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嘘と約束の鎮魂歌  作者: 心音
夏の章
113/171

第103話『賑やかな日常』

Another View 涼香



「……♪」


 みんなが楽しそうに今年の夏の計画を練っている。

 そんな中、わたしは会話には参加せずに、目の前に広がる最高に素晴らしい光景を写真に収めていた。


 スリーティアーズと呼ばれるアフタヌーンティーを楽しむ際に使う三段皿の菓子置きスタンド。そこに並べられるお菓子は洋菓子が基本なのだが、甘狐処は和菓子専門の喫茶店。だからもちろん洋菓子の代わりに、たくさんの和菓子が並べられている。

 ここのスタッフさんがわたしの為にと特別に用意してくれたらしい。普通のお皿で来るよりも可愛いし、写真映えもする。いろんな角度から写真を撮るわたしからは、幸せオーラがこれでもかというほど出ているに違いない。


 ある程度枚数を撮ったところで、店内の照明に反射して宝石のようにキラキラと輝く金色のタレがかかったみたらし団子を食べながら、SNS投稿用の写真選別を始める。

 味覚も視覚も和菓子でいっぱい。どうせ計画の話し合いはまだしばらく続くだろう。もうしばらくは自分の世界に入り込んでいても問題は無い──と、そんなことを思いながら、二本目の団子に手を付けようとした時、不意に鳴海さんに話を振られた。


「──ってことで、すずちーはどうする?」


「え? あ、うん。いいよ?」


 反射的に答えてしまったが、一体何の確認だったのだろう?

 隣にいるとも君に訊ねてみようと振り向くと、信じられないモノを見るような目でわたしを見つめていた。


「……え?」


 あ、あれ? わたしもしかして……やらかした?

 慌てて他のみんなの反応を見ると、疑問符を頭に浮かべている星ノ宮さんを除く全員が驚愕の表情をしていた。そう、確認をしてきた鳴海さんですら『えっ?』と言いたげな顔でわたしを見つめている。


「あ、うん。まぁ……すずちーが良いって言うならうちも大丈夫だよ」


「え、あ。ちょっと待っ──」


 話についていけなくなる前に何の了承だったのか確認しようとしたのだが、わたしの声は虚しくも星ノ宮さんがパンっと両手を合わせた音と、テンション高めな明るい声に掻き消されてしまう。


「みんなの了承を取れたので決定ですねっ! 私、絶対にこのメンバーで肝試しをしたら楽しいと思っていたんですっ!」


 たらりと、背筋に嫌な汗が流れる。


 ………………肝試し?

 え、今……肝試しって言った……?


 わたしは怖いものがあまり得意では無い。いや、はっきり言おう。苦手だ。

 作り物のお化け屋敷ですら入ることを全力拒否するレベルなのに、本物が出るかもしれない肝試しなんて言語道断。しかし、テンションが最高潮に上がっている星ノ宮さんに今更やっぱり無理とはとても言いづらい。


「あのさ、愛桜。盛り上がっているところ悪いし、最初に言わなかった俺たちも悪いんだけどさ」


 青ざめているわたしを見て、とも君が気を利かせようとしてくれている。


「涼香は怖いものが苦手なんだよね。多分和菓子に夢中でちゃんと話を聞いていなくて、流れのままに頷いちゃっただけだと思うんだ」


 それを聞いた星ノ宮さんは、申し訳なさそうにわたしの方へ振り向く。


「そうだったんですね……。さすがに無理強いはできないので別の案を考えますねっ!」


 語尾を明るくして問題無いとアピールする星ノ宮さん。しかし、内心はしょんぼりしているようで、表情が上手く隠しきれていなかった。だからだろう。落胆する星ノ宮さんを見た瞬間、わたしは咄嗟に口を開いていた。


「い、いいよ? 肝試し、やろうよ」


 普段の自分ならば絶対にしない発言。わたし自身、どうしてそう答えてしまったのか分からない。らしくないことをしている自覚はあった。その証拠に、わたしのことをよく知っているとも君とかず君は、先程以上の驚きを露わにしている。


「ほ、本当にいいんです? 無理なら無理って言って大丈夫ですよ……?」


「無理はして──なくない。けど、星ノ宮さんの思い出作りをしたい」


「え?」


「星ノ宮さん、お花見の時に言っていたよね。交友関係を築いてこなかった。人を信じられなかったって。そんな星ノ宮さんが、わたし達という友達を作った初めての夏。ぽっかりと空いた隙間を全部埋められるくらい、たくさんの思い出を作ってあげたい」


 これはその場しのぎの発言では決して無い。


「だから、いいよ。わたしも星ノ宮さんとの思い出を作りたいから」


 これは紛れもなくわたしの本心からの言葉だ。


「涼香ちゃん……っ!! 良い人過ぎですぅぅぅ!! 私も涼香ちゃんと思い出いっぱい作りたいですっ! あ、ギューしていいですか? ありがとうございますっ、しますねっ!!」


「ちょ、ま。一人芝居しないで。わたしはまだ許可出して──」


「涼香ちゃーーーーーんっ!!」


「ひゃぁぁぁぁああああ!!」


 ドタバタとした賑やかで楽しい日常。

 こんな日々がいつまでも、いつまでも、続けばいい。でも──






 ──きっといつか、瓦解する。

 だってわたしは──悪い女の子だから。






to be continued

次回の更新は『10/30 21時』です。

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