第09話『放課後 ②』
「さて。話が一段落したところで愛桜。この後何か用事はある?」
「特に無いです! あ、もしかしてもしかして! もしかしちゃいますか!」
「うん。愛桜の歓迎会をみんなでしようと思うんだ」
「わーっ! 嬉しいですっ!」
想像していた通りの可愛らしい笑顔で喜びを表現する愛桜。授業中にみんなでメッセージを送りあって企画した甲斐があったと思える。
「街で遊んで交流を深めた後に、瑠璃の家にお邪魔して夕食だよ。瑠璃、とびっきりのご馳走を頼んだよ」
「ふふ、私を誰だと思っているんですの。既に手配済みですわ」
藍色の髪をお嬢様らしくサッとかきあげると、その勢いのまま愛桜の方へ体を向ける。
「愛桜さん。今日は腕の立つ料理人にご馳走を用意させています。期待してくださっていいですわよ」
「料理人!? 瑠璃ちゃんの家ってもしかしてお金持ちなんですか?」
「ま、まぁ。えーっと、その……こほん。自分で言うのは何だか恥ずかしいので和也さん、お願いします」
ササッと和也の後ろに隠れる瑠璃。
うん、まあ、ツンツンした態度を取らないように頑張った方かな? 愛桜と仲良くしたいという気持ちの表れだろう。他のクラスメイトだったらこうはいかない。
和也もちゃんとその事を理解しているから、嫌な顔一つせずに愛桜に話し始める。
「星ノ宮さんは──」
「あ。愛桜でいいですよ? 私も和也くんって呼ぶので!」
「……お、おう」
出鼻をくじかれた和也だったが、気を取り直して再度口を開く。
「愛桜は瑠璃の苗字に聞き覚えがあったりしないか?」
「瑠璃ちゃんの苗字って九條でしたっけ? ……え、もしかして九條って、あの九條財閥の?」
「ご明察。瑠璃は九條財閥のお嬢様だ。近寄り難い雰囲気があるが、普通の女の子だから愛桜も仲良くしてあげてくれ」
ぽんぽんと瑠璃の頭を優しく叩く和也。瑠璃はというと、そんな子どもをあやすような対応にちょっと不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「ちょっと和也さん? その言い方だとまるで私が傍から見ると普通じゃないみたいに聞こえるんですけど?」
「俺たちから見たら普通だ。でも、お前他のクラスメイトが話しかけてくれた時とか酷いじゃん」
「ぐっ。あ、あれは緊張して……ちょ、ちょっとだけキツい対応をしてしまうだけですわ」
ちょっとだけ……ね。あれはちょっとやそっとじゃ済まないような態度だと思うけど。
クラスメイトからしたら俺たちのグループに瑠璃がいることが不思議で仕方ないだろう。瑠璃は俺たちとは正反対の人間。平民と貴族みたいなものだ。
でも俺たちにとっては瑠璃だって何処にでもいる普通の女の子。だから九條財閥のお嬢様ではなく、クラスメイトの女の子として接している。それが俺たちと他のクラスメイトの違い。お嬢様だと思って接してしまうから瑠璃もまたお嬢様として対応してしまう。
何事も見方次第なんだ。別に瑠璃に限った話じゃない。思い込みで物事を判断してはいけない。目に見えているものだけが真実とは限らない。それだけのこと。
「とまぁ、話してみても分かるだろ? 瑠璃は瑠璃。普通の女の子だ。変に特別扱いする必要は無い。そっちの方が瑠璃も嬉しいだろうからさ、愛桜も普通に接してあげてくれ」
「和也さん……」
和也なりの優しさだろう。
朝、瑠璃は愛桜と仲良くしたいと言っていた。人付き合いが苦手な瑠璃が愛桜と友達になれるようにフォローしてあげているのだ。
「言われなくても普通に接しますよ。だってもう友達ですから」
そう言いながら右手を差し出す愛桜。その意味が分からない瑠璃じゃない。緊張はあるけど、嬉しそうにその手を取った。
「ありがとうございます、愛桜さん。仲良くしてくださいね」
「はいっ! こちらこそよろしくお願いします!」
仲睦まじい二人の姿を見て、俺はもう大丈夫だと確信した。
to be continued