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嘘と約束の鎮魂歌  作者: 心音
涼香の章
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第131話『夏の海の楽しみ』


「──時に友樹よ。夏の海と言ったらなんだ?」


 砂浜に広げたレジャーシートの上。ジリジリと肌を焼く太陽の光を全身に受け、ニヒルな笑顔を浮かべた和也がおもむろにそう訊ねてきた。

 女の子たちが着替えに行っている間の暇潰しだろうか? 俺は深く考えずに思ったことをそのまま口にした。


「かき氷」


「違うだろ友樹。もっと他にあると思わないか? かき氷なんていう一瞬で終わってしまう寂しい食べ物よりも魅力的なものがあるはずだ」


「なんだと?」


 真面目な顔で和也が言うもんだから、適当に答えるのはやめて真剣に考えることにした。

 俺はロダンの考える人のように口元に手を当てゆっくりと目を閉じる。シャボン玉のように膨らんで浮かんでくる様々な答えの候補。俺はその中から最も大きく膨らんだ選択肢を選ぶことで和也の理解を得ることに決めた


「焼きそば。海の家で食べる焼きそばは格別だよね」


「食い意地が張っただけのつまらない人生だな」


「あれ、これキレていいタイミン──」


「馬鹿野郎友樹!! お前男だろ!?」


 何故俺がキレられなくちゃいけないんだ?

 キレたいのは俺の方なんだが? しかし、和也にも言い分があるのだろう。俺は右手をキツく握りしめたまま、あくまでも大人の対応として笑顔を浮かべて和也に問い掛ける。


「なら和也にとっての夏の海って何なのかな?」


「はっ。そんなの決まっているだろ? 女の子たちの水着姿だ」


「……」


 ここまでド直球に言われると、もはやどう言葉を返していいのか分からなくなってくる。

 何も言わずに無言を貫いていると、しびれを切らした和也が問い詰めるように言葉を重ねてくる。


「おい。なんで無言なんだよ。友樹は楽しみじゃないのかよ? 水着だぞ? 水着。女の子たちの普段は見れない特別な姿を楽しみにしていることの何がいけないんだ?」


「和也。君は勘違いをしているよ」


 流れを断ち切る一言に和也の眉間にシワが寄った。


「……何? 俺がどう勘違いしているって言うんだ?」


「みんなの水着姿が楽しみじゃない? 俺はただ返答をしなかっただけで、楽しみじゃないなんて一言も言っていないよね?」


「……」


 再び口を開いて発した言葉に、今度は和也が黙り込む番だった。

 何が言いたい? と無言の圧力を掛ける和也。そんな和也に俺は胸に留めていた思いを打ち明けることにした。


「いいかい和也。お世辞でもなんでもなくみんなは可愛い。誰がなんと言おうとその事実は揺らぎない。それを加味した上で言わせてもらうよ」


「……なんだ?」


「みんなの水着姿が楽しみすぎてヤバい」


 俺も腐っても男だ。みんなの水着姿に期待しまくっている。

 しかし、こういうのは静かに待つのが礼儀だ。和也みたいに期待を全面に出しまくるのも悪いとは言わない。何度だって言うが、可愛い女の子たちの水着姿に期待し、興奮するのは必然であり礼儀である。


「ふっ。安心したぜ友樹。食い意地が張った人生なんて言って悪かった。お前もやっぱり男だな!!」


「当然だよ。まぁ、結羽のはもう見ているんだけどね」


 サラッと告白をすると和也は怪訝そうに眉をひそめた。


「は? 何故に?」


「なんか終業式の日の夜に水着姿で家に来た」


「……それはもはやただの痴女だろ」


「でも可愛かったよ、すごく」


「それは楽しみだな!」


 深く考えることをやめた和也は満面の笑みで親指を立てた。


「ちなみにどんな水着だったんだ?」


「俺の口から言っていいの? 実際に見るまで楽しみにしていた方がいいんじゃない?」


「確かに。あーー!! 早くみんな来ないかなぁぁ!!」


 青空に向かって大きく広げて叫ぶ和也。それとほぼ同タイミングで後ろの方からザッザッと砂浜を歩く複数人の足音が耳に入った。着替えに行っていたみんなが戻ってきたのだろう。

 心を落ち着かせるために深呼吸を一つ。俺は和也にもみんなが戻ってきたことを肩に手を置いて伝え、そのまま期待を込めて振り返った。



to be continued

次回の更新は『1/25 21時』です。

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