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嘘と約束の鎮魂歌  作者: 心音
涼香の章
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第127話『仲直り大作戦 ②』

Another View 愛桜



 旅行に必要な物を買い揃えるためのショッピングにやって来た私。本来であればみんなで買い物をするはずだったのに、蓋を開けてみれば待ち合わせ場所に来たのは私と涼香ちゃん、そして和也くんの三人。

 友樹くんと結羽ちゃんは体調不良。瑠璃ちゃんは家庭の事情で来れないそうだがほぼほぼ間違いなく嘘。私と涼香ちゃんを仲直りさせるための計らいだと予想が出来る。和也くんが居てくれるのは万が一の時にすぐ干渉する為。他の三人は和也くんが失敗した時の為に近くで様子を見守っているはず。


 これはしてやられました。でも……


 折角の旅行を思い出に残るものにする為に涼香ちゃんと仲直りしたい。

 それは和也くんの恋のお手伝いをする為でもあるが、私自身が友達との初めての旅行というのを楽しみにしているからだ。

 これまで私が経験してきた夏休みに思い出と呼べるものは無い。友達がいなかったのだがら当然だ。クラスのみんながたくさんの思い出を作っている中、私はずっと一人きりの時間を過ごしていた。


 ……いや、ずっとは嘘だ。私にも心の支えになってくれる人はいた。

 たった一人、私のことを理解してくれた、かけがえのない大切な人が──。


 胸の奥がじんわりと温かくなる。

 その人の優しさと笑顔を思い出して。


 けど、すぐに冷えきっていく。

 その人の優しさと笑顔を奪った人を思い出して。


「……ふぅ」


 落ち着け、私。今は目の前のことに集中するんです。

 そう自分に言い聞かせながら、徐々に凍りつき始めていた心を深呼吸で溶かしていく。それを二、三回繰り返したところで心に余裕が生まれてくる。


 涼香ちゃんと仲直りする為の機会を設けて貰えたのだから、みんなの意を汲んで期待に応えたい。その為にまずは会話をする必要がある。踏み込んだ話をする必要は無い。これまでの日常と変わらない当たり障りのない会話で、離れてしまっている涼香ちゃんとの距離を縮めていく。私一人ではそれすらも難しかったかもしれないが、和也くんが居てくれるのならば話は別だ。友達に対してこんなことを言うのはあれかもしれないが、利用できるものは全部利用させてもらおう。


「和也くん。まずは何から買いますか?」


「! そうだな……」


 和也くん自身、会話も何も無いこの状況をどうにかしたいと思っていたはずだから、私の吹っかけた話題に喜んで乗って会話を繋いでくれると踏む。


「アミューズメント一式は特に考えなくても良いはずだから、海にちなんだ遊び道具を揃えたい。涼香、海と言ったら何を想像するよ?」


 予想通り和也くんが涼香ちゃんに繋げてくれた。あとは出来上がった場面を私が上手いこと活用すればいい。


「うーん、定番どころならスイカ割りとか、かな」


「スイカ割りか。良いチョイスだな。他は?」


 涼香ちゃんは和也くんとならばちゃんと会話をする。ここで私が会話に割り込むのは悪手だろう。涼香ちゃんと和也くんを中心に会話を広げて、タイミングを見定めて私も輪に入る。きっと和也くんがいい感じに会話を振ってくれるだろうから、私は二人の会話に耳を傾け続けた。


「えと……ダイビング?」


「あー、でもそれは難し……いや、瑠璃の力を借りればいけるのか?」


「ダイビングをしてもいい海水浴場だったらいけるかも? でも、仮にいけたとしてもダイビング道具はここじゃ揃えられないと思う」


「確かに」


「あと思いつくのはビーチバレー、ビーチフラッグ、シュノーケリング? ヨットとかサーフィンもあるね」


「考え出したらキリがないな。愛桜は何かあるか?」


「え」


 待ってください和也くん? このタイミングで私に振ります?

 そんなに候補を出されていたらもう何も思い浮かばないんですけど!?


「……す、スイカ割り?」


 捻り出した案を口にしてからすぐにハッとする。

 冷静に考えてみたら涼香ちゃんが最初に出した案もスイカ割りだった。話を聞いていないと思われてしまうかもしれない。折角の和やかな雰囲気を壊しかねないミス。焦るよりも先に頭を回す。まだ挽回出来る。そう思っていたのだが、私の心配は杞憂で終わる。


「ふふっ、それはわたしが最初に言ったよ」


「……」


 今までと同じ笑顔を涼香ちゃんは私に向けていた。

 ちょっとぎこちないけど、作り笑いではないと分かる柔らかい笑顔。それを見て私は、自分で思っていたよりずっと、涼香ちゃんとの距離が戻っていたことを知る。多分、涼香ちゃんも仲直りしたいと思っていたのだろう。でも、あの夜にあんな攻撃的な発言してしまい、私との接し方に困っていたのかもしれない。


「そうでしたねっ! 一番やりたいと思っていたことなので勝手に口から出ちゃいました!」


 もう大丈夫。このまま元の距離に戻していこう。

 そう心に決めて私も満面の笑みを浮かべた。


 そして同時にもう一つ、私は固く決意する。

 全ての準備(・・・・・)が整うまでの間、絶対に素の私(・・・)を出さないように嘘を吐き続けよう。



to be continued

次回の更新は『1/13 21時』です。

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