第158話『作戦会議 ③』
「みんなごめん。気を取り直して和也の恋を成就させる為の計画を練ろうか。瑠璃。気になるだろうけど、一旦その話は無かったことにしてくれないかな?」
無理を承知でお願いをしているのは理解しているが、話を進めるためには瑠璃に折れてもらう必要がある。真面目な表情で瑠璃の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「……はぁ」
無言のまま見つめ合うこと数十秒。緊迫とした空気が解けるように瑠璃の表情がため息と共に和らいだ。
「別に構いませんわ。気にならないと言ったら嘘になりますし、ちゃんとお二方の恋を実らせるためには必要な情報だとは思いますわ。でも、他ならぬ友樹さんがそう仰るのであれば私には追求することは出来ません。いつか話してくれるその日が来るまで、頭の片隅にでも留めておくことにしますの」
「助かるよ。ありがとう」
言葉ではお礼を告げて、心の中ではごめんと謝る。
瑠璃は俺に対して隠し事なんて何もしていないのに俺は隠し事だらけ。それは他のみんなに対しても同じことが言えるが、瑠璃は心から俺のことを想ってくれている。俺を信頼して好きでいてくれているのに、俺はその想いに対して何も答えてあげられていない。
良心が痛み、罪悪感に苛まれるにも関わらず秘密を貫き通そうとするのはあまりにも自分勝手だと思う。いつかまた何かタイミングが合った時、紅音のことを知っている瑠璃にはきちんと話をしよう。
「それで結局どういう計画にするの?」
タイミングを見計らって結羽が口を開く。
俺は今考えていることをリセットして、頭を今後の計画へと切り替えた。
「旅行の期間は今日の除くとあと2日。帰る日を入れたら3日だけど、告白をするのは3日目が無難じゃないかな? 上手くいけば最終日は帰るまでの間、二人きりの時間を作ってあげることも出来るからね」
「そうなると猶予は実質明日だけってことですよね?」
「そうだね。でも何も3日目の朝に告白するって訳じゃない。明日と明後日をめいいっぱい使って和也が涼香にアピールする計画を練ればいい。そして3日目の……そうだね、夕方とかに告白にピッタリなシチュエーションを作ってあげたら良いんじゃないかな?」
「短い時間でどれだけ距離を縮められるかが勝負ですわね……。幸いここは観光地ですので明日はとりあえず海ではなく観光でもしませんこと?」
「うちはるりりんの意見に賛成」
賛成の意を示してから結羽はソファーから立ち上がる。
いつものツインテールをストレートに下ろしている銀色の髪から、まだ若干残っているシャンプーの香りがふわっと広がった。
「ロビーからパンフレット取ってくるよ。話が長くなりそうだから適当に飲み物も買ってくるつもりだけどみんな何飲みたい? るりりんはお汁粉ね」
「なんで私だけ確定されてますの!? それに夏にお汁粉なんて売っているとは思えないんですけども!?」
「売っていたよ? 確認済み」
サラッと現実を突きつける結羽はそのままロビーの方へ駆け出した。てか俺たちの飲み物聞いてなくない? お汁粉にしたら怒るぞ?
体の動きに合わせて揺れる銀色の髪が曲がり角で見えなくなると、今度は満面の笑みを浮かべた瑠璃がゆらりと立ち上がる。
「ちょっと私は支配人の元へ行って参りますわ。あなたのせいで私の飲み物がお汁粉になったと抗議して今の地位から引きずり下ろしますの」
「……たかが飲み物一つで人生狂わされるのは可哀想だからやめなよ。しかも完全に八つ当たりじゃん」
「冗談ですわよ」
くすりと瑠璃は笑う。まぁ冗談だというのは最初から分かっていた。瑠璃の足元に消える黒い羽根を見つつ俺も笑う。
「シェフのシフトを確認してきますわ。手持ち無沙汰な方がいたら軽く摘める物でも作ってもらおうと思いまして」
「わー! それは楽しみですっ!」
歓喜の声を上げる愛桜。確かに夜食は魅力的だ。夕飯を食べた後とはいえ、これから長く話すならば食べものはあった方が嬉しい。
「じゃあ俺たちは二人が戻ってくるまでの間、スマホで適当に調べておこうか。それでいいよね、愛桜」
「もちろんですっ!」
元気よく頷く愛桜と共に俺はスマホを開いた。
to be continued
次回の更新は『4/16 21時』です。