第03話『友達 ②』
「──瑠璃。君はどう思う?」
「はひっ!?」
俺に名前を呼ばれた藍色のセミロングの少女は、まさか自分に振られるとは思っていなかったようで素っ頓狂な声を上げた。
「ま、まぁ私も同意見ですわ」
こほんと、咳払いを一つして、瑠璃は自分の意見を述べる。
「好きでもない人に告白をするなんて私には出来ません」
「ちなみに瑠璃には好きな人はいるの?」
「い、いませんけど? それがどうしたっていうんです?」
「寂しい子だね」
「なんで唐突にディスられているんですの!?」
さて、この宝石のオニキスのように黒い瞳に涙を浮かべ、顔を林檎のように真っ赤にして叫ぶ少女。実にからかい甲斐のあるこの子は九條 瑠璃。九條財閥という誰もが知る大企業のお嬢様だ。
食料品、アパレル、家電etc、etc……。どの業界にも名を連ねる九條財閥のお嬢様がどうしてこのような一般の学校に通っているのかは誰も知らない。というより、誰も聞けないのだ。
お嬢様という肩書きのせいで、俺たちのグループ以外のクラスメイトは彼女に近寄ろうしないというのもあるのだが、一番の理由は話しかけに来てくれたクラスメイトに緊張のあまりツンツンした態度を取ってしまうことだ。
「てか、瑠璃ってそういう知識あるんだな」
「……失礼ですね和也さん。籠の中の鳥ならともかく私は普通の学生ですわ。それくらいの知識はきちんと持っています」
「へぇ。じゃあ問題。恋人同士がする夜の運動の名称は?」
「…………え?」
セクハラ待った無しの和也の発言に瑠璃はフリーズした。そんな瑠璃をニヤニヤと悪趣味な笑顔で見ている和也だが、瑠璃だけではなく、場も凍りついていることに気づいているのだろうか?
どうこの場を収めようか悩んでいると、頼りになるイツメンの最後の一人がここで口を開く。
「──かずやん。それはさすがにセクハラだよ」
銀色のツーサイドアップの髪が首を振る動きに合わせてゆらゆらと揺れる。和也を怒る流れと思いきや、その右手はグッと親指が立てられていた。
「でも、るりりんの面白い表情が見れたから許しちゃう」
「ちょっと結羽さん!? 私の許可無しに勝手に許さないでくださいまし!?」
「え? なんで?」
「なんでもですわ!!」
焦る瑠璃を見て笑う彼女は鳴海 結羽。
俺たちのムードメーカー的存在。和也と合わさればその騒がしさは最強クラス。明るく元気で面白い結羽だが、どうしてか他のクラスメイトには瑠璃に似たような一面がある。まぁ、似ているのベクトルが根本的には違うのだが、今はとりあえず置いておこう。
「まぁ、るりりんのセクハラさておき」
「さておかないでくださいまし!? あとその言い方だと私がセクハラしたみたいなんですが!?」
「うちは恋愛は自由だと思うけどね」
「無視ですの!?」
「へぇ。興味深いね。それはどういうこと?」
「友樹さん!?」
捨てられた子犬のような目で瑠璃が見ているような気がするが、悪いけど断固無視させてもらおう。
「恋愛の形は人それぞれだよ。まぁ、この話が恋愛話なのか、それとも別の何かがあるのかはさておくけど」
結羽は金色の瞳を真っ直ぐ俺に向けた。その目は真剣そのもので、結羽が何を言いたいのか即座に悟った。
「結羽」
でもその話題をこの場で発展させるわけにはいかない。それは結羽も分かっている。だからすぐに自分自身で話題を戻した。
「要するに、さーちんがやりたいようにやればいいって話」
「なるほどね。ちなみにそのさーちんってのは愛桜のことかな?」
「うん。可愛いでしょ。ともちんもそう呼んでみたら?」
「そうだね。俺は名前で呼ぶけど」
「肯定から入ったと思いきや即座に否定してきましたわね……」
発展性の欠片もない会話はいつものこと。これくらいの事なら誰も気にしない。このグループは基本的にゆるゆるなのだ。
「さて。話が一段落したところで、結構興味深い話題を仕入れてきているんだけど、みんな聞きたい?」
人差し指をピンと立てて話題を振ってくる結羽。わざわざ返事をするまでもなく、みんな結羽の方へ意識を集中させた。
to be continued