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嘘と約束の鎮魂歌  作者: 心音
涼香の章
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第143話『灼熱のビーチバレー ⑤』


「はぁ……はぁ……」


「っう……ふぅ……」


 結羽と瑠璃。二人とも肩で息をしているような状態だった。

 耳に聞こえてくるのはそんな二人の呼吸音と浜辺に押し寄せる波の音だけ。大勢集まっている観客たちも息を飲んで試合の行く末を見守っている。ほぼ俺たちとは無関係である観客ですらこのような状態になっているのは、それほどまでに凄まじい試合になっているからに他ならない。


 現状、互いに1セットずつ取って今は3セット目。点数は11-11で同点となっている。

 3セット目は15点先取した方の勝利。本来のビーチバレーのルールならばまだ試合が続く点数ではあるが、俺たちのルールには5点獲得の特殊ルールがある。つまり、次で勝負が決まる可能性があり、そこから生まれる緊張感がコート全体、そして観客たちにまで伝染して異様な空気を漂わせていた。


「……友樹さん、愛桜さん。私怨に付き合わせてしまって申し訳ありませんわ」


「それは問題ないですし、こんなことこのタイミングで言うことじゃないとは思うんですけど……大丈夫です?」


「心配ありがとうございます。でも……大丈夫ですわ。ここを乗り切れば私たちの勝ちですのよ」


 言葉は力強いが、目に見えている疲労はどうしても隠し切れない。瑠璃の体力はもう限界。だがそれは向こうにも同じことが言える。熾烈な争いを繰り広げていたのだから、結羽も力尽きる一歩手前。ここが正念場だ。気を引き締めて勝利を掴みに行きたいところ。

 とはいえ、次で決める為には結羽たちに3点攻撃をさせ、且つ俺たちはそれをブロックする必要がある。失敗は敗北を意味すると言っても過言ではない。ハイリスクハイリターン。果たしてこの選択は正しいのだろうか。


「──友樹くん」


 迷いが顔に出ていたのだろう。俺の肩に手を置いた愛桜の表情は真剣そのものだった。


「考えていることは分かりますけど、ここは瑠璃ちゃんを信じましょう。私たちが狙うのは5点一択です」


 チラリと愛桜は瑠璃の方へ視線を送る。その視線の先にいるのは手元のボールに視線を落としたまま荒い呼吸を続ける瑠璃。

 溜まりに溜まった疲労で足が震えていた。それでも立ち続けるのは勝利という栄光の為。ならば俺はチームメイトとして全力を尽くすのみ。


「分かった。やろう」


「それでこそ友樹くんです。瑠璃ちゃん! やりますよっ!」


 愛桜の掛け声と共に瑠璃がボールを上げる。

 俺と愛桜の、結羽たちの、そして観客たちの視線が一つに集まった。


「はぁぁっ!!」


 力強く放たれたサーブは小細工無しの全力の一撃。プロ顔負けの速度と技術によって成されるサーブは、サービスエースを取れる勢いで砂浜に迫る。


「俺がやる!!」


 しかしそれを和也が許さない。着地点に素早く入り込んでレシーブすると、綺麗な弧を描いて涼香の元へ落ちていく。


「鳴海さん、お願い……!」


 それをしっかりと受けた涼香はそのまま結羽にトスをした。

 結羽たちにとっては3点攻撃の大チャンス。そして俺たちにとってはゲームセットへの大切な場面。結羽のスパイクをブロックするべく、瑠璃と愛桜は結羽のほぼ正面に立った。


「あはっ! 作戦が丸見えだね。5点取って終わらせるつもりなんだ! やってみなよ!! ふっ!」


 ネット越しに結羽は愉快気に笑いながら大きく跳躍する。

 まだまだ体力は余っているという挑発だろうが、それがブラフだということに俺たちは気づいている。故に慌てずにワンテンポ遅らせて二人も飛んだ。

 三人の身長は互角。ジャンプ力も同じくらいだから結羽の打ち込む先を如何に見極めることが出来るかが重要。


「……あは。引っ掛かってくれたね」


 スパイクの構えを取っていた結羽が不敵に笑う。

 そして大きく伸ばした指先で自由落下してきたボールを軽く弾いた。


「なぁ!?」


「このタイミングで……っ!?」


 スパイクと見せかけたフェイント──。

 愛桜と瑠璃の伸ばした両手に当たるか当たらないのかギリギリのラインでボールが越える。着地してからではレシーブは間に合わない。でも──


「──知っていたよ。結羽は意地悪だからね」


「!?」


 そう。愛桜と瑠璃では間に合わない。

 予めスパイクをしないと予測していた俺がボールの着地地点に構えていた。それに気づいた結羽はここで初めて顔を強ばらせた。


「とーーもーーちーーんーーッッ!!」


「残念。詰めが甘かったね、結羽」


 落ちてきたボールを愛桜にトスすると、素早く瑠璃にボールを回した。

 結羽たちは完全に意表を突かれて体勢が整っていない。


「聞こえるような声で作戦を話すわけないですわ。あれは確実な攻撃チャンスを得るためのブラフですのよ。もっとも──」


 結羽が抜けてガラ空きになっている空間に瑠璃の鋭いスパイクが叩き込む。響き渡る歓声の中、優雅に砂浜に着地した瑠璃は藍色の髪をサッと掻き上げた。


「──ブラフって気づいたのは今ですけど」


 そして俺と愛桜を睨むように見つめた。でも口元は笑っている。


「瑠璃ちゃんなら気づいてくれると信じていたので!」


 てへっ♪ と舌をちょこんと出して笑う愛桜。


「そういうこと。瑠璃の残り体力的にはごめんだけどこれで14-11。焦らず慌てず確実に1点を取って俺たちの勝ちだ」


「まったく……敵を騙すには味方からってやつですわね」


「うん。じゃあサービスエースよろしくね」


「ええ。任せてくださいまし。今度こそ終わらせますわ」


 この後、瑠璃は宣言通りサービスエースを決めた。

 結果は15-11で俺たちの勝利。大歓声の中、激闘のビーチバレーは幕を閉じた。



to be continued

次回の更新は『3/2 21時』です。

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