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嘘と約束の鎮魂歌  作者: 心音
涼香の章
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第146話『本音』

Another View 愛桜



 お塩をたっぷりと振りかけた塩分過多のスイカを食べ終えた私。

 緑色の切れ端だけ綺麗に残ったスイカの残骸をゴミ袋に詰めて青く澄み渡る空を見上げ、キャンバスのような白い雲に涼香ちゃんの姿を思い描く。


 涼香ちゃんと出会ってから約三ヶ月。色んな涼香ちゃんの顔を見てきた。

 笑っている顔も、怒っている顔も、困っている顔も。これからもきっとたくさんの表情を見ることが出来ると思っていたけれど、今の状態が続く限りそれは難しい。


 ……友樹くんの言っていた通り、距離を置かれちゃっていますね。


 埋まっていたと思っていた溝には空洞が出来上がっていた。

 友樹くんに教えて貰っていなければ、気づくのにもう少し時間が掛かっていただろう。自分らしからぬ安直なミスに、賑わうビーチには到底似合わない大きなため息を私を吐く。


 全ての失敗は脱出肝試しをした日。

 私の本性を露わにしてしまったことが原因。誰かに見られているかもしれないということを考慮していなかった自分の責任だ。私の目的(・・)には大きな影響は出ないけれど、友樹くんを取り巻く環境に変化を与えるようなきっかけを作りたくはなかった。


『わたし……の、大切な幼馴染を……傷つけないで……お願い、だから、これ以上……わたしから、大切な人を……』


 不意に頭に浮かんできたのは、涼香ちゃんと喧嘩をした夜の言葉。

 涼香ちゃんが私のことを嫌う理由はハッキリとしている。言ってしまえば、涼香ちゃんにとっての私は毒のようなもの。じわじわと体と心を蝕み、壊そうとする厄介なモノ。大切な幼馴染がそんな人間に好意を抱かれていると知れば、純粋な涼香ちゃんが黙っているはずもない。


 ……やっぱり、難しいものですね、友達ってのは。

 そして、どうしようもなく──面倒くさい。


 私は目的の為ならば手段は選ばない。

 あの日(・・・)あの瞬間(・・・・)、私は覚悟を決めた。


「でも……」


 どんなに面倒くさいと思っても、一度知ってしまった居心地の良さにその覚悟が薄れてきているのを感じていた。友樹くんに近づく為にはこれが最善だからそうしただけに過ぎないけれど、これまで一度たりたも友達を作ってこなかった私にとって、今取り巻く環境は新鮮で、暖かくて──優しくて。叶うことならいつまでも陽だまりのような優しさの中に身を委ねていたい。


「……」


 けれど、それが不可能であると私は理解している。

 私が目的を果たした暁には、この暖かくて優しい居場所の全てが凍りついてしまう。どんなに強い光を受けても、決して溶けることはないだろう。


 私は──私は、嘘吐きだ。

 目的の為ならば結末がどうなろうと構わない。


 覚悟を無駄にしない為にも、そう自分に言い聞かせる。


 シャボン玉のように浮かんでくる楽しかった思い出たち。

 私はそれに手を伸ばして、指先で触れる──


「──あ、あの。すいません。今お時間よろしいですか?」


 ──その瞬間に声を掛けられた私は思考を中断した。

 声の主の方へ振り向き首を傾げる。見たこともない女の子二人組が、焦った様子で立っていたからだ。


「えっと、いきなり声を掛けてしまってすみません。先程ビーチバレーをしていた方ですよね?」


「そうですけど?」


「ああ、良かった。私たちの気の所為じゃなければなんですけど、海の家の方で連れの女の子がナンパされているみたいで……」


「!?」


 それを聞いた瞬間、私は考え無しに駆け出していた。


「愛桜!?」


「さーちん!?」


 後ろから皆さんの焦った声が飛んでくる。けれど私は一度たりとも振り返ることなく足を動かす。自分で自分の思考が分からなかった。

 つい一瞬前まで面倒くさい。壊したい。そう思っていたはずなのに、今の私の頭は涼香ちゃんを助けなければならないと考えていた。


「……それはどうして? もう、答えは出てます」




 楽しかった時間を無かったことにしたくはない。




「答えは最初から決まっているんです……! だって私は──」





 シャボン玉のように簡単に割ることができる思い出を大切にしたい。






「──涼香ちゃんと、友達でいたいんです──っ!!」






 きっといつか、この選択を後悔する時が来るかもしれない。

 いいえ……。かもじゃない。絶対に後悔する。だとしても、今この瞬間後悔するよりも全然マシ。


「涼香ちゃん……っ!!」



to be continued

次回の更新は『3/11 21時』です。

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