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嘘と約束の鎮魂歌  作者: 心音
涼香の章
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第137話『黒で彩られたモノ』


「──やぁ、愛桜。城の建設は順調?」


 瑠璃に紅音のことを話したあと、少しの間一人にして欲しいと頼まれた俺は黙々と砂のお城を作っている愛桜の元へ向かい、集中していますオーラを纏っている背中にそう声を掛ける。

 すぐに返事は来ないと思いきや、満面の笑みで振り返った愛桜は自信満々に親指を立てた。


「はいっ! 見てください友樹くん! あとは天守閣を作れば完璧な愛桜城の完成ですよっ!」


 ふふん──と、愛桜は胸を張って体を反らすと、その全貌を俺に見せつけてくる。視界に入った砂の城は想像していたのよりも数倍すごい出来栄えで、俺は思わず感嘆の息を漏らしてしまった。


 公園で子供が作るようなお城とは天と地の差がある。通りすがりの海水浴客も思わず二度見したり、写真を撮ってしまうほどの出来映え。手先の器用な人でもここまでの完成度で仕上げることは難しいのではないだろうか。細かいところも工夫されており、見る者を飽きさせない


「……よくこんな短時間でここまで立派なお城を作れたね。素直にびっくりしているよ。将来は建築家にでもなるのかな?」


「建築家ですか! 職業的に男性が就くイメージが大きいですけど、私でもなれるんでしょうか?」


「なれるよ。ただ女性の割合が少ないのは事実だね。けど、実績を積んで名の知れている女性建築家はちゃんといる。努力を怠らなければ結果は自ずとついてくるってことだね」


「努力をすることを諦めた時点で、自分の可能性を自ら潰しているようなものですからね」


「そうだね。努力もせずに夢を勝ち取ることが出来るのはほんのひと握りの限られた人間だけ。それを世間では天才って呼ぶ。凡人は天才になることは出来ないけれど、天才に近づくことは出来ると俺は思うよ」


 でも、あくまでも近づけるだけで凡人が天才になることはない。

 もしも愛桜が何かに本気で取り組んでいるのだとしたら、俺は今とても酷いことを言ったという自覚がある。しかし、愛桜は特に気にした様子は見せず、海風に靡く栗色の髪を手で抑えながら話を切り替えた。


「ところで、友樹くんは女の子を泣かせる天才ですか?」


 切り替えたと言っても、これは延長線だ。

 どうやら愛桜は俺が瑠璃のことを泣かせたと思っているらしい。砂のお城作りに夢中で気づかれてはいないと思っていたが、やはりそう甘くはなかった。

 瑠璃を泣かせたのは事実ではあるから否定はしない。さて、どう返すか悩んだが、言い訳をするくらいならば煽るようなことを言った方が愛桜の本性が垣間見えるかもしれない。


「面白いことを言うね愛桜。もし、そうだと言ったら?」


「クズって呼びます」


「そんなクズに告白してきたのは誰だっけ?」


「耳が痛いです。それを言われてしまったら何も言い返せませんね」


 くすっと笑うと、愛桜は髪から手を離す。

 その瞬間、狙ったかのように吹いた強い海風が栗色の髪を舞わせた。逆立つようにうねうねと舞う髪はまるで、俺を絡め取って離さないと言わんばかりに大きく舞い広がっていた。風に煽られたパラソルがバサバサと大きな音を立てる。それでも、その瞬間に愛桜が零した声はハッキリと俺の耳に届く。


「──でも、わたしは友樹くんがクズでも構いませんよ」


 翡翠色の瞳が妖しく光る。太陽の光を反射して様々な色を見せるその瞳で真っ直ぐ俺を見据えた愛桜は悪魔のような笑顔を浮かべていた。


「だって……私はクズですからね。クズはクズ同士、最っ高に仲良くなれそうじゃないですか」


「……くくっ、はははっ!」


 それを聞いた俺は込み上げてくる笑いを堪えることが出来なかった。

 面白い。実に面白い。俺のことを好きだと言う女の子はどうしようもなく狂っている。だから俺は真っ黒な羽根を(・・・・・・・)舞わせて嘘を吐く(・・・・・・・・)愛桜に最高の言葉を返す。


「そうだね。その通りだよ。クズ同士(・・・・)最高に仲良くなれそうだ」


 仲良くなるつもりなんて無い──。

 それが黒い羽根がもたらす嘘偽りない事実──。


「ふふっ。私たち相性ピッタリですね」


「そうだね。これ以上にないくらいピッタリだよ」


 少しだけ。ほんの少しだけ愛桜の見方が変わった。

 こんなにも真っ直ぐな嘘(・・・・・・)を吐ける愛桜に、これまで以上の興味が湧いた。


「友樹くん。私のこと、好きになれそうですか?」


「さぁ、それとこれとは話が別だよ」


「つれませんね。でもまぁ、いいです。そういう友樹くんのことも私は好きですよ」


 羽根が。黒い羽根が、桜吹雪のように舞い続ける。

 美しくも、醜い、愛桜の嘘──。この嘘の真実はどんな色をしているのだろう。その時が来るのが楽しみです仕方ない。


「──おーい、ともちーん! さーちん!」


 大きく手を振りながら結羽と和也がこちらに向かってくる。


「さて、そろそろみんなで遊びましょうか」


「うん。折角の海だからね。いっぱい楽しまないと損だよ」


 俺と愛桜は互いに笑い合い、結羽と和也の元へ一歩を踏み出した。



to be continued

次回の更新は『2/12 21時』です。

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