第119話『静川涼香の独白』
わたしは幼馴染のみんなのことが大好きだ。
とも君、かず君。そして、あーちゃん。
みんなみんな、大切で、大好きな幼馴染。
小さい頃からずっと一緒で、ずっと大切で、ずっと大好き。
わたしの人生のほとんどが幼馴染との思い出で溢れている。
春は御桜丘にお弁当やたくさんのお菓子とジュースを持ち込んで、満開に咲く桃色の世界でお花見をした。
夏は遠出をして海へ。朝から晩まで遊んで、帰りの電車でみんな揃って寝落ちて見知らぬ駅に到着していたこともあった。
秋はスポーツをしたり、読書をしたり、焼き芋パーティーをしたり。秋にちなんだことを全部やった。
冬はみんな寒がりだから炬燵でぬくぬく。でも雪が降った日には童心に戻って雪合戦をしたり、雪だるまを作って遊んだ。
時間と共に巡る季節。その全てにみんなとの思い出がいっぱいある。
とも君。かず君。あーちゃん。そして、わたし。四人で過ごした時間は本当にかけがえのないもので、何よりも代えがたいわたしの大切な思い出。
大好き──。
みんなのこと、大好きだよ──。
何度も伝えたいと思って、何度も飲み込んだ言葉。
心の中では数えきれないくらい何度も言えた。
なのにどうしても言葉にすることが出来なかった。
でも、そんなわたしとは違って、あーちゃんは気持ちに真っ直ぐだった。
事ある毎に……と言ったら言葉は悪いかもしれないけど、いつでも、どこでも、どんな時でも、わたし達に『大好き』と伝えてくれた。
心からすごいなって思った。
わたしには言葉で気持ちを伝えることなんて出来ない。
元よりわたしは人とコミュニケーションを取ることが苦手だった。
小学生の時も、中学生の時も、クラスメイトとはろくに話すことが出来ず、ともくん達が居ない時はいつだって一人だった。
けど、それで良かった。
わたしには幼馴染のみんなが居てくれる。それだけで幸せだった。
だからこそ、『大好き』の言葉を伝えられないのが──悲しかった。
ある日、クラスの男の子の会話が耳に入ってきた。
普段ならば全く気にしないのに、その日はどういうわけか会話の内容がとても気になったのだ。
内容は思春期の男の子ならば当然のちょっとエッチな会話。
このアダルト動画が良かった。ここの女優さんの表情が最高だった──とか。女子が聞いたらドン引きしそうな会話。でもわたしは違った。食い入るようにその会話に耳を傾けていた。
エッチなことは好きな人同士で行う特別な行為。
知識として知っているだけで、中身をわたしに何も知らない。だから、聞けば聞くほど、気になって仕方なくなっていく。
その日の夜、わたしはクラスの男の子たちが話していたアダルト動画のタイトルを鑑賞してみることにした。今のご時世、スマホさえあれば何だって調べることができる。さほど苦労することもなく目的の動画を見つけることができたから、そのまま期待を込めて動画を開いて鑑賞した。
──……すごい──。
一時間ほどの動画を見終わったあと、わたしは興奮を隠しきれないでいた。
画面の中の男女は身体をまさぐり合い、キスを交わして情事に励む。愛していると言い合う場面もあったけれど、ほとんどは身体の混じり合いで愛を確かめ合っていた。
その表情を──。
身体を伝う汗を──。
抑えきれない嬌声を──。
溺れるくらいの圧倒的な快楽を──。
見て、聞いて、感じて──わたしは確信した。
ああ、これも愛の形なんだって。あーちゃんの伝え方とは違う愛の形。
──ねぇ、かず君。わたしと、しよ?
その日の夜、わたしはかず君を誘った。
一刻も早く『大好き』を伝えたくて。
一刻も早く、絆を交わしたくて。
かず君は戸惑っていたけれど、わたしを受け入れてくれた。
それがわたしとかず君が初めてエッチをした日。
初めては痛くて苦しかった。
でもそれ以上に──わたしは満たされた。
かず君が求めてくれるのが嬉しくて、気持ちよかった。
肉体的にも、精神的にも、これまでにないくらい満たされた。
……ああ。やっと見つけた。
言葉を使わずとも、身体を使えばわたしも『大好き』の想いを伝えられる。
愛も伝えられるし、絆も感じられる特別な行為。
信頼関係が合ってこそ出来る、これ以上にない特別なやり方。
他の人に同じことは出来ない。大好きな幼馴染にだからこそ出来る。
あーちゃんとは違う、わたしだけの『大好き』の伝え方。
大好きな幼馴染に送る、絶対的な信頼の証明。
信頼の証明に恋愛感情なんて必要無い。
恋愛感情が無くても『大好き』は伝えられる。
身体の繋がりこそが、わたしにとっての大好きの証明。
誰になんと言われようと構わない。
わたしは、わたしのやり方で『大好き』を伝える。
例えそれが──普通ではないと分かっていても。
to be continued
次回の更新は『12/20 21時』です。