第02話『友達 ①』
「……え、ごめん。それなんてアニメ?」
愛桜と出会った翌日、学園に登校した俺は幼馴染である和也に昨日の出会いを話してみた。しかし、何でもかんでも二次元に結び付ける和也には到底理解できないような内容だったらしく、素でそんな返事をしてくる。
「リアルだよ」
「いやいや。初対面でいきなり告白してくる女の子がリアルにいるわけないだろ。タイトル教えろよ」
「和也に話したのが間違いだったよ」
淡野 和也──。
先にも述べた通り俺の幼馴染。そして重度の二次元オタク。道行く女性が一斉に振り返るほどのイケメンなのだが、この趣味やら発言やらのせいで色々と勿体ない人生を送っている。
とはいえ、本人はさほど気にしている様子はない。和也にとっては女性にモテる人生よりも、寝る間を惜しんで深夜アニメを観る方が大切なのだ。
「酷くね? なぁ、涼香からも何か言ってやってくれよ」
和也に涼香と呼ばれたアッシュグレーのセミロングの髪の少女。俺の話を聞きながらずっと本を読んでいたのだが、和也の問い掛けに読みかけの本に栞を挟んでパタンと閉じる。
「普通……そういうデリケートな話を、人が多いところでするかな……?」
彼女の名前は静川 涼香。和也と同じく俺の幼馴染。
今はこうして普通に話してはいるが、実は極度の人見知りで、幼馴染である俺や和也以外とは普通に喋れない。
俺たちのグループ──いわゆるイツメンには後二人女の子がいるのだが、それなりに長い付き合いのはずなのに未だにキョドってしまう。故に、関わりが無い他のクラスメイトとはまずロクに話をすることが出来ない。
「とも君も、かず君も、デリカシーってものが欠けているよ」
涼香の海のように蒼い瞳には純度100%の呆れという感情が宿っていた。しかし、和也はそんなのお構いなしに涼香に言葉を返す。
「学生の本分は恋愛だろ。男も女も関係ねぇよ」
「そこは否定しないけど。……というか、その星ノ宮さん? どうして、とも君にそんなお願いをしてきたのかな」
「好きになったからだろ」
「……かず君はもう黙ってくれるかな?」
顔は笑っていたが、蒼い瞳には一切の光が無かった。
和也は苦し紛れに下手な口笛を吹きながら涼香から視線を逸らす。
「まぁでも、かず君の言う通り好きになったからってのが理由だとして」
「なんだ。結局俺の言葉を借りるんじゃん」
「黙ろっか?」
「ごめんなさい」
真夏に放置された生ゴミを見るような冷たい目を向けられた和也が即座に折れると、涼香はわざとらしく咳払いをしてから口を開く。
「初めて会った時──なんて言葉は普通出てこないよ。過去に星ノ宮さんと接点があった。そして、とも君に惹かれる何かがあった」
「記憶に無いかな?」
「……とも君はほら、あーちゃんのことがあるから」
あーちゃんとは紅音のことだ。
涼香も紅音の幼馴染の一人。そしてそれは和也も同じ。俺たち四人は小さい頃からずっと一緒にいた。
「まぁ、わたしも人のことはあまり言えないけどね」
涼香の言う通りではある。しかし、俺は──いや、俺たちは人から向けられる好意に疎いところがあるのだ。紅音から貰っていた好意が大きすぎて、他人からの好意を上手く受け入れることができない。
それに、愛桜の場合は好意とはかけ離れた何かがあるのを俺は理解している。話を合わせるためにあえて何も口にはしないが。
「一応、同性の立場から言わせてもらうと、好きでもない人に対してそんな発言はできないかな」
「うん。そうだね。それは間違いないと思うよ。でも一応、他の女の子の意見も聞いてみようか」
先程から聞き耳だけはしっかりと立てている残りのイツメン二人の方に俺は顔を向けた。
to be continued