ふと、とも君から聞いた星ノ宮さんの話を思い出す。

 星ノ宮さんはどういう想いでとも君に告白したのだろう。


 とも君の話を聞く限りでは星ノ宮さんには不可解なことが多すぎる。関わっていけばそのうちきっと分かることかな? まぁでも、どんな人であろうとまともにコミュニケーションを取れる自信は無いけど。生粋のコミュ障だからね。

 わたしと絶対的な信頼関係を結ぶことが出来れば話は別かもしれない。でもきっとそんな人は現れない。今も。そして──これからも。



to be continued

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