第128話『仲直り大作戦 ③』
「──あら。なんか良い雰囲気じゃありませんこと?」
和也のインカムを通して聞こえてくる楽しげな会話を聞いていた瑠璃は嬉しそうに顔を綻ばせる。一時はどうなる事やらと思っていたが、この感じならば特に問題も無いまま仲直り出来るはずだ。
見守っていただけだし、さほど時間が掛からなかったこともあってか、すんなりと現実を受け入れて安堵の息を吐くことが出来る。結果論になってしまうが、わざわざこんなことをせずとも、愛桜と涼香は互いに会話をするきっかけを作って仲直りしていたかもしれない。
「ところで。感動的な場面……と言えるほどではないですけど、それなりに良い場面なのに結羽さんは何処にいるのでしょう? 友樹さんは何か聞いていますの?」
普通に名前を出してしまっているが、仲直り作戦はもう完了したようなものだからコードネームで呼び合う必要も無いだろう。
「さぁ? 俺もなんで別行動しているのか分からない。でも結羽は無意味なことはしない主義だから、何かしらの理由があるんじゃないかな? その内容はさておくとしてね」
「こう言っちゃあれですけど、どうせくだらないことを考えているんでしょうね」
「くだらないことすらも真面目に考える。それが結羽だよ」
「違いないですわね。さて、とりあえず結羽さんに通信を入れ──」
「その必要は無いよ、るりりん」
背中に掛けられた声に振り返ると、いつの間にか近付いていた結羽がひらひらと手を振っていた。
直前までの会話内容までは聞こえていなかったのか、何食わぬ顔で俺と瑠璃の間に入り込んできた。その瞬間、結羽の持っていた紙袋が俺のふくらはぎに直撃する。
「痛い……。てか結羽、それ何?」
「あーこれ? 海に行った時に使おうと想って買ってきたんだよね!」
そう楽しそうに語るが、中身を見せるつもりは無いらしく両手で紙袋を抱え込んでニコニコと笑う。
「……というか、私たちに尾行をさせておいて、自分は買い物をしていたんですの?」
「ん? うん」
悪びれることもなく頷く結羽。瑠璃はこれみよがしに大きなため息を吐くが、辺りの喧騒に掻き消されて何の意味も成さない。そもそも結羽の視線の先にいるのは瑠璃ではなく前を歩く愛桜たちだった。
結羽の表情は柔らかく、俺と瑠璃の視線も自然と前に向く。視界に映るのはすっかり仲直りした愛桜と涼香の姿。
「念の為尾行してもらっていたけど、うち的には早い段階でこうなるんじゃないかなって思っていたから」
待ち合わせの時の重苦しい雰囲気はとっくに消えていて、互いに笑顔を見せながら会話に花を咲かせていた。それは周りを歩く人たちが思わず振り返ってしまうくらい微笑ましい光景。元より愛桜も涼香も人目を十分に惹き付ける魅力を持っている。そんな二人とイケメンの部類に入る和也が並んで歩いていれば、それはもう歩く芸術品のようなものだ。
「さて、どうする? 愛桜は俺たちが嘘を吐いているのに気づいているよ。ネタバラシして合流するのもありだと思うけど」
「そうだね。でも……合流するのはもうちょっと後でも良いかなってうちは思う」
「結羽さんに同感ですわ。なんというか、もう少しだけあの三人の微笑ましい姿を見ていたいと思ってしまいましたの」
自然と笑顔になれる三人の仲睦まじい姿。結羽と瑠璃の言う通り、それをあと少し目に焼き付けてからでも合流は遅くない。まだ今日という一日は始まったばかりなのだから。
「じゃあお昼のタイミングでサラッと合流しよう。二人もそれでいいかな?」
そう提案をすると、二人は揃って頷いた。
あとはもう何も言うことは無い。幸先の不安だった夏休みの出だしは想像よりも遥かに好調だ。
to be continued
次回の更新は『1/16 21時』です。