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嘘と約束の鎮魂歌  作者: 心音
涼香の章
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第145話『後悔』

Another View 涼香



 ……やっちゃった。


 みんなの元を離れて海の家に向かうわたしは心の中でそう呟いてため息を吐いた。


 星ノ宮さんのことは嫌い。仲直りは振りだけ。それは変わらない事実。

 でもその傾向をみんなの前で見せてしまったのは失敗だった。みんなの心に疑念の芽を植え付けてしまったかもしれない。


 こんな態度を続けていたらきっといつか気づかれてしまう。

 最初のうちは隠していけると思っていた。とも君とかず君の傍に居続けることが出来ると思えば我慢出来ると思っていた。けど、嫌いという感情を胸の内に留めておくことは自分が想像していた以上に精神的な負荷が大きい。

 当然と言えば当然なことだが、甘く見ていたのを今更ながら後悔する。このままではわたしと星ノ宮さんの関係だけではなく、もっと根本的なところが瓦解してしまうことだって考えられる。


 みんなは星ノ宮さんのことを悪く思っていないから。


 心から星ノ宮さんのことを友達だと思っているから。


 みんなと違うのは──わたしだけだから。


「……わたし、嫌な女の子だな」


 結局のところ、わたしは星ノ宮さんにとも君を取られたくないだけ。

 これは嫉妬? ううん、多分違う。だって、九條さんのとも君に対する恋心を知った時、今と同じことを思わなかった。


 同じ好意なのにどうして九條さんの時は何とも思わなかった?

 その理由は簡単なことで、九條さんには星ノ宮さんのような嫌悪する裏(・・・・・)が無いから。


 九條さんの裏には嘘が無い──。


 星ノ宮さんの裏には嘘がある──。


 ただそれだけのこと。


 何かをきっかけで裏が現れる九條さんよりも、裏を隠して普通の人間のふりをしている星ノ宮さんの方がよっぽどタチが悪い。そういう人間がどれほど恐ろしいかをわたしは知っている(・・・・・・・・・)

 だから星ノ宮さんをとも君の傍には置いておけない。もうこれ以上、わたしから(・・・・・)大切な人を奪わないで欲しい。あんな思いは……もう二度としたくないから。

 

 どうすればこの嫌な気持ちから解放されるかな?


 自分自身に問い掛ける。

 答えの代わりに出てきたのは大きなため息だった。少し考えたくらいで答えが出るのであれば、わたしは今こんなにも悩んだりはしていない。全くもって馬鹿らしい。


「ご飯食べて気を紛らわせよう……」


 ビーチバレーで消耗した分のカロリーはスイカだけでは補えない。さっき海の家のラインナップを見た時、美味しそうなものがいっぱいあった。その中から候補を何個か絞ってお腹を満たすことにしよう。

 星ノ宮さんのことからご飯へと思考をシフトチェンジする。次の瞬間にはもう何を食べるか以外は考えていなかった。しかし、そんなささやかな幸せな時間は後ろから掛けられた声と共に終わりを告げる。


「──おねーさん。ねぇ、今暇?」


「……」


 いわゆるナンパというやつだろう。

 こういうのは無視をしていれば勝手に諦めてくれる。下手に話を始めてしまった方が面倒臭いことになるから、わたしは振り返ることもなく、聞こえなかった振りをしてそのまま立ち去ろうとした。


「えー、待ってよー。無視は酷くない?」


「っっ!?」


 唐突に肩を掴まれ、わたしは驚いて勢いのまま振り払う。

 その流れのまま振り向くと、如何にもチャラそうな男が三人、わたしを見つめてニヤニヤと気持ちの悪い笑顔を浮かべていた。


「痛いなー。あー、これは手が折れちゃったかもしれない。おねーさん責任取ってよ」


「……っ」


 何か言い返したくても怖くて声が出てこない。

 そんなわたしの様子が面白かったのか、男三人は下品な笑い声を上げる。


「大丈夫大丈夫。怖くないから安心してよ。とりあえず向こうまで一緒に行こうか」


「い、嫌……」


 逃げたくて堪らないのに恐怖で体が凍りついて一歩も動けない。喉も痛いくらい乾ききっていて声が掠れる。何も出来ないまま、こちらに向かって伸びてくる腕を見つめることしか出来ない。


 助けて……。助けて、とも君! かず君……っ!



to be continued

次回の更新は『3/8 21時』です。

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