第11話『ショッピング』
街の案内をする為に俺たちはひとまず御桜ショッピングモールまでやってきた。下手に歩き回るよりこの街のメインとも言えるこの場所に来た方が間違いはないと判断したからだ。
平日の夕方近くということもあり、夕飯の買い出しに来た主婦の姿がちらほら。あとは俺たちと同じ制服の学生の姿が多く、みんな放課後を満喫している様子が見て取れる。
そのおかげと言うべきか、ショッピングモールに感動して、はしゃいでいる愛桜の姿は、悪目立ちすることもなく自然に背景に溶け込んでいた。
「わー! わー! すごいです! こんな大きいショッピングモール初めて来ましたっ」
「さーちん、遊園地に初めて来た子どもみたいだね」
「だってだって、私が住んでいたところにはこんな大きな商業施設無かったんです! すごーい! 一日じゃ回りきれませんねっ」
「別に今日だけで回る必要ないだろ。またみんなで来ればいいんだから」
「はい!」
栗色のロングヘアをふわっと舞わせて愛桜は嬉しそうに頷く。まだ特に何もしていないのだが、こんなにも喜びを露わにしてくれる愛桜を見て、ここに連れてきてあげてよかったと思う。
「愛桜さん。も、もしよろしければ服を一緒に見ません? 私のオススメのお店があるんですの」
「瑠璃さんからのお誘いっ! 喜んで! と言いたいところなんですけど、お二方は大丈夫ですか?」
俺と和也の方を見て愛桜は首を傾げる。男子組が楽しめないんじゃないかと心配しているのだろう。嬉しい気遣いだが問題は無い。その理由は結羽辺りがきっと今から伝えるはず──
「と、とも君とかず君は、だだだだ大丈夫だよ!?」
──と、思ったのだが、涼香がテンパりながら口を開いた。
「わ、わたしとか、九條さん、鳴海さんの私服、ふ、二人が選んでくれているもの、だから!」
「どどどどういうことですか!?」
そりゃそういう反応にもなる。頑張って会話に混ざろうとする涼香の意思は尊重するが、言葉が足りなさ過ぎて完全に愛桜は変な誤解をしているような気がする。現に目が『どういう関係なんですか!?』と訴えかけていた。
まぁ確かに、男女の関係ならどちらかの趣味に合わせて服選びをすることもあるかもしれない。しかし俺たちは普通の友達同士。なんの説明も無しにそんなことを言われたら訳が分からないだろう。
ここでタイミングを見計らっていた結羽が会話に混ざってくる。
「ともちんとかずやんは服選びのセンスが良いんだよ、さーちん」
「う、うーん? だとしても、私は自分の服を人に選んでもらうのはちょっと恥ずかしいですね」
「最初はうちもさーちんと同じ反応だったよ。けど、実際やってもらうとこれがしっくり来ちゃうんだよね。うちらの好みに完璧に応えてくれるからさ」
「へぇー! そこまで言われるとちょっと気になりますっ」
目を宝石のようにキラキラと輝かせる愛桜。そんな愛桜の目を見た結羽は、まるで自分のことのように得意気に鼻を鳴らす。
「論より証拠だよね。るりりん、どうせ選んでもらうつもりだったんでしょ?」
「え、ええ。今の季節用の服がもう一着くらい欲しかったので」
「ならちょうどいいね。二人の実力をさーちんに見てもらおうよ」
グッと親指を立てた結羽がこちらに振り返る。
「じゃあ二人とも。存分に自分の力を見せつけてあげてよ」
「それは構わないんだが、なんでお前が得意気なんだ?」
ごもっともな和也の発言に結羽はウインクを決めた。
「二人の実力はちゃーんと分かっているからね。友達の良いところを披露できるのは、自分のことのように嬉しいよ」
「結羽......」
嘘偽り無い真っ直ぐな結羽の言葉。そこまで言われてしまったら期待に応えたくなってしまう。和也も褒めちぎられてご満悦そうだし、この後の行き先は決まったようなものだ。
「で、では参りましょう。目的のお店はすぐそこですわ」
流れを読んだ瑠璃を先頭に俺たちは移動を始めた。
to be continued